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最終章7 『守護神、再結成。そして……⑦』

神箜第二学園

その校庭に開かれているのは、全ての元凶である魔界の門。それは門であって門ではない。目の前に開かれたのは、文字通りの意味での門ではなく、本来交わることの無い二つの空間を繋ぐ、いわば、接触面。ゆえにそれの物理的な破壊は、実質不可能だった。


しかし、そんな不可能をも可能にする唯一の力こそ、あの日ジャックが指摘したジョーカーの固有スキルだった。

それを行使するために、純を含む八人は再び、学園の地を踏むことになる。


はずだったのだが……。


「魔界の門が消えた?」


学園へ向かう道すがらのこと。

ほのかから、必要な情報の伝達を受けていた純は、その言葉を聞いて、一瞬だけ歩みを止めて考え込んだ。(ちなみに、情報の伝達は純の方からも行われたため、彼も白鳥ハウスでの出来事を必要と思われることはほのかに話した。その際、ライトという単語が出る度に彼女が眉を寄せたように見えたのは、また別の話)


「そうなの。それもいきなりって訳じゃなくて、気がついたら端からだんだん薄くなっていく感じで。まるで、校長先生の頭みたいに」

「最後の例えはひどいだろ」

「でも事実だよ」

「悲しいこと言うなよ」


ほのかが軽い冗談を交えながら説明を続ける。

もし本当に、魔界の門がきれいさっぱり消えてしまっているのなら、それはそれで吉である。けれども、違う可能性も考えられた。


「考えられる選択肢は二つ。本当に消えてしまったか、消えたように見えるだけか。後者の可能性も捨てきれないから、どちらにしろ実際に行ってみる必要がある、という結論に至るわけだが」

「だから、私たちはこの道を歩み続ける必要があるという結論に至るわけだが」


ほのかが、急に声色を変えてしゃべりはじめる。


「どうした?急にそんな声だして」

「いやあ、純が真面目にそんなこと言ってるのが面白くて、つい」

「バカにしてるのか?」

「してないよ」


ほのかがそっぽを向く。嬉しそうな表情を浮かべているのが、見なくてもわかる。

彼女にとって、純と普通に話ができるということが、どれほど嬉しいもので、また、待ち望んでいたことなのか、それを察するのは想像に難くない。


だからこそ、全てを終わらせて、彼女のためにも平穏な世界を取り戻す必要があるのだと、純はこころの中で一人そう言う結論に至った。


◇◇◇


校門を抜けると、すぐ目の前にグラウンドが見えた。

ほのかの証言通り、そこには魔界の門のような異風景はなく、いつも通りのどこにでもある地面が広がっていた。けれども、どことなく邪悪な波動が純には感じられた。

それは、魔界の門は確かに存在するという気配。


純は記憶を頼りに、魔界の門が展開されていたであろう、その場所に立つ。


「うーん。魔界の門自体はなくなってないみたいだ」

「わかるの?何か感じるの?」

「何かがあるのはわかる。おそらく、魔界の門というのは、時間と共に周りと同化する性質を持つのか、もしくは、魔力の供給源がなくなって、表面に出現するに足るエネルギーがないか。どちらにせよ、この下に門はあると思う」


純は膝を曲げて、しゃがみこむ。


「試しに、少しだけ魔力を送ってみよう」


指先に魔力を集中させ、そっと地面に送り込んでみる。

魔力の流れが、地面に伝わるのとほぼ同時だった。まるで、それがスイッチになっているかのように、視界が揺れ、邪悪な力は増大し、魔界の門は再びその姿を現した。


急いで立ち上がり、その場を離れる指示をほのかたちに出した時だった。門を覆っていた邪気が、明らかな意志を持って純に襲いかかると、彼の体に絡み付き始める。


「ぐっ……あっ……ぁぁぁああああ!」


耐えがたいような苦痛。物理的な痛みではない。

触れただけで感じるようなその痛みは、邪気から流れ込んでくる魔力による精神的な痛みだった。その魔の手は後方のほのかたちにも延び始める。


そのときだった。孝樹がボーンを取り出した。


斬撃(ゾニア)!」


孝樹の変身と同時に放たれた、一太刀の斬撃が邪気の魔の手を切り裂いていく。

それをきっかけに全員が力を解放した。純の体も斬撃によって邪気から解き放たれて、やっと苦痛から解放される。


防御(アバロン)


