待機
世界有数の財閥、アクディル財閥の自家用ジェット墜落事故はトップニュースとして世界中を駆け巡った。
テロか事故か詳細なことは一切不明であり、事故があった場所に一番近い空港には沢山のマスコミが集まってきた。SPと空港職員達は取材しようとする報道陣の対応に追われ、空港内は殺気を含んだ緊張感が漂っている。
だが、マスコミが一番取材したい人物である綺羅は空港内にはいなかった。
空港にいるマスコミを避けるためと、すぐに生存者の治療ができるように高度な救命処置がおこなえる機器をそろえた医療ジェット機の中で、綺羅は静かに連絡を待っていた。
同じ部屋には、どこかソワソワと棒立ちしているディーンと優雅に紅茶を注ぐリルの姿がある。
その姿を見ながら綺羅が残念そうに呟いた。
「当分、リルのうまい紅茶が飲めなくなるな」
綺羅の言葉にリルが音もなくティーポットをテーブルの上に置く。
「私より上手な方はいくらでもいますよ。後任への引継ぎは全てしておりますので、不自由はないと思います」
「どうだろうな?おまえを手放すのは惜しいが、おまえ以外にあいつを任せられるヤツはいないしな」
しょうがない、という言葉を紅茶とともに飲み込んで綺羅はディーンを見た。
「一緒にどうだ?美味いぞ」
綺羅の言葉にディーンの体が明らかに固まる。
「いえ、俺は……」
ぎこちない動きのディーンに綺羅が口角を上げる。
「なんだ?さっきのほうがリラックスしてたぞ。なに、緊張しているんだ?」
さっきも緊張していたのだが、今のこの状況にディーンはどうすればいいのか分からずに固まっていた。
綺羅は妻と息子が死んでいるかもしれない重苦しい状態のはずだが、当の本人は紅茶を飲んでリラックスしているように見える。だが、それはカモフラージュで実は心の中では、ひどく動揺しているのかもしれない。
ディーンは綺羅の心情が読めず、どう動いていいのかも分からず、救いを求めてリルを見た。だが、リルはもう一つのカップに紅茶を注いでいるため気がつかない。
綺羅が目の前にあるソファーを指差す。
「ほら、ここに座れ」
「いや……あの……」
「いいから、こっちに来て飲め。そんなんじゃあ、いい仕事はできないぞ」
「……はぁ」
力なく返事をしたディーンは綺羅の反対側のソファーに腰を下ろすと、リルが淹れた紅茶を飲んだ。
「ん?」
大きく開かれた琥珀の瞳に綺羅が満足そうに頷く。
「うまいだろ」
「はい」
これにはディーンも素直に返事をした。
紅茶というものを今まであまり飲んだことがなかったし、味の違いなど分からなかった。だが、これは確実に違う。茶葉そのものの味がしっかり抽出されているが苦味はなく、香りも豊かで後味もあっさりしている。
食い物は腹に入れば皆同じ、というのが持論だったディーンも初めて紅茶の味というものを知った。
そこに綺羅の携帯電話が鳴る。医療スタッフが待機している隣の部屋が騒がしくなってきた。
「わかった。こっちはいつでもいい」
リルが素早く紅茶のカップを片付ける。
綺羅は携帯電話を切りながらリルとディーンを見た。
「あと五分でアクセリナと朱羅がここに着く。二人を乗せたら、すぐに離陸するぞ」
「えっ?二人は生きて?」
綺羅はディーンの質問には答えず、隣の部屋へ行くと医師と話しを始めた。




