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最終章2 『守護神、再結成。そして……②』

真島純は久しぶりによく眠れなかった。

その理由をあげるとすれば、それはほのかたちのことに他ならない。きっと今ごろは自分のことを探しているのだろう、と純は思っていた。彼女の思いは一方通行だ。純自身には幼い頃の記憶などは一切ない。いくら、彼女には思い出があろうと、彼には関係ないことだった。


真島純はつまらないことを考えるのは止めよう、とそっと目を閉じた。


ある日の昼下がりのことだった。

白鳥ハウスはクーラーもよく効いていて、静かな環境である。食事をとってそう時間が経っていないのに加え、最近続いた寝不足。純がウトウトと眠りに誘われるのもある意味当然の状況と言えた。


彼の意識はいつのまにか深い底へと潜っていって、どうしようもないくらい遠いことのような気がしていて、それでいて、同時に実はそんなに遠くないのかもしれない。そんな感覚を覚えていた。


それは夢だった。


◇◇◇


「もう、いいかーい」

「まーだだよ」


見覚えの無い場所。どこかの家の中だった。

一人の少年と一人の少女がかくれんぼをしていた。見た目から推測するに、おそらく小学校の低学年くらいだろうと思われた。少女が鬼で、少年が隠れる場所を探して走り回っている。


夢の中の純は、空中に浮いており、二人を眺めている。純はこの二人の子供を知らない。彼らはいったい誰だろう、という疑問が彼の頭の中に浮かんでいた。しかし、そんなことを考えているうちに、少女がカウントダウンを数え終わる。そして、返事がないのを確認すると、少年を探して動き出した。


夢の中の純は少年が隠れる場面を見ていたので、そちらの方に目を向ける。狭い押し入れの中だった。少女は一直線にその場所へと向かう。少年はすぐに見つかってしまった。


「見つけたよ」


少女は明るい声で言った。少年は、はあ、と大きく溜め息をつくと愚痴をこぼし始めた。


「やっぱり、ふたりでかくれんぼって楽しくないね」

「でも、一人でかくれんぼはもっと楽しくないと思うよ」

「そういう意味じゃない!」


少年は押し入れの中のものを押し退けて、のしのしと中から這い出てくる。どうやら、押し入れの中は埃まみれだったらしく、出てきた少年は頭から爪先まで至るところに、汚れが付着していた。少女はもう一度少年の方を向いて不満を言った。


「だってー。かくれんぼしようって言ったの、純じゃん!もう」


純はその言葉を聞いてハッとする。少女は確かに目の前の少年に向かって『純』と言ったのだ。偶然ではない。純はそう思った。もしかしたら、これは夢などではなく、自分の無意識のさらに奥深くに眠っていた『子供の頃の記憶』なのかもしれない。それを裏付ける会話がないかを探して、純はいつの間にか二人の会話に耳を傾けていた。


「まさか、ほのかが本当にのってくるとは思わなかった」

「え!?じゃあ、あれって冗談のつもりで言ってたの?」


少女はしゅんとする。


「なあ、もっと人呼ぼうぜ。この前さ一緒に遊んだ葵ちゃんとか。ほら、従姉の」

「葵お姉ちゃんは、遠い所に住んでるから……。夏休みとかそういう時じゃないと無理だと思う」

「そうか、残念」


葵という人物はおそらく、浅海葵のことに違いなかった。それよりも、この純と呼ばれた少年、目の前の少女をほのかと呼んでいた。これで純の推測はより確定的なものになる。純とほのかが一緒に遊んだ記憶。おそらくそれは、今の純が悪魔になる前の、人間だった頃の記憶だ。


それを知って、純は素直に喜べなかった。確かに、純はほのかの知っている、守護神(ガーディアン)のリーダーの純だった。しかし、だからと言って、それを盾にして、ノコノコと自分がかつての居場所に戻ることが許されるのだろうか。純は家族(純は偽物だと思っていたが、実際は本物だった)を殺したし、それ以外にも、悪魔として少なくない人間に手を下してしまっている。そんな純だから、逆に、記憶がない方が現実を受け入れるのには実は好都合だったのだ。


「よし、じゃあ新しい友達でも作るか!」


少年は唐突にそう言った。


「おお!友達増える!楽しいこといっぱいやる!で、友達の当てはあるの?」

「クラスのやつとか、近所のやつとか適当に声をかける!」


少年の宣言に、少女はちょっとだけ肩を落としたように見えた。そんな弱気な少女の肩に少年は手をのせる。


「任せとけって。俺を誰だと思ってやがる」

「約束だからね」

「ああ、約束だ」


にこやかに笑う少年の笑顔をみても、この時の少女は、まだ少年に対して不信の眼差しを向けていた。


急に記憶が飛んで、場面が切り替わる。

少年は家の床に大きな布を一枚広げていた。その布を取り囲むように、八人の少年少女たちがいた。純、ほのか、光流、和音、孝樹、詩、刻、そして、慧。純が集めたメンバーだった。


「いま、ここに、ガーディアンの結成を宣言する!」


純が高らかにそう言って、布の中央に大きく、『ガーディアン結成!』と書いた。


「ねえ、がーでぃあん、ってどういう意味?」

「守護神って意味らしいぜ。かっこいいだろ」


この時もまた、純は空中に浮かんでその様子を眺めていた。だんだんと昔の記憶が戻ってくるのがわかる。それと同時にあのときの感覚も戻ってくる。純にとって守護神(ガーディアン)は大事な存在だった。そして、そのなかでも、ほのかは特別に。


他にも色々な出来事があったのを、夢のなかで思い出した。正直辛かった。目を背けた。そんなことをしている内に、純の意識はだんだんと引き戻されていった。


◇◇◇


「……のか……ほ……、ほのか!」


純は慌てて目を覚ます。どうやら、うとうとして、眠っていたようだった。それを認識すると同時に額にガツンという音と共に痛みが走る。一瞬、目の前にほのかの姿が見えた気がした。しかし、実際にいたのは、ほのかではなく、ライトだった。


「いったあ……」


ライトが額を押さえてうずくまる。手に握られているのは、なぜかマジックペン。何となく彼女が何をしたかわかった気がした。鏡をのぞくと、予想通りに顔に落書きが施されているではないか。


「何やってんだお前」

「もう、急に起きないでよ。ビックリしたじゃん。ってか、ほのかって誰?」


ライトの質問に、純は黙秘権を発動した。しかし、その答えを知っている人物は純の他にもいた。


「連城ほのか。神箜第二学園の副生徒会長で、ジョーカーの幼馴染み」


海斗がそう答える。


「そうなんだ。昨日はあんなこと言ってたくせに、実際は夢のなかで出てきちゃうくらい恋しい人なわけ?正直になりなよ」

「うるさい。黙ってろ。何が言いたいんだ?」

「あんたの居場所はここじゃないってこと」


急にそう指摘されて、また、純は夢の中の出来事を思い出した。思い出してしまった。記憶が戻ってしまった。けれども、認めたくはなかった。


「別に。もう、関係の無いことさ」


純は意地を張って、自分に言い聞かせるようにそう言った。

それを聞いて、ライトは何かを決心したような表情を作った。


◇◇◇


次の日。

ライトはTシャツにホットパンツという姿で、町に出た。目指すは神箜第二学園。彼女は連城ほのかという人物に会うつもりだった。


「ホント、あいつは頑固なんだから……」


そして、ライトのこの行動によって、最後のからくり装置の歯車は動き出そうとしていた。

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