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虚空の魔女の蘇生屋  作者: せつ
一章
5/21

第四話 望みは・・・

 陽の読み方は<ヨウ>です。一回聞かれたので一応載せときます。あと*は場面転換***は回想(つけない時もあります)を解り易くするため用いてます。

***その噂


 何時からだったのだろう。

 噂が広まり始めたのは。

 

 この町の“子供達”の間で“昔から”囁かれているという。

 然し、大人に尋ねてみても返答は同じ。

 まったく“知らない”という、矛盾した噂。


「人を喰う老婆だ」

「死なない怪物だ」

「子供しか、其処には辿り着けない」


 とても非現実的で、滑稽なデタラメが入り混じった話。しかしこれも奇妙な事に、どの噂にも共通点が存在する。


『蘇りの術を扱う魔女の店』


 もちろん陽も幼い頃からこの噂を知っていたが、よくある都市伝説の一種だと認識してまともに取り合わなかった。それどころか、根も葉もない話で熱狂的に語り合う一部の子供達を脇目から見下してもいた。


 自らの心情を変える転機が訪れたのはつい最近なのだ。

 誰にも言わず、言おうとせずに行動を起こしてきた。もしその姿を誰かが見ていたのならば、気が狂ったのだと憐れまれるだろうが、陽は極めて冷静だった。いや、そう装うとしていただけかもしれない。

 表向きは、至って平凡な高校生に。生憎外面を取り繕うのは得意だったので、気が付く者は殆んど居なかった。


 ……だというのに、念願叶った今、何故かその自分が崩れ始めている気がする。



***




「宝生さん……あの、」


「やめて。なんかその呼ばれ方気持ち悪い。偽名だしね」


「えっと、アケ、さん……?なんですよ、ね」


「ん?そうだけど。あ、ていうか敬語辞めて良いよ。一応、クラスメイトでしょ。ていうかほんとに気づかなかったねぇ君。頭良さそうに見えて鈍いんだからもう」


「は!?」


 ずけずけと言葉を並べる口調は完全にあの店で出会ったアケだ。それでも未だ現実味が湧かない。散々噂を耳にした幻(?)の魔女が普通に学校に通っているなどと誰が想像するだろう。見た目や雰囲気もあの時とはまるで違っているのだ、気が付かないのも無理は無い。

 それにしたって、昨日から何だかこの少女に接していると調子が狂うというか。とにかくマイペース且つ微妙に自己中心的で、上手く転がされている気する。誰とでもつつがなく折り合ってきた陽にとっては慣れないものだった。


「ほら、さっさと行こう。私は隣町よく分からないから案内して貰わないとね」


「ちょっ、待って下さいよ、歩くのはやっ……というか結局学校は無断早退して来ちゃったし、実質サボりじゃないですか!」


「敬語」


「うっ」


 要求され、躊躇いつつも「……後で怒られるよ、俺ら」と小さな声で抗議しておく。


「仕方無いでしょ?だったら早く早退届け出しとけば良かったのよ。依頼者は貴方なんだから、このくらいで文句言わない」


 そう言われると何となくばつが悪くなり、反論する気が失せた。


(あぁほら、またこうなるんだ)


 アケはそんな陽に構わず足早に進む。


「バスで行くんでしょ?時間間に合わなくなるよ、あんまり出て無いんだから」


 アケはずっと首から提げていたのか、シャツの中から小さめの懐中時計を取り出した。(因みに制服はブレザーだ)

 時間を確認するのかと陽は様子を窺っていると、アケは眉根を寄せた。


「……今何時?」


「え?今見てたんじゃ」


「壊れてたの。…ていうか多分これ針がずれてるから。合わせるから教えて」


 若干ぶっきら棒になった声を訝しみつつも、鞄からスマートフォンを取り出し


「十二時五十分になったとこ」と律儀に答えた。


「……そう」


 パチン、アケは短い返事と共に時計の蓋を閉じた。陽はその間際に一瞬だけその懐中時計を覗いてぎょっとする。それは“短針が逆廻りに動いた”様に見えた。


(いや、気のせいだきっと)


