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もと天使たちの過去話  作者:
翡翠が求めるもの

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配置換え

 高層ビルが立ち並ぶビジネス街の一角。

 高層ビルの上階にあるラウンジでは、人々が昼食を食べたり休憩をしたりと、のんびりとした空気が流れていた。そんな中、いきなり数人の携帯電話が同時に鳴り響き、その全員が険しい表情のまま走りだした。


 その奇妙な光景に、二メートル近い巨体をした筋肉質の男が昼食を食べていた手を止める。


「なんだ?」


 逆立った茶色の髪に琥珀の瞳は、鍛え上げられた体格にしてはどこか幼さが残っている。


 細かいことが苦手な男は少し考えて、すぐにそれをやめた。


「ま、いっか」


 考えても分からないことは考えない、という性格の男は残っていた昼食を食べて水を飲んだ。


 そこに息を切らした同僚がやってきた。 


「ディーン、おまえ何してるんだ?早く来い。携帯はどうした?」


 同僚に言われて携帯電話の存在を思い出したディーンはポケットを探した。


 だが、どこにもないため、ディーンは平然と両手を上げて言った。


「家に忘れた。どうしたんだよ?セイ」


「どうも、こうもあるか」


 セイはディーンの襟首を掴むと小声で状況を説明した。


「ボスの自家用ジェットが墜落した。乗っていたのは妻のアクセリナと第三子の朱羅だ。テロの可能性もあるからレベルAで緊急体制を取れとの指示が出た」


 ヒソヒソを話している二人の間によく通るテノールボイスが響いた。


「ディーン・V・ヴィス。ボスがお呼びです」


 二人はSPであるため人の気配や動きには敏感である。そんな二人が気づかない程、気配なく近づいてきた青年に、ディーンとセイは無意識に唖然とした顔を向けていた。


 間抜け顔をしている二人の前にハニーブロンドに薄い蒼の瞳をしたスリムな青年が立っている。

 用件を告げた青年は間抜け顔については一切触れず、無言のまま背中をむけて、そのまま歩き出した。


 その姿に我に返ったディーンは、


「またな」


 と、セイに軽く手を振って、先を歩く青年の後を追いかけた。


 青年がひたすら無言で歩くため、ディーンも無言で長い廊下を歩く。気まずいような微妙な空気が流れるが、ディーンは気にすることなく目の前を歩く青年を自然と観察していた。


 まるでモデルのような綺麗な歩き方。いや、綺麗というより上品というほうが合っている。英語の発音も訛りが無く、透き通った声にピッタリで全てが上品としか言い様がない。


 ディーンはこの青年について名前は知らないが存在は知っていた。


 通称ボスと呼ばれているが、自分達の雇い主であり世界中に事業展開しているアクディル財閥の総帥である綺羅・アクディルの専属SPである。だが華奢な体格である青年はとてもSPには見えない。


 観察されていることに気づいていないのか、青年はハニーブロンドを揺らしながら颯爽とIDをかざして重役専用のエレベーターに乗り、最上階へと移動する。


「こちらです」


 エレベーターから降りたディーンは案内されるまま秘書室を抜けて社長室へと入る。


「ボス。ディーン・V・ヴィスを連れてきました」


 青年の言葉に総帥である綺羅・アクディルは言葉を出さず、手でそのまま待つように指示を出した。


 短めの赤茶の髪に翡翠の瞳を持つ精悍な顔立ちと高身長は、総帥というよりモデルのような外見である。


 ディーンは今まで社内や仕事中に総帥の姿を見かけることはあったが、直接対面するのは初めてだった。


 緊張しているディーンに対して、綺羅は落ち着いた様子で電話の相手と話している。


「……そうだ。医療ジェットを出せ。三十分でここを出発する」


 そう言って電話を切った綺羅は、どことなく疲れた顔をしていたがディーンを笑顔で迎えた。


「悪いな、急に呼び出して。いきなりだが君には配置換えをしてもらう。今日から朱羅の専属SPだ」


「え……ですが……」


 言いにくそうなディーンに綺羅が頷く。


「言いたいことは分かる。だが今は時間がない。リル」


「はい」


「三十分後に出る。準備をしながら説明をしてやってくれ」


「わかりました」


 まったく動かないリルの表情に綺羅は翡翠の瞳を細めた。


「悪いな、大変なときに面倒なことを押し付けて」


「いえ。時間がありませんので失礼します」


 一人で出て行こうとするリルにディーンが慌てる。


「え、あ、失礼しました」


 リルを追って部屋から出て行こうとするディーンに綺羅が声をかけた。


「ディーン」


 ボスの声にディーンは反射的に立ち止まり振り返った。


「はい」


「リルは今、精神的に不安定だ。すまないがサポートしてやってくれ」


「は……わかりました」


 一礼をして部屋から出たところでディーンは盛大にため息を吐いた。


「なんなんだ?普通、奥さんと子どもが飛行機事故にあったらもっと慌てたりするだろ。なんで人のことを気にする余裕があるんだ?」


 ブツブツと独り言を呟くディーンに声がかかる。


「ディーン」


 無表情のまま薄い蒼の瞳が冷たくこちらを見ている。その不気味な雰囲気にディーンは思わず後ずさりしそうになった。


「……なんだ?」


「準備をしますので、ついてきて下さい」


 そう言うとリルは早足で歩きながら話の続きを始めた。


「私の名前はリル・ブランといいます。リルと呼んで下さい。朱羅様の護衛については……」


「ちょっと、待った」


「なんでしょう?」


 ディーンは辺りに人がいないことを確認して小声で話し始めた。


「墜落だろ?普通、死んでるぞ。専属の護衛なんかいらないだろ。それとも死体を護衛しろって言うのか?」


「普通……でしたら、そうですね」


 リルの裏を含んだ言葉にディーンの口調が荒くなる。


「なんだよ、その言い方」


「現場に行けばわかることです。時間がありませんから続きを説明します。武器ですが……」


 リルの淡々とした説明をディーンは不機嫌丸出しのまま一応大人しく聞き流していった。



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