美少女の正体
長い金髪が短くなったが、少女の可愛らしさは変わりなかった。むしろ髪の色が淡くなったことで儚さが増したように見える。
そんな少女の姿を見て朱羅が思い出したように訊ねた。
「何故、そんな格好をしているんだ?」
その質問に少女があからさまに不機嫌な表情で答える。
「仕方ねえだろ。急だったから女のパスポートしか用意出来なかったんだ」
「女のパスポート?」
不思議な言葉にディーンが首を傾げる。だが、そんなディーンを無視して朱羅が会話を続ける。
「別にカツラなど被らなくても、いつも素で女性に間違えられるだろ」
「うるさい!」
二人の会話を聞きながらディーンは俯いて呟いた。
「素で女性に間違えられる……つまり女ではない……」
ディーンは言葉の裏にあるものを理解すると同時に叫んでいた。
「そいつ男なのか!?」
ディーンの言葉に少女の格好をしていた少年が怒鳴る。
「正真正銘、男だ!」
怒鳴られてもディーンは口を開けて絶句しているため返事がない。
完璧なまでの可愛らしさを装備した外見で男とは、確実に世界中の女性を敵にまわすであろう。そして、真実を知って嘆く男も多いだろう。
その中の一人であるディーンはへこんでいた。少しでも少女の将来像を想像して楽しみに思ってしまった自分に。
そして、衝撃のあまりディーンはつい興味本位で訊ねていた。
「……どういう関係だ?」
事故以降ずっと朱羅のそばにいたが、二人が会っている姿を見たことはない。だが、様子を見ていると付き合いは長いように思える。
ディーンの質問に朱羅はどこか嫌そうに答えた。
「腐れ縁だ」
一言で済ました朱羅に対して、少女の格好をしていた少年がディーンに握手を求めるように手を伸ばす。
「オーブ・クレンリッジだ。オーブって呼んでくれ。ま、月って呼ばれるほうが多いから本名で呼ばれても反応が鈍いときがあるけどな」
淡い満月の髪に大きなムーンライトブルーの瞳。確かに月という名はピッタリだ。
だがディーンは手を握ることなく、オーブが男だと知ったとき以上に驚いた表情をした。
「……英国の月か?」
「知ってたか」
オーブは悪戯が見つかった子どものように笑ったが、ディーンは笑えなかった。
英国諜報機関に凄腕の諜報員がいるという話は聞いていた。誇張としか思えない噂の数々も。ただ、星の数ほどの噂はあるのに外見、年齢、性別、全てが謎だった。
そんな伝説の存在となりつつある人物が目の前にいる。
この話を知っているのは、ある筋の人間だけであるためオーブの年齢で知っているような話ではない。それがまた真実味を持たせるが、本人を見ると、どうしても疑いが強くなる。
半信半疑のディーンに朱羅が声をかけた。
「害はないが腕は本物だ。怪我をしたくなければ手を出すな」
そういえば、ここにも月と同様のデタラメな存在がいた。そう考えると合点がいく。
「悪ガキの仲間か」
ディーンは直感でそう理解すると小さくため息を吐きながらオーブへ手を伸ばした。
「ディーン・V・ヴィスだ。ディーンでいい」
「おう。よろしくな、ディーン」
オーブが爽やかな笑顔で握手をする。
感情の起伏が激しいが、よく観察していれば、それはワザと大げさにリアクションをして楽しんでいるようにも思える。それは、その裏にある広い心と余裕がなければ出来ないことだ。
十代前半の少年には似合わない心の深さを秘めているが、オーブの人懐っこい雰囲気がそれを消している。それを感じ取ったディーンは朱羅よりオーブの方が好印象に思えた。
挨拶を終わらせた二人に朱羅が声をかける。
「そろそろいいか?始めるぞ」
「ああ。ところでエネルギー源なんだが……」
これまでの冗談半分の空気が嘘のようにオーブが真剣な表情で話を始める。
ディーンはそれ以上、何も言わず静かにドアの隣に立ち、作業をする二人を見守った。




