覚醒
男の子が瞳を開けると鉄の壁が何重にも折れ曲がり、周囲には煙が充満していた。
壁が割れて出来た微かな隙間から白い光が入ってくる。その先には林と白銀の雪の世界が見え、その中に人影があった。
男の子が激痛の走る頭で必死にその姿を確認する。
「あいつは……」
煙で視界がかすみ、はっきりとは見えない。周囲に溶け込むような白一色の姿をした人影は、残骸となった機体を見ると姿を消した。遠すぎて表情までは見えなかったが嘲笑された気がした。
「あいつが……」
男の子が体を動かそうとすると、頭上からポタポタと雫が落ちてきた。
顔を上げると女性SPがマリアと朱羅を守るように覆いかぶさり、その心臓には鉄の柱が突き刺さって血が流れ落ちていた。
「すまない……」
男の子は五歳とは思えない神妙な表情であやまると、本格的に体を動かし始めた。
小さな体は思ったより簡単に鉄材の隙間から出ることが出来た。問題は隣にいる銀髪の女性だ。微かに呼吸をしているが意識はない。そして周囲は機体の壁に囲まれて出口はなく、足下からはくすぶっている火が近づいてきている。
緊迫した状況だが、男の子に焦った様子はない。
男の子が平然と目の前の壁に手をかざすと、厚さ数十センチはある鉄の壁が飴のように溶け、人一人が通れるぐらいの穴が開いた。その穴から突き刺すような冷たい風が雪とともに機体の中に入ってくる。
次に男の子は銀髪の女性を挟んでいる鉄材に手をかざして溶かした。女性の体は上手く鉄材の隙間に収まっていたようで、目立った外傷はない。
男の子は女性の体を全身で担ぐと引きずりながら歩き出した。
ジェット機から脱出した男の子は銀髪の女性を担いだまま、雪をかき分けるように歩いていった。周囲は白銀の雪に埋もれているが、ジェット機が墜落した周囲だけ黒く焦げていた。
操縦席がある前側は山に突き刺さって原型をとどめておらず、男の子が乗っていた部分もほとんどが潰れていた。この状況で生存者がいるとは誰も考えないだろう。
そんな中、男の子は黙々と雪の中を歩き続けた。そして周囲に生えている木の中でも一際大きな木の陰に銀髪の女性を座らせたところで、ようやく男の子は木の陰から煙を上げているジェット機を見た。
「エンジンから煙が上がった時点で、全てのエンジンが爆発しているはずだった。それを力で抑えて、ここまで飛ばしたのか」
そう言うと、男の子は銀髪の女性と同じように大木の陰に腰を下ろした。
数秒後、ジェット機が大爆発した。付近には機体の残骸が嵐のように降り注ぎ、雪に突き刺さっていく。
そんな鉄の雨が降り注いでいる中、男の子は女性の顔を見上げた。
「意識を失っても爆発しないように、ここまで抑えられていたとは、なかなかの力だ」
全ての力を使いきり仮死状態となっている銀髪の女性から視線を逸らした男の子は悔しそうに俯いた。
「俺には……その程度の力さえ戻っていない。もっと、もっと早く記憶が戻っていれば……」
男の子が小さな両手で雪を握りしめる。その両手から白い煙が上がり、雪が水蒸気へと蒸発していく。そして、それは男の子を中心に広がっていった。