孝樹が展開した盾のおかげで、純たちはやっと防御体制に入ることができた。

純は呼吸を整えながら頭を整理する。


「純は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。おそらく、魔力に込められた、俺の『門の破壊という意志』を感じ取って、防衛機能を働かせたんだろう。全く、面倒なことだ」


純の予測通り、門を覆っていた邪気は明らかに純たちを狙っており、純たちの盾を破壊しようと試みているようであった。


「とりあえず、こいつらを突破して、門の中心まで行きたい。だから……」


純は振り返る。そこにあったのはほのかの顔。ほのかがにっこりと微笑む。そして、純も微笑む。今までの自分ではできなかったこと。今の自分だからこそできること。思いだした昔の風景を頭の中に浮かべながら、純は口にした。


「だから、みんなに協力してほしい。これは、再結成した守護神(ガーディアン)の初めてのミッションだ!ミッション内容は『魔界の門を破壊せよ!』。これは俺たちの世界を守るための最後の戦いである!」


「「よっしゃあ!」」


八人の心が再び一つになった瞬間だった。

純は再び、魔界の門の方へ目をやる。邪気による間接攻撃だけでは突破できないと判断されたのか、邪気はその形を変え、巨大な腕へと変化を遂げていた。


「形が変わってる。ヤツも学習するんだな。物理的な攻撃方法に変わった」

「なら、一番乗りは俺に任せてもらおうか。守護神(ガーディアン)の中で『最強』の名を背負う者。『007』火渡刻。いざ参る!」


刻が右手を前に突き出すと同時に、孝樹は防御を解除する。

邪気による猛攻に対し、刻は圧倒的な火力による火属性攻撃で押し返していた。邪気が燃える音なのか、不気味な音が辺りに響いていた。校庭全体を包むような範囲まで広がった刻の炎。刻は次の指示を出した。


「慧。お前の水で俺の炎を消して、門までの道を作れ」

「了解でーす!二番手はボク、守護神(ガーディアン)のかわいいマスコット。『008』水沢慧。任された!」


慧は地面に手をつける。すると、見たこともないような水柱が校庭に噴き上げ、あっという間に火を消していく。そこに出来上がったのは、モーゼの神話のような海が割れてできた道ではなく、火が割れてできた道だった。


その道を通って、純は門へと向かおうとする。

しかし、邪気の回復力の方が早く、半分も進んでいない所で、あっという間に通路を塞がれてしまった。しかもその上、退路までもたたれ、四方を邪気に囲まれる絶望的な状況に追い込まれる純。

そこに現れたのは……。


守護神(ガーディアン)の三番手、『004』灯月和音。助太刀に参る!」

守護神(ガーディアン)の四番手、『005』浦川孝樹。同じく!」


二人が邪気を切り裂いて、再び純の救出に向かってきていた。『飛行(グロリア)』で空を飛ぶ二人に抱えられ、何とか邪気の魔の手から逃れる純。そして、その時に見た光景で、純はあることに気づくことになった。


地上に戻った純は、その事についてみんなに話す。


「みんな聞いてくれ。空から見て思ったんだが、上方向に延びる邪気は薄いようだ。横からではなく上から攻めることができれば、あるいは行けるかもしれない」


その提案に反対を唱えるものはいなかった。やれることはやってみよう、そんな表情をみんなしていた。


「ならやることはひとつ。ボクたちが地上でできるだけ引き付けておくから……」

「その隙に俺が、青龍を使って真島を空へと運び出す」


光流は言った。

純が光流の方に目をやると、彼もまた純の方へ視線を送っていた。


「任せてくれよ、俺は一人じゃない。俺は守護神(ガーディアン)の一員。『003』天野光流!只今より、リーダーの真島純を無事に目的地に送り届ける任務を遂行する。『現実召喚(リアライズ)』」


