第十二章10 『反逆のジャック⑦』
相手を著しく弱体化させる。
その能力効果が事実ならば、今のカグラにとっては、これ以上にないくらいの大きな条件であったし、やっとのことで実感できる勝機だった。そう、それが事実ならば。
しかし、カグラは先程の戦闘で感じた、拳の感触を思い返す。そして、その感触こそが、その事実を裏付ける確固たる証拠でもあった。思わず、頬が緩む。
「協力感謝する。これで俺もまともに戦えるわけだ!」
「ダメじゃ。思い上がるのは良くないのう」
シルバーは、たしなめるようにそう告げた。訝しげな顔を向けるカグラを横目に、彼は自分の眼鏡をいじった後、懐から時計を取り出し、それを確認する。刻一刻と時を刻み続ける時計の針。それが何を意味するのか、彼はカグラに説明を始める。
「五分じゃ。私の能力の効果持続の時間は。それまでに確実に奴の息の根を止めるのだ。もし、それが叶わなかった場合、君だけでなく、君の大事にしている、かの女も犠牲になると思え」
「五分か……。決して十分とは言えぬ時間ではあるな。心してかかろう」
カグラは壁にもたれ、ぐったりしているジャック目掛けて駆け出した。願わくはこれが最後の対峙となるように、そんな思いを抱えながら。
一方のジャックも、何とか状況を掴み始める。自分の体がひどく衰弱しているように感じる事実。目の前に現れたシルバー。そして、勝利を確信したような眼で迫ってくるカグラ。しかし、彼は諦めない。
ジャックはのっそり起き上がると恨めしそうに言い放った。
「調子に乗るなよ、小僧。こっちは固有スキルを三つも持ってるんだ。希望を持つにはまだ早いんじゃないのか?」
ジャックは大剣を持ち代えて、右手を前に突き出した。使用するのは目の前の男、カグラの固有スキル。最期は自分の固有スキルで命を落とすことになるとは皮肉なものだ、と思いながらカグラを見つめた。だが、油断していたのはジャックの方だった。カグラは滑り込んでくると、彼の右腕を掴んで、力を加えた。
ーーボキッ
それは腕の骨があらぬ方向に曲げられた結果、疲労して折れる音だった。その痛みは瞬く間に信号となってジャックの脳に伝えられる。
「うわあぁぁああぁーー!クソッ、折りやがったな!ちくしょう!」
「自惚れるな。その固有スキルは貴様のものになる以前は、この私のものだったのだ。その弱点ぐらい、知り尽くしておるわ。右手が使えなければ、ただの飾りだということもな」
ジャックは暴れるようにして動くと、無作為に攻撃を繰り出していく。それをカグラは簡単にかわすと今度は側頭部に一発食らわせた。すでに弱体化しているジャックの体はまたもや、面白いくらい吹き飛んでいった。
頭を強打し、意識が朦朧とするジャック。カグラはそんな彼の後ろに回り込むと、首に腕を回し、キュッと締め上げる。今度こそ確実に命を奪わねばならない、そんな焦りを感じつつ、彼は持てる精一杯の力を振り絞っていた。
「楽に逝けると思うなよ。せめて、必死にもがき苦しんで、死にやがれ」
バタバタと苦しそうに暴れるジャック。刻々とタイムリミットの五分が近づいていた。
◇◇◇
シルバーは去っていくカグラを見送ると、今度は純たちのもとへと歩み寄る。
「ずいぶんと不機嫌そうな顔じゃのう?」
ライトの表情を見てシルバーは尋ねる。ライトはカイトからもらった鍵を大事そうに握り締めて、シルバーの方を睨み返した。
「なんで……なんで、もうちょっと早く来てくれなかったの!?そうすれば……」
ライトが気にしていたのは、他でもないカイトのことだった。白鳥ハウスは彼女の唯一の居場所だった。そんな彼女にとって、カイトは兄のような存在だったのだ。それが、目の前で命を散らした。そして、その後にノコノコと現れたシルバーに そう言いたくなるのもある意味当然だった。
「おい、ライト。そんな言い方はないだろ!」
純はライトに言った。しかし、シルバーはそんな純を制止してライトに話しかける。
「すまんかった。」
そう言って、彼女の頭を優しく撫でた。ライトは、言い過ぎたと思ったのか、ちょっとだけしゅんとなる。それを見てシルバーは続けた。
「私は声が聞こえたからここに来たんだ。『守って欲しい』とそう言っていた。けれども、儂はお前たちを守ってやることができない。私は臆病だ。彼のように面と向かって敵と戦うことなんて出来やしない」
シルバーの目は向こうで戦闘を続けるカグラの方へ向いた。
「だから、彼に全てを懸けたのじゃ」
カグラは現在、ジャックに対して絞め技をかけているところだった。ジャックの暴れ具合を見て、純たちは何となく明るい希望を持ったものの、逆に、シルバーの表情は落胆の色に染まっていった。
「残念ながら、時間じゃ」
その宣告が明らかにすること、それはタイムオーバー。ジャックの動きは次第に緩慢になっていく。しかし、それは、意識が遠退いていったからではなく、カグラの攻撃に対して、耐性を持ったから。すなわち、弱体化が解かれたのだ。
ジャックはカグラの首根っこを掴み返すと、今度は地面に叩きつけ始めた。ぐったりとうなだれるカグラ。その動きが完全に止まると、ジャックは見せつけるように純たちのいる方に向かってその死体を投げつけたのだった。




