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最終章1 『守護神、再結成。そして……①』

朝七時、純はライトの部屋の戸をコンコンと叩く。


「おーい、ライト。起きろー。朝だぞー」


返事はない。まあ、当たり前かと、純は溜め息をつくことはしなかった。ジャックがいなくなって、それからいつもの日常が戻ってきた。変わったことと言えば、海斗もライトも人間に戻ったということだけ。見かけ上の変化はない。だから、実感が沸かないと言えば、そうだった。だから、ライトがこんな時間に起きないというのも、いつものことだった。諦めてドアの前から立ち去ろうとする純。そのときだった。


ーーガチャリ


純の耳に聞こえた音。続いて目の前のドアに細い隙間ができる。


「おはよ……むにゃあ」

「お、おはよう」


純はライトの顔をじっと見つめる。何か純に対する文句が、その口から飛び出るのを今か今かと待っていたのだ。


「なによ?」

「いや、珍しいなー、と思って」


不機嫌そうな顔はいつも通りだが、何だかいつもより口数が少ない。というか、言葉にいつもの辛辣さがなかった。ライトはツンとした表情のまま言った。


「あんまり、眠れなくて起きちゃっただけ。別に生活習慣を改めようとか、そういうのじゃないから」


ライトは扉の前に立っている純を押し退けると、洗面所に向かった。その後ろ姿を眺めながら、純は何だか微笑ましい気持ちになったのだった。


◇◇◇


朝七時半、ライトは朝食をとりはじめる。

朝食をとりおえたライトは、ごちそうさま、と小さく呟くと自分の食器を台所まで運んだ。


「食器はそこにおいといて。あとで僕がまとめて洗うから」

「そう、ありがとね」


海斗の指示に素直に従うライト。しかし、それを見て、海戸と純は互いに顔を見合わせた。ライトがリビングから居なくなると、焦ったような海斗が純に尋ねてきた。


「おい、どうなってる?ジョーカー、僕がいない間にお前何かしたのか?」

「何もしてないよ!俺だって驚いてるんだ」


朝七時に起きたライト。食器をちゃんと持っていったライト。海斗にちゃんとお礼を言ったライト。そのどれもが今までのことから考えて、あり得ないことだったのだ。それでも、疑問顔の晴れない海斗はもう一度尋ねる。


「本当に何もしてないんだな?」

そう聞かれて改めて今までのことを思い出すと、ある出来事があったの気づいた。

「そうだ。預金通帳。ライトのやつ、預金通帳の貯金額を見て、ひどく落ち込んでたぞ。それで生活習慣を変えようと思ったんじゃないか?」


純の指摘を受け、海斗は笑う。


「そうか。あれはあれで、効果てきめんだったわけか」

「正直、俺も驚いたけどな。俺たちを心配させないために嘘ついてたのか?」


それを聞き、海斗はキョトンとした表情を見せる。


「何を言っている?あんな分かりやすい場所に、大事な通帳をおいておくわけ無いだろ?口座は複数持ってるし、本命の通帳は別の場所にあるよ」


それを聞いて、純は、今まで自分で家計簿をつけながら、これからのお金のやりくりを考えていたのがバカみたいだ、と何だか複雑な気分になった。


◇◇◇


昼下がり

ライトはリビングにあるテレビを使って、ゲームをしていた。そういうところは相変わらずである。純がその様子を横目で観察していると、急にライトが純の方を向く。


「あんたもやる?」


そう言って、自分の持っていたコントローラーを純の方へ手渡す。もちろん、そんなつもりはなかった純は慌てて断った。すると、ライトはテレビ画面の方に視線を戻し、独り言のように呟いた。


「あんた、私が変わったように見える?そんな目で私を見てるから」


ライトの質問に対し、純は少しだけ迷ったが、正直に肯定の意を示した。ライトはそれを聞いて、そうだよね、とちょっと笑うと、話を始める。


「私だって、もう悪魔じゃないんだし、変わらなくちゃいけないなって思ったの。ジャックがどういう意図をもって私たちを人間に戻したのかはわからないけどさ、人間になったなら、人間らしく生きたいなって思った」


ライトは明らかにいつもとは違う雰囲気をまとってそう言った。


「あんたはどうなのさ?つーか、あんたって学生だったよね?十分人間らしいじゃん」


ライトのその言葉を聞いて、図らずも純はあることを思い出した。

それは夏休みがもうすぐ終わるということ。


学生である純は夏休みが終わると、学校に戻らなければならない。しかし、彼はできればそんなことはしたくはなかった。なぜなら、学校にはほのかたちがいるから。純自身にとっても、ほのかにとっても、両者が顔を合わせることは好ましいことではないと考えていた。


「どうかな?もしかしたら、学校やめるかもしれない」


純は言った。しかし、それを聞いてライトは声を大きくしていった。


「やめないで!自分の居場所が既にあるのなら、捨てるなんてもったいないでしょ」


ライトは居場所という単語を強調していた。人間としての自分の居場所。彼女はそれが欲しいのだ。だから、純の今の状況は、ライトにとっては正直羨ましかったのだ

けれども、純の方にも譲れない事情がある。


「でもな……そういうわけにもいかないんだ」

「もしかして、それって前に言ってたあんたの過去を知ってる友達のせい?」


ライトは指摘する。それは正しかった。


「あんたって、そういうこととはあんまり積極的に関わろうとしないのね」

「人間って言うのは矛盾した感情を同時に持つ生き物なんだよ」


けれども、神箜第二学園にはもう一回は必ず行かなければならない。そこには魔界の門が開いているから。それを壊すのがジャックとの約束だった。


けれども、今の純にはまだ、踏ん切りがつかなかった。

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