狙撃
不機嫌丸出しのディーンが二人を見て低い声で言った。
「テメーら、どういうつもりだ?」
怒鳴りはしなかったが確実に怒っているディーンをリルが笑顔でなだめる。
「まあ、まあ。朱羅様に怪我はありませんでしたから。あの箱は大丈夫ですか?」
「知るか!」
ついに怒鳴ったディーンに朱羅が冷静に言った。
「知るか、では困る」
「あぁ?」
朱羅にディーンがブチ切れ寸前の顔を向けようとして動きが止まる。
ディーンの視界の端で何かが光った。琥珀の瞳が反射的に光の元を探す。そしてビルの屋上を見て叫んだ。
「伏せろ!」
ディーンの声に反応して、リルが朱羅を抑えつけるように屈む。ディーンの視線の先には、ビルの屋上から、こちらに向けてライフル銃を構えた男の姿がある。
ディーンが懐から銃を取り出すが、銃弾は一直線にこちらに向かって飛んでいた。ディーンは朱羅とリルの前に飛び出しながら、銃弾が飛んでくると思われるところに腕を伸ばす。
音もなくディーンの左腕に激痛が走るが、同時に右手に握っていた銃を撃った。
ディーンの撃った弾はライフル銃に命中して、男が後ろにのけ反るように倒れた。
その姿を確認しながらディーンは血が噴出している左腕を押さえる。
「しばらく左腕は使えないな」
長いスローモーションのような数秒間が終わり、周囲から悲鳴や叫び声が響く。
何事かと集まってくる人々にウンザリしながら、ディーンはリルと朱羅の無事を確認するために振り返った。
「おい、怪我は……」
と、言葉はそこまでしか続かなかった。
ディーンの目の前には朱羅の腕の中に倒れているリルの姿がある。左目にいつもの薄い蒼色の瞳はなく、真っ赤な血が涙のように流れていた。
「おれ……腕で受けたよな?なんで、こいつが倒れてるんだ?なんで、こいつの目がないんだ!?」
何が起きたのか、目の前で見ているのに理解できないディーンは、気がついたら思っていたことを口にそのまま出していた。
頭が真っ白になっているディーンに朱羅が説明する。
「銃弾が腕を貫通してリルに命中した。アクディル財閥の病院へ搬送する」
それだけ言うと、朱羅はディーンから視線を外して携帯電話を取り出した。
「緊急だ。ディーンとリルが撃たれた。場所は……」
あまりにも落ち着いた朱羅の声にディーンの頭が冷えた。
ディーンはベルトで自分の腕を絞めて止血をすると、リルのネクタイをゆるめてシャツのボタンを外す。
そこに朱羅が指示を出した。
「すぐに救急車がくる。頭を固定してから移動させるから、それまで動かすな」
「わかった」
ディーンは近づいてこようとする野次馬を視線で威嚇しながら周囲を警戒する。
電話を終えたはずの朱羅が再び何処かに電話をかけた。
「わかるか?俺だ。頼みがある。これから言うものを持って、すぐに来てほし……」
朱羅の言葉が終わる前に電話から怒鳴り声に近い大声が響く。主にふざけるな!や、無理だ!という、わめき声に近い言葉だ。
そんな相手に対して朱羅は冷静に説得を続ける。
「わかっている。そこをどうにかしてほしい。君の力が必要なんだ」
朱羅の冷静な中に必死さがこもった言葉に電話の相手が黙る。
そこに救急車が到着して救急隊員が担架を持ってきた。朱羅は電話で会話の続きをしながら、救急隊員に指示を出してリルを慎重に運ばせる。
「では、頼む。詳しい場所は後で連絡する」
朱羅は電話を切るとディーンを見た。
「行くぞ」
「あぁ」
救急隊員に左腕を固定させられディーンは朱羅の後ろについて救急車に乗り、そのまま病院へと移動した。




