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もと天使たちの過去話  作者:
翡翠が求めるもの

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生存者

 ヘリコプターが滑走路に到着すると同時に、中から一台のストレッチャーが降ろされた。ストレッチャーは布に包まれているため誰が乗っているかは分からないが、布の膨らみからして大人のように見える。


 そのままストレッチャーは人目を避けるように素早くジェット機の中へ搬送された。


 ストレッチャーを床に固定をして、ジェット機がすぐに離陸をする。


 医療スタッフが酸素や点滴、電気ショックなどを準備している中、綺羅は息を飲んでストレッチャーを包んでいる布のファスナーに手をかけた。


 それを白く伸びた指が止める。


「お待ち下さい」


 綺羅が顔を上げると固い表情をしたリルが立っていた。


「もしものことがあってはいけません。私がいたしますので、お下がり下さい」


 それは、この中にいるのが墜落事故の生存者ではなく、綺羅の命を狙う者である可能性があるということだった。


 リルの助言に綺羅は瞳を伏せると無言で一歩下がった。代わりにディーンが自分の体を盾にするように綺羅の前に出る。


「開けます」


 リルは周囲に宣言すると、ゆっくりファスナーを下ろした。


 ファスナーの隙間から銀髪が光輝く。白い肌は血と煙で黒く汚れているが、外見上は傷などなかった。


「……アクセリナ…………」


 綺羅が近づこうとした時、布の一部が動いた。


 慌ててディーンが懐の銃を構える。


 その場にいる全員に緊張が走る中、布の中から小さな男の子が出てきた。男の子は周囲の人間を見て、その年齢には相応しくない口調で説明をした。


「あまり人に姿を見られたくなかったのと、生存を知られたくなかったので、こうさせてもらった」


 子ども特有の少し高い声なのだが落ち着きすぎている。


 男の子は茫然としている周囲を無視してストレッチャーから飛び降りた。


 そして口が半開きになっているディーンを避けると、綺羅の前に立って頭を下げた。


「すまない。助けることしか出来なかった」


 男の子の言葉に綺羅は翡翠の瞳を丸くした。男の子の雰囲気や行動にではなく、言葉の内容にだ。


 綺羅は震えながらも、なんとか声を絞り出した。


「……生きて……いるのか?」


「ああ。だが、どこまで回復するかは分からない」


 淡々とした男の子の言葉を疑うように綺羅はアクセリナに手を伸ばして頬に触れた。冷たいが確かに脈打っている。


「……十分だ。ありがとう……」


 現実を確認した綺羅は、処置を開始した医療スタッフの隣でアクセリナに縋りつくように顔を伏せて大声で泣き出した。


 男の子は綺羅の行動に驚くことなく普通にリルへと視線を移すと、ゆっくりと頭を下げた。


「彼女が庇ってくれなければ俺達は死んでいた。礼を言う」


 その言葉にリルは薄い蒼の瞳を少しだけ細めた。


「ご無事でなによりです。彼女も誇らしく思っているでしょう」


 リルの言葉にも男の子は頭を上げない。一層、深々と頭を下げた。


「……本当にすまない」


 頑なな態度の男の子にリルが首を横に振る。


「いえ、これが仕事ですから。お気になさらないで下さい」


 そこに一通りアクセリナの処置を終えた医師が、子どもらしくない男の子に声をかける。


「坊主、ケガはあるか?どこか痛いところは?」


 その問いに男の子は顔を上げて医師を見た。金茶色の髪をした豪快な雰囲気をした五十歳代ぐらいの男だ。


 男の子は軽く首を横に振った。


「ケガはない。それより休ませて欲しい」


 その言葉に綺羅がようやく顔を上げて真っ赤になっている目をこすった。


「こっちに来い。話もあるからな」


 そう言って綺羅が紅茶を飲んでいた部屋へと入って行く。


 リルも当然のように入って行くが、ディーンはドアのところで入るか戸惑った。そこに涙まじりで鼻声状態の綺羅が声をかける。


「ディーンも来てくれ」


 呼ばれてディーンが部屋に入ると、綺羅と男の子が向かい合うようにソファーに座っていた。


「すまないな、こんな顔で」


 目と鼻を赤くしている綺羅は、反対側のソファーに座った男の子を見ながら笑った。


「だいたいのことはアクセリナから聞いていた。いつか、こうなる日がくることも。ただ、その時はおまえしか助からないと…………」


 と、言いながら再び綺羅が泣き始める。


 男の子が無言で綺羅を見ている中、リルが綺羅にハンカチを差し出した。


「ありがとう」


 綺羅はリルからハンカチを受け取ると、盛大に鼻をかんで話の続きを始めた。


「とにかく、俺も協力する。必要なことがあったら遠慮なく言え。ただ念のためSPを二人つけるが、アクセリナが選んだ二人だから問題ないだろ」


 綺羅の申し出に男の子は少しだけ翡翠の瞳を大きくして言った。


「……正気か?」


 綺羅は男の子のストレートな言葉を聞いて、面白そうに笑いながら(目と鼻は赤いまま)言った。


「子どものやりたいことを応援するのが親だろ。おまえがやりたいと言えば、俺はいくらでも協力する」


 その言葉に男の子が少し気まずそうにする。


「いや、気付いているだろうが俺は……」


 綺羅が男の子の言葉を遮るように口を挟んだ。


「おまえは今までのことを忘れたのか?この五年間生きてきた記憶を」


 綺羅の言葉の真意が読めず、男の子が返答に詰まる。


「……覚えているが」


 その答えに綺羅が満足そうに頷く。


「なら、問題ないだろ。おまえは俺とアクセリナの子どもだ。三番目だったから子育ても大分慣れたつもりだったが、それでもいろいろ大変なことはあった。けど、俺はちゃんとおまえを育てたんだよ。おまえは俺の息子だ。そうだろ、朱羅?」


 朱羅は額に右手を置いて力なく笑った。


「親バカだとは思っていたが、ここまでとはな」


「それでもいいだろ。で、これからどうするんだ?」


 俯いて少し悩んだ後、男の子は意を決したように顔を上げて言った。


「…………しばらく身を隠したい。ホテルでも、何処でもいい。記憶と力が完全に戻るまで、出来るだけセキュリティーがしっかりしているところで」


 綺羅が顎に手を置いて考える。


「そうだな。しばらくはパパラッチが嗅ぎまわっているだろうし。すぐに手配しよう。必要なものは揃えるから、何かあったらリルに言え」


 紅茶を運んできたリルが一礼をする。


「で、あっちがディーン・V・ヴィスだ。ディーンと会うのは初めてだろ」


 いきなり話を振られてディーンが慌てて頭を下げる。だが朱羅は興味なさそうに綺羅に視線を戻した。


 その姿にディーンは思わず心の中で、かわいくねぇ!と叫んだ。


 話し方、態度からして子どもらしい可愛さと無縁なのは分かるが、ここまで露骨に無下にされると腹が立った。


 ディーンから見た朱羅の第一印象は最悪だった。



アクセリナと綺羅の馴れ初めが気になった方は「世界中で鬼ごっこ」をお読み下さい。

二人の出会いから綺羅がアクセリナを口説き落とす?話を書いています。

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