 この人物ならばそういった奇異な道具を持っていても可笑しくはないが、おそらく錯覚だろうと自分に言い聞かせた。


「ほら、速く」


 そして、目的地に向かった。




 行き着いたのは、総合と名の付くだけあって巨大な病院。さすがに受付周辺は忙しく看護士が動き回っていたり子供の声が飛び交っていたりしていたが、病室周辺は嘘の様に閑散としている。

 とある一室の前で、陽は足を止めた。


 コンコン。


 軽くドアを叩く。が、返事は無い。


「母さん。……入るよ」


 


 そこに居たのは一人の女性。

 ベッドの上で上半身だけ起こしていたが、此方は向かず、ただぼんやりと宙を眺めていた。頭に首、腕に巻いてある包帯が痛ましく、髪は梳かしていないのか乱れていて――しかし顔立ちは美しいだけにどこか危うげな空気を醸し出している。


「コウ、キ、さん…?」


「違う、俺は陽だよ。貴女の息子だよ」


「……」


 いい加減このやり取りに慣れたつもりだが、返ってこない反応はやはり辛い。

 ……顧みられない現実にも。


「……アケさん。ごめん、今日はダメだ。母とは会話出来ない」


「別に構わないけど…お母様、怪我をなさったの?」


 アケは包帯を見ながら聞いた。陽は苦笑して――本来笑える筈などないのだが――自嘲気味に答える。


「一か月前、交通事故に遭ったんだ。色々と後遺症とかも残るらしくて…――それはまだ良いんだけど、いや、全然良くないけど……


俺の事を、覚えて無いんだ」




『意識は戻りました。ただ、事故の後遺症が残ると思われます。下半身の麻痺と、……記憶障害が出ているようです。精神状態が非常に不安定で……』


 端的に告げられた医師の言葉が何度も頭の中でリピートして。


『コウキ、さん』


 “自分を見て”母が呼びかけた名前。あの衝撃は今も忘れない。




「断片的な事なら時々、言うんだけど。昔の事は覚えてるみたいでさ。でも俺の事はすっかり記憶から消去されちゃったみたいで」


 この辺りで大体察せる。


「なるほど、貴方が望むもの。それはつまり……母親の記憶の再生、ということね?」


「はい」


 陽は強く頷いた。アケはふむ、と自分の顎に手を当て思索のポーズをとる。


「――じゃあ、とりあえず貴女のお母様の『構成』を視させてもらいたいわ」


「こうせい?」


 不思議そうに首を傾げた陽に彼女は説明し始めた。


「そ。『存在の在り方』を視るとでも言いうか。その人の根本的な性質や現在の状態とかを調べることが出来るの」


「……ごめん。ちょっとよく分からないんだけど……」


「えーと、中国とかの『気功』って分かる?」


「まあ、なんとなく」


「構成を調べるってのは『気』を調べるみたいなものよ」


 アケは“蘇り”を三種類に分類して考えている。


 一つは『巻き戻し』。

 対象そのものの時間を巻き戻すものだ。これは記憶を頼りにして行われる。たとえ物だとしても、蓄積された時間を読み取ることが出来るのだ。ただ人であれ物であれ、これはよっぽどイメージが鮮明に残っていなければ不可能なのが難儀な点だ。

  二つ目は『再構築』。

 これは存在に刻みこまれた構成の記憶を頼りに、造り直す。これが一番蘇りの術で多く使われる。


 そして『解放』。失ってはいないけれど、そのもの自身、もしくは他者が封じ込めている場合、束縛から解放する。


「……とまぁ、こんなところね。つまり、貴女の母親がどんな状態かを見極めなくちゃ使えない、という訳。まぁ、記憶なら最初のは使えないけど。解った?」

 

 長々とした説明を終え、アケが一息吐く。

 陽は理解したような、していないような微妙な表情をしていたが、一応は納得したのか頷いた。


「それじゃ、早速始めますか。『構成の読み取り』は、対象に触れることが条件」


「あっ……」


 慌てて制止しようとした陽よりも素早くアケは女性の手を取った。幸い女性は何の反応も示さない。


「――……っ!?」


 見る間にアケの指から光の糸の様なものが溢れ出、繋がれた二人の手は包み込まれた。


「読み取り、開始」


 光の中、アケの声だけははっきりと聞こえた。

 力尽きた…。書きたいとこまで書けませんでしたが、更新出来て良かった!

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