第十二章13 『反逆のジャック⑩』
純は頭を抱え込んだ。
言わずもがな、お金のことである。通帳は何とかしてライトから奪い取ったものの、彼女からは、「とりあえず、もっとお金増やしてよ。ほら、株とか色々あるでしょ?じゃないと、将来の生活に困るし」などと、無理な注文を押し付けられており、しかも、それがあながち暴論とも言えないところが、なんともまあ悩みの種であった。しかし、株なんて危なくてやってられないというのは本音である。
「計画的に生活して無駄な浪費をしなければ、なんとかやって行けるか……?」
純は今の生活でどこまで無駄を削れるかを頭のなかでシュミレートしてみた。そして、そんなことをする自分と、今まで生徒会長として生活してきた自分とを比べて、そのギャップに改めて驚きを禁じ得なかった。
「なにやってるんだ、俺。もう完全に主夫だなこりゃ」
そんなときだった。玄関のチャイムが鳴った。
「ライトが帰ってきたかな」
純は玄関へと急ぐ。彼はこのときに疑問を持つべきだった。なぜ、鍵をもって家を出たはずのライトが、チャイムを鳴らすのか、ということに。
「おかえ……り……?」
もちろんそこにいたのは、ライトではなかった。
「よう、元気にしてるか?」
「ジャック」
純はその時に悟った。ライトがもう既に、やられているということに。そして、ジャックの最後のターゲットは自分だということに。ジャックは純の顔をじっと見ると、純に告げる。
「やっぱりな」
「なにが、やっぱりなんだ?」
「俺はライトの固有スキルも手に入れたから、見えるんだよ。お前の固有スキルの本質が」
ジャックは不敵に笑う。
「ちょっと、話がある」
そう言ってジャックは白鳥ハウスへ足を踏み入れた。
◇◇◇
リビングに男二人が向かい合って座っている。しかも、純にとってはいつ殺されてもおかしくは無い状況で、戦々恐々とした気持ちのなか、ジャックは淡々と話を始めた。
「話ってのはな、フェンリルのことなんだ。アイツは自分が魔界に帰るためだけに、俺たちを産み出した。人間と言う器に、固有スキルという中身を入れ込んだ。俺たちがもと人間だって言う話は、知ってるな?つまりは、そういうことなんだ。しかしな、実は、俺はフェンリルに知らされる前から、その事に薄々気づいてた」
純はえっ、というような表情を見せた。それを見て、ジャックは面白そうに笑った。ジャックは話を続ける。
「人間と固有スキルは本来相容れないものなんだ。だから、俺やじじいみたいに、長い間悪魔をやってると、少しずつ分離してくる。俺が持ってる大剣も、じじいの持ってた杖も、単なるアイテムじゃない。自分の中の固有スキルが外に出てきて具現化したものなんだよ」
ジャックは再度、大剣を手にとると、純に見せつけるように持ち上げる。
純はそれを見て、さらに警戒心を強めた。しかし、まだ殺しはしねえよ、とでも言いたげな表情をして、ジャックは大剣をしまう。
純にはこの時になってもまだ、ジャックの意図がわからなかった。
「そこで、だ。悪魔がもと人間と言う話が真実だとわかったとき、俺はある計画をたてた」
ジャックは急に声色を変えて話し始める。
「俺の能力は相手の固有スキルを奪う力、もっと正確に言えば、固有スキル『だけ』を奪う力なんだ。つまり、俺の大剣で殺されたやつは、固有スキルと分離して、人間として死ぬんだ。そして……」
ジャックは不自然に間をおいた。
「そして、人間として死んだ奴なら、海斗の固有スキルで生き返らせることができる。つまり、悪魔にさせられた人間を、もとに戻すのが俺の計画だった」
声のトーンを少し落としたジャック。
「でも、シャドウはフェンリルに殺されたし、じじいは自殺という方法を選んだ。この二人は生き返らすことはできない」
純はジャックの話を聞いて少し考え込む。
ジャックを家に招き入れ、話を聞いてはいるが、決してジャックを信用したわけではない。今の話には腑に落ちない点が存在するからだ。純はその部分をジャックにぶつけてみた。
「わからないな。お前がそんな計画を立てたなら、こんな手荒なことをしなくても、正直に話せばよかったんだ。それが一番丸く収まるはずだろ?」
「悪魔同士は信頼しあえないのが基本だろ?それに、俺の計画を実行するにも、イレギュラーな要素が発生してしまってね」
「イレギュラー?」
「魔界の門だよ。悪魔を人間に戻して、すべてを終わらせるつもりだったのに、あれのせいで面倒な後処理がひとつ増えてしまった。それに、できるだけ早く門を閉じないと、門の向こうから何が来るかわかったもんじゃないしな」
魔界の門の案件に関しては、純も完全に同意であった。しかし、門を破壊しようとすると、まるで、門を守るように発生する邪気が、その破壊を拒む。その結果、今の今まで、何人たりともその破壊に成功したものはいなかったのだ。
「あの門を破壊できる算段はあるのか?」
「あるさ。だから、お前に頼みがある。お前の固有スキル『裏切りの王』で魔界の門を壊してくれないか?」
ジャックは言った。そして、それを聞いた途端に表情が変わったのは、純の方だった。
「やはり気づいたか?『王の絶対権力』の存在に」
「もちろんだ。じゃなきゃ頼まない。どんな不可能も可能にする力。ただし、使えるのは一度きり。それを魔界の門の破壊に使ってほしい」
純は考え込んだ。それを了承してしまえば、本当に全てが終わるのだと思えば、反対する理由はなかった。
「わかった。約束しよう」
「そうか。そりゃよかった」
ジャックは、初めて見せるような嬉しそうな顔を純に見せた。
◇◇◇
ジャックはそれから、家の中にあるお菓子を食べた。最期ぐらいゆっくり食べさせてくれ、と言うのがジャックの言った言葉だった。それを食べ終わると、ごみをゴミ箱に捨て、立ち上がる。
「今からあいつらを生き返らせるが、何か色々説明しておいてくれ」
「何を言っている?お前が……」
「海斗の固有スキルは言うなれば、生命力の譲渡だ。あいつらには俺の残りの寿命を分け与える。だから、俺は死ぬ」
ジャックはまるで、重要でないことを話すような口調で、そう言った。
「おい、聞いてないぞ」
「うるせえ。殴るぞ」
ジャックは穏やかな表情だった。
「命を無駄にするなよ?」
次の瞬間、ジャックは消えた。代わりに現れたものがある。それは、四人の人間。海斗にカグラ。シャーリー、そして、ライトだった。
「おかえり」
キョトンとした表情を見せる四人を前に、純は言った。
「ちょっと、ジョーカー!何がどうなってるのよ!」
ライトは純に突っかかってきた。
「待て待て。順番に話すから。まず何から話そうか」
白鳥ハウスは久しぶりに賑やかな声に包まれた。
次の章が最終章です。
十二章が長くなったのは、ただ執筆のやる気があって、丁寧に書いていたからです。他の章も、完結した後に書き直す予定です。




