義眼作成
走り回ったディーンがたどり着いた部屋には何処からどうやって持ってきたのか、アタッシュケースに入った機材が山のように詰まれていた。中心には機材に隠れるように朱羅が作業している。
ディーンはゼーハーと肩で息をしながらも、朱羅の無事な姿を確認して安心したようにドアにもたれかかった。
「おまえ……電話に出ろよ……なんのための携帯電話だ?」
汗だくのディーンだが、朱羅はそれを見ることなく、いつもの口調で言った。
「安静にしていろと言っただろ。傷が開くぞ」
朱羅はアタッシュケースの中身を一つ、一つ確認しながら慎重に取り出していく。
その淡々とした姿に怒鳴る気力もないディーンはその場にへたり込んだ。
「あのなぁ……」
力尽きたディーンに朱羅が少しだけ優しさを見せる。
「俺はここにいるから隣の部屋を借りて休め」
「そうじゃないだろ……」
ディーンが深くため息を吐く。
「なら、そこで寝てろ。俺は忙しい」
これ以上は話す時間さえ惜しいという雰囲気を発しながら朱羅が作業を進めていく。
その様子にディーンは全ての文句を飲み込んだ。
「…………わかった」
ディーンは怪我をした腕でこの広い病院を駆け回ったため疲れていた。言われた通り、その場で琥珀の瞳を閉じて、すぐに眠った。
六時間ほど寝たディーンの目覚ましは意外なものだった。
「オラ!ご要望どおり来てやったぞ!!」
怒鳴り声とともに乱暴にドアが開く。しかも開いたドアはコントのごとくディーンの頭に直撃した。
「痛っ……」
右手で頭を押さえているディーンに頭上から声がかかる。
「あ、悪い」
ディーンが痛む頭を押さえたまま顔を上げると、サラサラの長い金髪に、象牙のような白い肌と大きなムーンライトブルーの瞳をした十一、二歳ぐらいの美少女がいた。まだ、どことなく幼さが残っているが、あと十年もすれば世界中が注目する美女になるだろう。
絵画に描かれたような美しさと華やかさを持つ少女に視線が釘付けになっているディーンの頭上を他の声が飛ぶ。
「悪いな、急に呼び出して」
朱羅の言葉に少女が可愛らしい顔を歪ませる。
「悪いと思うぐらいなら呼ぶな」
「だから謝っているだろ」
その尊大な態度は、どう見ても謝っているようには思えない。だが少女も負けじと態度を大きくする。
「当たり前だ。どれだけ大変だったか分かるか?」
「さあな」
朱羅に軽く一蹴されて少女が純粋に怒って机を叩く。
「てめぇ、この格好を見て分かれ!」
可愛らしい少女には少々似合わない言葉使いに動作。その様子を観察しながらディーンはゆっくりと体を起こした。
堂々と朱羅と喧嘩している姿と美しい外見につい油断しがちだが、ディーンは少女の懐に入っている銃、体の各部分に隠されたナイフなどの武器に気づいていた。
警戒しているディーンに気づいているのか、いないのか、少女は持ってきたカバンを無造作に机の上に置いた。そして、ディーンを見ると口角だけを上げてニッと笑った。
「危ないものは入っていないから気にするな。持っている武器は全部、護身用だ」
その言葉にディーンの琥珀の瞳が丸くなる。その様子を横目で見ながら少女が朱羅に訊ねた。
「で、こいつ誰?」
「俺の護衛だ。名前はディーン。見ての通り頭は悪いが、護衛としてのセンスだけはいい」
「おい!」
けなされ、褒められの内容に思わず声をあげるが朱羅はしれっと反論を封じた。
「事実だろ。それとも頭はいいのか?」
「うっ……」
何も言えないディーンに少女が同情の目を向ける。
「かわいそうにな。こんなヤツのSPやってるなんて。態度はでかいし、ガキらしくないし……」
少女の言葉にディーンは素直にうん、うん、と頷いていたが、次に発せられた言葉を聞いて思わず頭を壁にぶつけた。
「たまに殺したくなるだろ?」
「いや、そこまでは……ないな。今のところ」
言葉に微妙な間があったが、朱羅は気にすることなく少女を呼んだ。
「とりあえず必要だと思われる物は揃えた。足りない物があれば言ってくれ」
少女は朱羅の前に並べられた精密機材の数々を面白そうに眺めながら笑う。
「なんでも、かんでも金を出して揃えればいいってもんじゃないぞ。要は発想と工夫でどうにでもな…………おっ!?こんな物まで手に入れたのか?さすがアクディル財閥だな。あとは……」
少女が小声でブツブツ言いながら機材を一つ一つ確認していく。その瞳は子どもが玩具を貰ったときのように楽しそうに輝いている。
そこに朱羅が声をかける。
「あと、時間だが……おい?」
朱羅の声に少女の反応はない。というか気づいてないのだ。
「おい、オーブ・クレンリッジ!」
フルネームを呼ばれても返ってきた返事はワンテンポ遅れていた。
「……ん?あ、悪い。なんだ?」
返事をしつつも少女の視線は機材に向けられたままだ。
朱羅は一息ついて重要なことを言った
「明後日の朝までに仕上げるぞ」
「……は?」
大きなムーンライトブルーの瞳が翡翠の瞳を見る。朱羅がもう一度、念を押すように言った。
「明後日の朝までだ」
「……本気か?」
「そうだ」
少女は視線を少し伏せた後、苦笑いをして朱羅を見た。
「それ以上は、これを埋めこむヤツの命が危ないってか?」
「ああ」
少女は渋い表情で考え込んでいるが瞳は輝いている。
「……面白い」
まるで賭けを楽しんでいるような笑みにディーンの眉が動く。仮死状態となり今にも消えそうな命の火を灯して眠るリルの姿が脳裏に浮かんだ。
「なにが面白いんだ?こっちは命がかかってるんだぞ」
怒りを抑えたディーンの声に少女が素直にすまなそうな顔をする。
「あぁ、悪い。だが任せろ。要望どおりの物を完成させてやる」
そう言って少女は長い金髪を掴んだ。そのまま金髪が頭から流れ落ち、カツラの下から現れたのは満月のように淡い金髪だった。




