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もと天使たちの過去話  作者:
翡翠が求めるもの

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誘拐未遂

 有名ブランドの紙袋や箱を大量に持ったディーンがゲンナリとした顔で歩く。その隣を満足そうな笑顔のリルと、無表情なのだがどこか疲れたように見える朱羅が歩いていた。


「おい、もういいだろ。これ以上は持てないぞ」


 その言葉にリルはディーンの姿を見て少し残念そうに言った。


「そうですね。朱羅、他にいるものはありますか?」


「……ない」


 この一日で確実にやつれた朱羅は着せ替え人形をさせられながらも、店を移動する途中でしっかりと自分の目的のものは購入していた。


 人通りの多い大通りを歩いていたディーンは駐車場まであと少しというところでリルに小声で話しかけた。


「おい、どうする?」


 その言葉にリルが珍しく表情を曇らせる。


「困りましたね。この荷物ですし」


「走るか?」


 もちろん、この大荷物を持っていては早く走れない。この場に荷物を全部捨てて走るということだ。


 リルがため息を吐きながら頷く。


「仕方ありません。服はまた買えますから、今回は諦めましょう」


 それは、あの着せ替え人形やらされるということであり、それを想像したディーンは思わず顔を引きつらせた。しかし、今はそれどころではない。

 ディーンが再び着せ替え人形になる覚悟を決めたところで、意外な意見が入った。


「車を出してろ。あいつらの狙いは俺だけだ」


 そう言って朱羅は今までずっと持っていたラッピングされた小さな箱をリルに渡した。


「壊れやすいから気をつけろ」


 そう言って朱羅が走り出す。その姿にディーンが慌てた。


「一人になるな!おい!」


 ディーンの掛け声を無視して朱羅は細い裏路地に入っていった。その後を数人の男達が追いかけていく。


 その光景にリルが朱羅に渡された小さな箱をディーンに渡す。


「これ、お願いします。壊さないで下さいよ。この先の通りで待っていますから車を回して下さい」


 そう早口で言うとリルも走り出した。


「おい!クソッ!」


 ディーンは自分を拘束している大荷物に対して盛大に舌打ちをすると、預かった小さな箱に振動を与えないよう小走りで駐車場へ向かった。






 細い路地を走る朱羅に向かって男達が叫ぶ。


「待て!!」


 その声に朱羅は足を止めることなく少しだけ振り返って追いかけてくる男達を見た。

 武器で攻撃してこないところを考えると、無傷で捕まえたいようだ。そうなると目的は身代金か、他の何か、か。


 朱羅はそう考えながら横にあるビルの壁を蹴った。小さな体が宙を舞い、追いかけてきた男達の背後に着地する。


「なっ!?」


 子どもとは思えない朱羅の動きに男達が慌てて振り返る。そして、そのまま一斉に全員が固まった。


 男達の瞳に朱羅のアイスブルーの目が写っており、全員が茫然とその瞳に魅入っている。


 朱羅は落ち着いた様子で堂々と言った。


「我は真実の名を唱える者」


 先ほどまで必死に朱羅を追っていたのが嘘のように男達が黙って次の言葉を待っている。


「汝に問う」


 その言葉に男達の体がビクリと跳ねた。


「何故、我を追う?」


 朱羅の問いに男達が声を揃えて答える。


「誘拐するため」


「目的は?」


「身代金。テロ資金にするため」


「何故、我を狙った?誰の指示だ?」


「金持ちの子どもなら誰でもいいから誘拐してこいと、リーダーに命令された」


 予想範囲内の答えに朱羅が次の質問をする。


「我と同じ瞳をした者を見たことはあるか?白髪に白い服を着た、名はルシファー」


「ない」


 一番確認したかったことを聞き出し、朱羅は半分安堵しながら次の言葉を言った。


「汝の記憶に命じる」


 朱羅が袖から隠していた警棒を取り出す。


「全てを忘れよ」


 言葉が終わると同時に、朱羅が男達の間を駆け抜ける。そして朱羅が足を止めたときには背後で男達がバタバタと倒れていた。


「ふぅ……」


 朱羅が肩の力を抜いて周囲を確認していると、拍手が聞こえてきた。


「お見事です」


 少し息を切らしたリルがパチパチと軽く手を叩きながら朱羅に近づいてくる。朱羅はリルが手ぶらであることを見て少し眉間にしわをよせた。


「あの箱は?」


「ディーンに預けました」


 その言葉に朱羅があからさまに眉間にしわをよせた。


「壊していないだろうな?」


「……どうでしょう?」


 苦笑いするリルに朱羅がため息を吐く。


「仕方ないか」


 そう言いながら警棒を縮めて袖の中に収める。


警棒(それ)は、どうでした?」


「まずまずだな。ただ、もう少し軽量化できればいいのだが」


「それは今後の課題にします。こいつらはどうしますか?」


「警察に任せる」


「わかりました。ディーンが車を回してきますので行きましょう」


「ああ」


 朱羅は歩きながら軽く自分の手を見た。微かに痺れた感覚がある。


「リル、頼みがある」


「なんですか?」


「手合わせの時間を増やして欲しい」


 毎朝ディーンが射撃練習を日課にしているように、朱羅も自衛と体力強化のため、毎日リルに剣道と合気道の手合わせをしてもらっている。ただ最近はフェンシングやボクシング、柔道から少林寺など古今東西のあらゆる武術を独学で勉強していた。

 それに加えて食事や睡眠時間を惜しんで勉強しており、二十四時間をフルに活用している。そんな朱羅に余暇などの時間はなく、今回の買い物も朱羅が言いださなければ出来なかったぐらいだ。


 リルは少しだけ表情を険しくして言った。


「いいですけど、睡眠時間は減らせませんよ。するなら勉強時間を減らして下さい。あと、もう少し基礎体力をつけた方がいいですね」


「……わかった」


 人のざわめきが近づいてくる。

 細い路地を抜けると目の前に一台の車が止まっており、助手席のドアの前には不機嫌丸出しのディーンが立っていた。



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