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最終章6 『守護神、再結成。そして……⑥』

運命はいつも残酷だ。いつも何かが邪魔をする。

逃げようと思っても、体は動かせないほどひどいダメージを負っていて、そのくせ、瞳はずっと、目の前のほのかを見据えていた。こんな惨めな気持ちになるのなら、いっそのこと、過去のことも含めて、全て忘れてしまいたかった。


彼は弱かった。

ジョーカーではなく、真島純でもなく、自分が黒崎純だと認識したあの日から、ずっと弱くなっていく一方だった。なぜなら、悪魔としての自分は、舞台装置の上で踊らされている、ただの役者に過ぎないのだと知ってしまったから。


「ほのか。最後にひとつ、お願いを聞いてもらっても良いかな?。生徒会長としての最初で最後のわがままだ。俺のことは忘れてほしい。俺は十年前に死んだことになっている存在だ。その記憶を上書きするだけでいいんだ」


純は目の前のほのかに向かってそう言った。けれども、ほのかの反応はなぜか嬉しそうだった。なんでだろう、と不思議と純は複雑な気持ちになった。


「昔のこと思い出したんだね、純」

「どうして、そのことを……」

「簡単だよ。私のこと『連城』ではなく名前の『ほのか』で呼んだ。昔みたいにね」


それを聞いて、純はしまった、と自分の口を押さえた。その動作を見てほのかはにっこりと微笑む。


「私たちは、純を迎えに来たんだよ。その手を伸ばせさえすれば、あなたを受け入れる準備をこちらはしている」

「俺は迎えに来てほしくなかった。放っておいてくれ」


ほのかはムッとした表情を見せる。


「強情だね。でも、残念ながら私にはそれが助けてほしいって聞こえる。気のせいかな?純がこちら側に戻ってくるに値するだけの理由がないから、純はとりあえずそっち側の人間としての生き方を望んでいるだけ。違う?」

「そんなことはない。黒崎純という男が抜けた世界は、綻びの無い球体としてすでに完成している。そこに割って入ってその関係性を崩し、無意味に歪な形を再構築するほどの利点がこちらにはないだけだ」

「だったら、決まりだね。意見の食い違いはない。その世界を壊してでも帰ってきたくなる動機付けを、新しい関係性を見出だすことに価値ある意味を、純に与えることができれば、何も迷うことはない。そうでしょ?」

「言葉のあやだ。仮にほのかの言う通りに、意味を見いだすことができたとしても、所詮そこまでだ。俺の意思を変えるのは俺自身だ。そして、俺の意思はもう決まっている」

「やってみなくちゃ、わからないよ」

「回復するまではここを動けないし、話を聞かせるだけなら、好きにすればいいさ」


純は顔を背けてそう言った。

それを聞くと、ほのかは頭の中を一旦整理するように静かに目を閉じ、そして、大きく息を吸い込んだあと、話し始めた。


「私はあなたに条件付きの合意を要求します。条件その一、あなたがこちらに戻って来る場合、まず、私たちによる罵倒が待っていることを覚悟しておくこと。条件その二、あなたがこちらに戻ってくる場合、守護神のリーダー黒崎純としての居場所はありません。したがって、生徒会長の真島純としてこちらに戻ってくること。条件その三、こちらに戻ってこない場合でも、そちら側にあなたの居場所はないと言うことを覚悟しておくこと。そして、条件その四、もし、これらの条件が満たされなかった場合、守護神のリーダーだった身として、正式にグループを解散させること」


ほのかはそこまで一気に話した。そして、純も動揺し始める。なぜなら彼の動揺を誘うような条件がその中に含まれていたからだ。


「おい、最後の条件はなんだ!」

「守護神はあなたの組織。だから、運命共同体。それとも、解散させる覚悟はない?」


純は言葉に詰まる。結局のところ、純はほのかたちのことを大事に思っていた。だから、望むべきは自分の幸せではなく、彼女たちの幸せ。そう思って純は今まで逃げてきた。しかし、そのことを言ってしまうと、それは純の本当の気持ち、つまりは戻りたい、という気持ちを吐露してしまうことに他ならなかった。

だから、言葉に詰まった。


けれども、ほのかには見通されていた。


「やっぱり変わらないね。純のそういう所も私は好きだったよ」


もう、何もかもがわからなかった。自分を偽りすぎて、混乱しているうちに、昔の記憶まで戻ってきた。何が本当の自分なのかわからなかった。けれども、目の前の少女は、自分のことを昔から変わらないと言ってくれる。


「純は自分に嘘をついてる。十年前の約束を覚えてる?。純が私に嘘をついたら、針を千本飲まなければなりません」


そして、ほのかは言った。


「では、最後のチャンスです。正直に答えてください。あなたはこちら側に戻りたいですか?」



ーー全てが懐かしかった。

昔の思い出が、まるで走馬灯のように彼の頭の中を駆け巡った。もう、自分の気持ちを押さえることができなかった。気が付くと、口が勝手に動いて、言葉を発していた。


「……戻りたい……戻りたいに決まってるだろ!」

「正直でよろしい」


ほのかは純に向かって、まっすぐ手を伸ばす。

純はそれを掴む。

ほのかは掴んだ手を引っ張って、立ち上がらせると同時に純の体を抱き締めた。


「おかえりなさい。純」


純はにっこりと笑って返す。


「ただいま。ほのか」


しばらくはそのままの体制だったが、次第に念仏のような声が聞こえてきた。それは目の前のほのかの口から発せられているものだった。


「……か……ばかばか。アホ、ヘタレ、嘘つき、あほんだら、すかたん、唐変木、つむじ曲がり、あんぽんたん。えっと、それから……それから……」


純は微笑ましくなる。

条件その一、こちらに戻ってくる場合、まず、ほのかたちによる罵倒が待っていることを覚悟しておくこと。その洗礼を今受けているところだった。


純はほのかの頭を撫でる。


「ごめんな」


そして、純は最後に付け加えた。


「最後にもうひとつだけやることがある。魔界の門を破壊して、一連の事件に蹴りをつける。協力してくれるよな?」

「うん!」


こうして、彼はもとの場所へと戻ってきたのだった。

あとは、最終話とエピローグを投稿して終わりです。

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