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虚空の魔女の蘇生屋  作者: せつ
一章
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第三話 気づかぬ現実

このネタ出したかった!

 少女は心裏を覗き込む様にじっと相手の眼を見つめていた。時計の秒針が刻む音だけが聴こえる中、陽は眉一つ動かさなかった。

 やがてアケは口を開く。


「死者を生き返せろ、って言うのなら、残念だけどお断りさせていただくわ。それは」


 禁戒だから、と静かな口調で前置きする。


「さっきも話したけど、“私”は万能じゃない。……人の命に関わるのはご法度なの。『蘇生』は『生き返る事』だから矛盾しているけれど。ごめんなさい」


 実際『蘇生屋』を語る理由はあるのだが、アケは口に出すことはなかった。


「違います。そういう意味じゃありません」


 陽は首を振って否定した。そして何やら鞄のポケットを探り、一枚のメモの切れ端を取り出す。


「……それは?」


 アケは差し出されたその紙を受け取った。


「隣町の総合病院の住所です。母は、そこにいます」


「それで、私にどうしろと?」


「母に会っていただけませんか」


 どうやら陽はこの場で具体的な望みを話す気は無い様だと察知すると、アケはやれやれといった風情で短く嘆息した。


「なんだか公正じゃない取り引きね。お代は高くつくけど、覚悟はお有りで?」 

 アケが軽く脅すと、陽は「えっ…」と顔を引きつらせた。


「金掛かるんですか」


「ただな訳ないでしょう。それなりの額は請求するわよ」


 当然だ、と人差し指を前に突き出し主張する。その可能性に思い至らなかった陽は目に見えて動揺した。必死に自分の懐具合を思い出す。確かお年玉貯金でもあったような。

 眉をしかめて唸っている少年を傍観するアケは、一瞬どこか安堵する表情を浮かべた。


「冗談よ」


「すいません、今は手持ちが…ってはぁ!?」


 「…ぶふっ」予想通りの反応に吹き出さずにはいられない。陽は顔を赤くしてついに憤慨する。


「アンタ、さっきから何なんですか!」


「いや、ごめんごめん。…でも報酬をいただくのは本当。ただし、お金じゃないけどね」


「……何ですか、それは」


「ま、それは後で。大丈夫よそんなに力まなくても。大したものじゃないから」


 そう言われても、目の前の少女に対する不信感は払拭できない。

 そこは置いといて――と彼女は話の軌道を戻す。


「この病院に貴方の母親が入院してるのね?」


「え、あ、はい」


「じゃあ行きましょう」


「え!?今からですか!?」


「そんな訳ないでしょ馬鹿ね」


 即座に突っ込まれて消沈した。――馬鹿って!よく初対面の人に言えるものだ。


「もう暗いでしょ。私も色々準備とかあるの。そうだなぁ…じゃあ明日の午後から、一条君も一緒に行こう」


「俺普通に学校ですけど……」


「早退すればいいでしょ」


「いや、そんな簡単に……」


 此方の都合をお構いなしにさらりと言ってのける彼女に呆れる。まあ頼んでいる身なので諦める他ない。


「……解りました。でも貴女はどうするんです?俺がこの店に寄ってから行くんですか」


 正直店から自宅までの帰路さえ怪しい。もう一度此処に辿り着けるのか不安だ。なんせ記憶がおぼろげなのだから。


「学校から直行出来るよ、心配無い」


「え??でも」


「あんまり深く考えないの」


 彼女が学校で待つという意味だろうか。校門に佇むコスプレ(?)美少女を想像し、なんとも珍妙な景観に微妙な気分になる。


「ま、取り敢えず今日のところは帰りなさい。送ってあげるから」


「あ、え送るって」


 にやりと笑う彼女。どこから取り出したのか、アケは赤い紐が付いた小さな銀色の鈴を見せびらかすようにぶら下げ、軽く揺らした。


 不思議と響く音――――。


 


 意識を覚醒させた時には、陽は既に見慣れた自宅の玄関前に立っていた。






 それが記憶する限りの昨日の出来事。白昼夢でも見ていたのだろうかと自室で考え込んだりもしたが、メモは確かに鞄から無くなっていたし、立っていた場所には店に満ちていた独特の甘い香り、その残り香が漂っていた気もする。

 何より現実であってくれと切望した。



「やっぱり、現実、だったよなぁ…」


「何がだ?」


 落とされた人影と突然の声に飛び上がった。


「うわっ…何だ佐々木か。人が黙考してるときに急に話しかけるなよ」


「いや、なんかぶつぶつ言ってたし黙考じゃなくねぇ?それに何回か名前よんだぞ一条」


 にやつきながら覗き込んできたのは中学からの付き合いで級友の佐々木 実(ささき みのる)だ。無造作に撥ねた黄色に近い明るい茶髪に、着崩された制服。上背もあり目を引く人物だ。小柄とまではいかなくとも線が細く真面目そうな容貌の陽とは対照的な印象を与える。