光流は青龍を召喚する。

その背中に純と二人で乗り込むと、空へと舞い上がる。それと同時に地上組も攻撃を開始。作戦は第二段階に移った。

しかし、空飛ぶ純たちにも次第に邪気は延びはじめる。


「させるかよ!『束縛(キューズ)』」


孝樹はそれらの邪気を鎖でしっかりと繋ぎ止め、地上へと引き戻す。

上空の純は地上の孝樹たちに感謝すると、更に高くへと舞い上がった。


「思った通りだ。この程度なら突破できる。行くぞ!」


そして、一気に急降下を始める二人。

このまま突破できるかに思われた。

しかし、門の防衛機能がそれを許さなかった。急速に邪気の濃さが増していく。


「くそっ、ダメか!」

「いや、このまま強制突破で行く!俺が道を作るから、真島はそこに飛び込め!突き破れ『ドラゴニック・ストーム』!」


青龍の口から吐き出されたそれは、覆っていた邪気を突き破り、魔界の門本体までの道を一瞬だけ作った。純はすかさず、その穴に飛び込む。


あとは、本体の破壊を残すのみだった。


「俺は……俺は、世界をの秩序を守る『守護神(ガーディアン)』のリーダー。『001』真島純だ!この世界を混乱に陥れたその元凶、それをぶち壊す!」


近づく地上。見えてくる希望。


「「いっけぇぇぇええええ!」」


「『王の絶対権力(イリーガル・ガジェット)』!」


その瞬間、空間が歪み、光が散らばった。

すさまじいエネルギーの流出をその身に感じながらも、純は確かな感触を覚えていた。






「……やったのか?」


気が付くと、純はいつも通りのなんの変哲もない校庭に一人しゃがみこんでいた。次第に彼の耳に周りの雑音が戻ってくる。

一番最初に聞こえた音。それは仲間たちの声だった。


「お疲れ様、純」

ほのかが声をかける。

「ああ、本当に疲れたよ」

純は答える。にっこりと笑う。


ピー、ピー、ピー、ピー


突然電子音が辺りに響き始めた。発信源は光流の携帯電話だった。


「時空ノ歪ミガ急速ニ解消サレテイクノヲ感知シマシタ。コレニテ本案件ハ終了トナリマス。光流サン、今マデゴ協力アリガトウゴザイマシタ。アナタハ本当ニ世界ヲ救ッテ見セタノデスヨ。サ、ヨウ、ナ……、ラ……」


次第に声が小さくなっていき、最後には全く聞こえなくなった。


女神(エイル)、結局、君は最後まで不思議な存在だった。お礼を言うのはこっちの方だよ。さようなら」


女神(エイル)との別れ。時空の歪みが無くなったので、彼女にとっては当然のことだったのだろう。それはひどく機械的なものだった。


『おうよ。世界を救ったってことに関しちゃあ、褒めるべき所だよな。色々と楽しかったぜ、相棒』


ボーンの口からもそんな言葉が漏れる。


『おっと。俺たちも、もうそろそろ帰らなくちゃならねえ見てえだ。また会おうぜ……』


そんな言葉を残すと、手にもった頭蓋骨も姿を消す。


残されたのは、七人の人間と一人の悪魔もどきだけだった。


「私たちも、帰りましょっか。もとの場所に」

「そうだな」


八人は学校の出口に向かって歩き出す。

これから、彼らには、笑い、泣き、怒り、驚くような、楽しい人生が待っていることだろう。それはきっと、他の人たちよりもきっと濃い思い出となるに違いない。なぜなら、彼らには十年という長い空白期間があり、そこにはそれぞれが異なったドラマを過ごしてきたからに他ならないからだ。


それは『運命のいたずら』か?


いや、きっと違う。


十年という長い『時』と、それぞれの過ごした異なる『空間』がまるであらかじめ決められていたかのように、引き寄せあい、絡み合い、作用した結果だ。


そう、この物語は十年前から始まっている、そして、これからも続いていく『からくり装置』のような仕組みをもった、一連した、物語なのである。

一応これで完結です。あとはエピローグを投稿します。

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