最終章4 『守護神、再結成。そして…… ④ 』
次の日もやっぱり暑かった。
それでも、白鳥ハウスのなかはいつも通り快適で、何をするにしてもほぼ、不自由なく。こんな環境におかれると、人間というものは、堕落してしまうというもので、そういう法則は例外なくここでも適応されていた。
ライトはこの日、純を指定の場所に連れ出す責任があった。といっても、この事はライト自身から提案したものであって、それはそれは重大な責任であった。
純とほのかを引き合わせる。そんな責任を彼女は負っていた。約束の刻限が徐々に近づいてくる。
「ねえ、ジョーカー。今日さ、一緒に出掛けない?」
ライトはごく自然に、そう切り出した。ただ、切り出し方は自然なのだが、ライトがこのような提案をするという行為自体がすでに自然ではない。ライトはもう一度、ねえ、と念を押す。すると、純も無視をできないと思ったのか、口を開いた。
「嫌だ。断る」
「何でよ!もうっ!」
「外は色々と危険が一杯だからな。部屋の中にいるのが一番安全だ」
「なに、引きこもりみたいな発言してんのよ!」
純は完全に堕落していた。
決して、夏の暑さにやられたわけではない。強いて言うなら、昔の記憶が戻り、今の自分の立場を考えたとき、色々と責念に苛まれて辟易としていたのだ。
それでも、ライトはここで引き下がるわけにはいかなかった。彼女はむっとしながらも、もう一度誘う。
「そんなこと言わないでさ、一緒に行こうよ。ほら、近くのショッピングセンター。あそこなら涼しいし」
「だいたい、俺と一緒に行って、何がしたいんだ?お前は」
「うっ……」
ライトは答えに窮する。しかし、咄嗟に頭の中に浮かんだ単語を深く考えずに口に出した。
「服……。そう、洋服を一緒に選んでもらいたいなーって」
それは、咄嗟に出た答えではあったが、半分は嘘ではなく本当だった。しかし、それで純が腰をあげるかと問われれば、答えは明白だった。
「なら、尚更気が引けるね。だれが、お前みたいなお子さまの服なんか……」
ライトは頭に来て反射的に拳を握ったが、そこはさすがに抑える。そのとき、思いもよらぬ助け船がやってきた。
「いいじゃないか。ライトの服選んであげれば?」
「お前は黙ってろ!海斗!」
「おお、怖い。ならさ、僕の頼みなら聞いてくれるよね?」
そう言って、海斗は手近にあったメモ帳に、買ってきてほしいものをリストアップし始めた。
「ここに書いてあるもの、買ってきて。一人じゃ持ちきれないだろうから、ライトと二人で行ってきて欲しいな」
そう言いつつ、海斗はライトにアイコンタクトを送った。海斗はライトが何をしようとしているのか詳細は知らない。けれども、助け船を出してくれた彼にライトはとても感謝していた。ライトは両手を顔の前で合わせて、ごめんね、と合図を返す。
「はあ、しょうがないなあ」
純も渋々立ち上がると、海斗からメモ用紙を受け取って、支度を始める。ライトもそれを確認すると、急いで自室に戻って準備をした。
しばらくすると、玄関に並ぶ二人の姿。
「ライトが迷子にならないように、ちゃんと手を繋いでいくんだよー」
海斗は最後に余計な一言を付け加えて、二人を見送った。
◇◇◇
強い日差しが二人を容赦なく照りつける。
通りを走り抜ける自動車の音、大気を揺らす陽炎。そのほか、色々なものが二人の体力を奪っていく。
「あーつーいー」
「一緒に出掛けようって誘ったのは、お前のほうじゃないか、ライト」
「そりゃそうだけどっ!」
言い争うのも疲れる。そんな状況にライトはこぼす。
「ねえ、ジョーカー。ついでにカキ氷メーカーでも買って、家で作ろうよ」
「なんでそうなる?お前、洋服を買うんじゃなかったのか?」
「えっ!買ってくれるの?」
洋服を買うというのはジョーカーを外に連れ出すための口実であり、その目的が達成された今、ライトはそのことをすっかり記憶の隅に追いやっていた。だから、純のほうからその話を振られて、逆に驚いていたのだ。
「えっ……?」
そして、当然純も驚く。
「買ってくれるっていうんなら、私も、遠慮はしないけど」
「いや、遠慮しろよ」
二人はそんな会話を交わしながら、ショッピングセンターを目指した。そして、ライトのもうひとつの目的の方も着実に進行していた。彼女はしきりに腕時計を確認する。
「どうした?」
「いや、なんでも……」
ライトはその時に確認した。二人の前に立ち塞がるように立った、一人の少女の姿を。そして、数秒後には純もその少女を認識した。彼が目を見開いて、驚いたのは、言うまでもない。
「ほのか……」
純は言った。ほのかは純を見て本当に嬉しそうな表情を浮かべた。純はどうして、と戸惑いながらも、頭を働かせてある可能性にやっとたどり着いた。
「ライト……。騙したな」
「騙しただなんて、人聞きの悪い。あんたの帰るべき場所、会うべき人に私は導いてあげただけよ」
純は苦しそうに顔を歪めながらも、来た道を引き返そうと体を回転させた。しかし、そこに立っていたのは逃亡を阻止するかのように、立ち塞がった孝樹たちだった。
気が付くと、ライトと純の周りには、七人の守護神のメンバーの姿。
「やっと捕まえた。逃がさないよ、純」
ほのかは一歩ずつ、純のもとへと歩み寄る。しかし、それはまだ心の準備ができていない純を焦らせる結果となった。
「俺は……俺は……」
純の頭は大きく混乱した。そして、それを振り払うかのように叫ぶ。
「お前ら、鬱陶しいんだよ。もう、俺に構わないでくれ!俺の前から消え失せろ!」
四方を囲まれた彼に逃げ道はない。だから、彼は上に跳んだ。ライトと違ってまだ悪魔の力を有している彼にとっては造作のないことだった。
ライトは、建物の屋根を跳び移って逃げていく純の姿を、ただ目で追うことしかできなかった。




