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もと天使たちの過去話  作者:
月がみる夢

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収穫祭と少年の決意

 少年は言葉通り二日後には村に帰ってきたが麦の収穫はすでに終わっており、収穫祭の準備で村は賑わっていた。


「へぇ~、収穫祭か」


 少年が珍しそうに収穫祭の準備を眺める。


 村の広場に特設のステージを作り、飾りつけをしていく。中央にはキャンプファイヤーのように丸太が組まれ、焚き木が準備してある。


「お帰りなさい」


 微笑みながら歩いてくる神父に少年は笑顔で答えた。


「ただいま」


「疲れたでしょう?少し休んだら、どうですか?」


「そんなことないよ。それにオレ、収穫祭を見る前にヴァチカンに連れて行かれたから、初めて見るんだよな」


「……そうでしたね」


 神父と少年の間に微妙な空気が流れる。そこに、


「オーブちゃん!」


 お約束のごとく、イザベラが手を振りながらオーブに近づいてきた。


「いつの間に帰ってきてたんだい?」


「たった今だよ」


「なら、帰ってきたって言いなよ。ほら、眺めてないで、さっさと手伝う!」


 イザベラに背中を押されて少年がバランスを崩す。


「わっ、わっ。ちょっと、押さないでよ」


「ほら、キリキリ歩く。オーブちゃんが行った後、フィリッポじいさんがギックリ腰になって人手が足りないんだよ」


 その言葉に少年が呆れた表情をする。


「だから無理するなって言ったのに」


「そうなんだけど、フィリッポじいさんは他人の言うことを聞かないから。みんな!オーブちゃんが帰ってきたよ!」


 イザベラの声に村人が手を止めて少年を見る。


「おー、帰ってきたか!」


「ちょっと、こっち手伝ってくれ!」


「そっちが終わったら、こっちも頼むぞ」


 村人たちの言葉に少年が困ったように叫んだ。


「人使いが荒すぎだぞ!」


「売れっ子は辛いね」


 そう言って豪快に笑うイザベラによって少年は収穫祭の準備の中に強制的に入らされていった。






 数日後。


 その日の村はとにかく朝から飲めや歌えの、文字通りお祭り騒ぎだった。夜には広場の中央に組まれた丸太が燃やされ、天高く昇る炎を囲んで村人が踊っている。


 だが、その場に少年の姿はなかった。


 教会の中央に輝くステンドグラス。その前には巨大な十字架とはりつけにされたイエス・キリストの像がある。


 少年は微かに聞こえる村人の歌声や笑い声に耳を傾けながら、キリスト像を見上げていた。


「……どうするか決めましたか?」


 背後から聞こえてきた神父の声に少年はキリスト像から視線を外さずに言った。


「ジェラルド神父。ちょっと、懺悔してもいいか?」


 無言でいる神父に少年は静かに話し始めた。


「オレは昔、大切な人を殺した。ずっと守ると、一緒に生きると約束した人を。彼女はルシファー(あいつ)に致命傷を負わされ、命が残り少なかった。その時、彼女は最期にオレに願った。オレに殺されて死にたいと。オレは黙ってその願いを叶えることしか出来なかった。それから、ルシファー(あいつ)は再びオレの目の前に現れた。そして今度はフィオナ姉さんの命を奪った」


 少年が力強く両手を握ってキリスト像を睨んだ。


「オレは自分が決めた道を生きる。今度こそ失わないために」


 少年は強く決心した。


 どんなことをしても、あいつが見つける前に、あいつが手を出す前に見つけだす。彼女を。ガブリエルを!


 そんな少年を神父は黙って見守っていた。

 少女のように華奢な体には大きすぎるほどの決意。だが、この少年がその決意に押しつぶされることがないことを神父は知っている。それだけの強さを少年が持っていることも。


 少年は息を吐いて力を抜くと、笑顔で振り返って神父を見た。


「迷惑をかけた。ヴァチカンが五月蝿かっただろ?」


 ヴァチカンだけではない。突然消えた少年を英国諜報局も探していたはずだ。

 その双方に見つからずに半年も療養ができたのは、ジェラルド神父の根回しと力のおかげでもあった。


 だが神父はなんでもないように首を横に振った。


「私は少し力を貸しただけです。あなたには休養が必要でしたから」


「ありがとう」


 礼を言う少年に、神父は少年がヴァチカンに連れて行かれた時と同じ言葉を言った。


「いつでも帰ってきなさい。私はいつでも、あなたの帰りを待っていますよ」


「……あまり甘やかすな」


 少年が潤んだ瞳を隠すように俯いて歩き出す。すれ違いざまに神父が少年に声をかけた。


「神のご加護を」


 少年は教会の入り口で足を止めると、振り返って巨大な十字架とはりつけにされたキリスト像を見た。


「……神……か」


 少年の脳裏に大罪によって神の下から追放された前世での記憶が蘇る。 


「こんなオレが神に一番近いと言われるヴァチカンにいたなんて皮肉もいいところだよな」


 少年の呟きは夜の闇に溶け込むように消えた。




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