「で、どうしたんだお前。今日ちょっと変じゃね?授業中も珍しくうわの空だったしさぁ……お前、まさか振られたりとかしたのか!?」


「それはお前の話だろ。聞いたぞ、吹奏楽部の部長に告って玉砕したって。どうせまた暑苦しくアタックしてウザがられたんだろ」


「は!?どこでその話を!?……違うんだ今回は結構好意的だったんだ!話しかけてもずっと笑顔で接してくれたしこれはいける!と思って告白したら…『私年上が好きなんだよね』っておぃぃぃ!じゃあ期待させんなよぉぉぉぉぉ。山本先輩ーーー!!!」


「相変わらず先輩、それも高嶺の花ばっかり好きになるな……。いい加減同学年に目を向けたらどうだ?」


「いや!俺の好みは総じてお姉さま系だ!それ以外は恋愛対象にはならない!そもそも俺は…って一条、飽きて本を読みだすな最後まで聞いてくれぇぇぇ」


 陽は「うるさいな」と顔をしかめながら渋々本を閉じた。まくし立てて疲れたのか、佐々木は言葉を切り呼吸を整えている。


「……まあ俺のふられ話はもういいけど。お前も愚痴とかたまには吐き出せよ?別に俺じゃなくてもかまわないけどやっぱり親戚に色々気ぃ使ってるだろ」


「……気が向いたらな」


 素直にありがとうと言葉が出てこないところは陽の捻くれた性格だ。事情を理解した上でさり気ない労りを掛けてくれる世話焼きの友人の優しさに本当は大分救われている。一見軽そうだが、自分よりもよっぽと人の機微を察知出来るこの人物を陽は尊敬しつつ、時に眩しい。


「ん?」


 不意に佐々木が視線を外した。


「なあ、あの女子、お前のこと凝視してね?」


「え?」


 陽も同じ方向に視線をずらすと、確かに教室の隅の席から此方を窺う女子生徒が居る。だが、名前が思い出せない。


「誰だっけあの人?」


「おいおい…高校入学してからもう三ヶ月だぜ?クラスメイトの名前くらい把握しておけよ。と、言いつつ俺もなかなか思い出せねぇ……えー…と、あぁ、そうだ確か宝生 朱里(ほうしょう しゅり)、さんだ。多分。……まぁあんまし目立つ子じゃぁないよな。文学系少女って感じでさ」


 まあ的は射ている。黒縁フレームの眼鏡、サイドに結っただけの飾り気の無い髪型や纏う静かな空気からは、控え目な雰囲気が伝わってくる。陽も佐々木もろくに関わった覚えは無い筈だ。


「ってえ?ちょっ……」


 予想外の光景を目の当たりにした。彼女は、此方に視線を固定したままつかつかと歩み寄って来るではないか。足取りも表情も極めて泰然で、何の意図も、感情も読み取れない。

 何事かと構えている二人の前でぴたりと足を止め、淡々とした口調で言った。


「一条君―先生が私達に用があるって。昼休みが終わらないうちに職員室に来てほしいの」


「用事?」


 そんなものを頼まれる覚えなど無いのだが。


「委員会の仕事とかじゃね」


「いや…うーん」


 陽は腑に落ちない面持ちで首を捻っていたが、彼女の無言の重圧に耐えかね、付いていく羽目になった。





「…ねぇちょっと、宝生さん!こっち職員室の方向じゃないよな!?」


 焦る声に少女は振り向いた。掴まれた腕を軽く振りはらい、陽を見上げて正視する。


 ――――瞬間、陽の呼吸が止まる。

 

 初めて直視した彼女の瞳に心臓が跳ね上がった。


 ガラスのように透ける、琥珀色の瞳。

 綺麗だった。


「貴方、約束忘れてたでしょ?」


 眼鏡を外して悪戯っぽく嗤う少女を、少年は唖然と見ていた。




「……えええええええええええええええぇ!?」






***とある者の呟き




 ……完全な器を持った人間はいない。

 誰もが、何処かしらに綻びを生じる。


 繕おうとするのか。

 見ないふりをするのか。

 はたまた――自身で綻びを広げるのか。




「すべては己次第なんだよ。……ねぇ、アケ」


ほんと更新速度ばらついててすみません!

この話は一体何話で終息するんだろうか…。

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