後日談
あれから五年後。
肩にかかる淡い金髪を一つに結んで少年は食器を洗っていた。目の前では数ヶ月前に同居人となった少女がカウンターに座って食後のお茶を飲んでいる。
二人は平穏に会話をしていたのだが……
「なんだって!?」
少女の突拍子のない発言に、少年は洗っていた食器を落としそうになった。
慌てて食器を持ちなおす少年に向かって、少女は平然ともう一度、同じ言葉を言った。
「明日、米国に行くわ」
少年がずっと探していた彼女は十分すぎるほど強く、逞しく育っていた。そばで守りたいという少年の意志を簡単に飛び越すほど。
少女は当然のように言った。
「私たちの体は普通の人間の体と少し違うみたいだし、勉強しておいたほうがいいと思って。それなら米国で医師免許を取ったほうがいいでしょ?」
まるで林檎狩りにでも行くような軽い言い方に、少年が手を止めて少女の前まで歩いてきた。
「行くって、まだ爺さんと弟が探してるんだろ?見つかったら、どうするんだ?それに何処の大学にするんだ?」
「朱羅のところに住むわ。あそこなら見つかっても簡単に手は出せないでしょうし。ついでに朱羅と大学も同じところにしたから」
少女の様子だと大学の入試試験も編入手続きも全て終わらせているのだろう。こういうことに関しては手際がいい。家事や整理整頓になると、まったく不能なのだが。
少年は、これから一番の被害者になるであろう人物のことを考えた。
少女の性格からして事前に連絡はしていないだろうと思ったのだが、少年は念のため聞いてみた。
「朱羅には言ったのか?」
「まだよ。明日、行ってから直接言うわ」
予想通りの答えに少年は少女の隣にあるイスに座ってカウンターに頬杖をついた。
「で、荷物はどうするの?」
「お願いね」
最近少しずつ感情を出すようになってきた少女に笑顔を向けられて、少年はカウンターに突っ伏した。
そのまま、固まってしまった少年に少女が声をかける。
「私が荷造りをしても、いいんだけど……」
少女の言葉に少年は青ざめた。
整理整頓オンチが荷造りするほど恐ろしいことはない。
服だろうが、食品だろうが、液体だろうが全てを一つのカバンに詰め込むのだ。しかも荷物の一つ一つを密封しないので、荷物が目的地に届く頃には、中身の全てがゴチャゴチャとなり使用不可となっている。
それを、この少女は平然とやってのけるのだ。
「いや、いい!オレがする!」
言葉とともに慌てて起き上がった少年に少女が微笑みをかける。
「ありがと」
少女の表情を見て少年は前世の記憶を思い出した。
全てを思い出していないのに、少女は前世と同じように微笑んでいる。その姿に心のどこかが暖かくなる。
少年は苦笑いを浮かべたままイスから立ち上がった。
「じゃ、食器を洗ったら荷造りするよ」
そう言って再び食器洗いに戻った少年はふと考えた。
「一応、メールで知らせるか。早く知らせたら断られるだろうから、ギリギリがいいよな」
そうしてメールは少年の思惑通り少女が到着した時に送信され、メールを受け取った主はますます頭を抱えることとなるのだった。
これでオーブ編は終わりです。
次からは朱羅編が始まりますが、ディーン視点で展開していきます。




