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第二章1 『始まりの事件①』

 あの日の出来事から数日後、真島純は生徒会室で会長の業務を行っていた。業務といっても書類に目を通すだけのお役所仕事である。まず教師から受け取った生徒会活動に関する注意書。これは純から言わせれば生徒手帳に記載されていることと大差なかった。生徒手帳なら入学して一週間で百回は目を通していた。今さら認識を改めるようなことではないと純は感じた。

 

 次に生徒会室を探索して見つけた過去の生徒会のファイル。なぜか8年前のものまでしか見つからなかった。特に目を見張るような活動をしていた代はなかったが、気になったのは校則改定の運動が過去何回か起こっていることだった。すべて失敗に終わっているが、純から見ればやり方が温すぎるものばかりだった。参考にもならないと純はファイルを閉じ机の上に投げ捨てた。

 

 そして最後は今生徒会が行っている七夕企画の告知ポスター。デザインはなぜか笹原真美だった。七夕企画という文字と期間と場所と内容等を記載したシンプルなデザインと隅っこに書いてある絵。悪くはない作りだった。真美は生徒会メンバーではなかったが、ポスターなどの製作の場合、外部の絵がうまい人に頼むことがあるので、純は真美の申し出を断ることができなかった。本心ではすごくやらせたくなかったが。

 

 こうして表面上では平和な日常がここ数日繰り返されている。そう、表面上では。あの日以来変わったことは二つ。ひとつめは白鳥海斗が世間から姿を消したこと。引退するということは公表されていたが、白鳥海斗はあの日の公演が終わったあとすぐにいなくなったのだという。それから彼の姿を見たものはいない。

 

 もうひとつは天野光流が訓練を始めたこと。あの日の戦闘で自分の力不足を実感した彼は、あれから人目につかないところで小さめのドラゴンを召喚しては、色々試していた。女神によれば召喚したものの強さは召喚主のイメージ力に比例するという。使い方を正しく知ればそれなりに強くなる。彼も努力をしているのだった。

 

 純は顔を上げると、疲れたと背伸びをした。

「暇だ。・・・帰るか。」

 

 そう呟くと鞄をもち、部屋に残っているほかの生徒会メンバーに軽く挨拶をして扉を開けた。

 

 そこには連城ほのかが立っていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ほのかは純の姿を見るとすぐに持っていた短冊を後ろに隠した。察するに生徒会室前に設置してある笹に短冊をかけようとしていたらしい。蓋の開いたペンが近くにおいてあった。

 

「・・・お疲れ様です、生徒会長。」

 

 顔を赤くしながら、急によそよそしい呼び方で純に声をかけてきた。

 

「何だいその呼び方は、副会長。」

 

 純はほのかのリアクションがおかしくて、笑いながら同じような呼び方で返事をした。ほのかはさらに顔を赤くして下を向いた。

 

「ところで、何を隠したんだい。良かったら見せてよ。」

「だめ、秘密。」

 

 手を伸ばした純から逃げるようにほのかは一歩下がった。純は苦笑いをして目線を笹の方に移した。ほのかの提案ではじめたこの企画だったが、好評なようですでに十数個の短冊がかけてある。

 

「背が伸びますように」

「夏のライブのチケットが当たりますように」

「世界平和」

 

 様々な願いがそこにはかけられていた。叶うわけがないとわかっていても人は昔から神に願わずにはいられない。むしろ人は神に願いをかけているのではなく、その願いを見たり聞いたりしてくれる人の存在を求めているのかもしれない。人の願いを叶えるのは自分自身も含め、やはり人なのだから。

 

 純はおいてあった短冊を手に取ると、ペンで願い事を書いて笹に掛けた。

 

「医者になりたい」

 

 その様子を見ていたほのかが短冊にかかれた願いについて聞いてきた。

 

「純は医者になりたいの?」

「だめ、秘密。」

 

 純はほのかがさっきしたように返した。ほのかは少し頬をふくらませて、いじわる、と抗議してきた。

 

「その後ろに隠したもの見せてくれたら教えてあげるよ。」

「じゃあ、いい。」

 

 ほのかはそう言い残すと、そのままその場から立ち去った。純はやれやれと肩をすくめてほのかとは逆の方向から帰っていった。

 

 ほのかは純が立ち去ったのを陰から見届けたあと再び笹のところに戻ってきた。辺りをキョロキョロ見たあと、一息ついて、もっていた短冊を再びかけようとした。しかし、また動きを止めしばらく難しい顔をして考えてみた。

 

「やっぱり、やめた。」

 

 何だか気持ちが冷めたほのかは、脇にあったゴミ箱に短冊を捨て、生徒会室へ入っていった。

 

 ゴミ箱のなかにすてた短冊にはこのように書いてあった。

 

「彼氏ができますように」

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「リアライズ!」

 

 天野光流が体育館裏で叫んでいた。彼の携帯電話が光ると同時に小型のドラゴンが現れる。光流は手にもっていた空き缶二個を空中に投げ、ドラゴンが自分の思い通りに動くように、頭の中ではっきりとイメージした。

 

 ドラゴンは空中に飛び出すと、空き缶に向けて二発の火の玉を口から発射した。微かな音をたて二発とも命中したものの、空き缶は原型を保ったままだった。続けて猛スピードで一つ目の空き缶に突進し、口の中に捕らえたかと思うと、そのまま噛み砕いた。もう一つの空き缶はそのまま自由落下していく。

 

 今度はドラゴンは体を半回転させ尻尾を使って缶を捉える。そのまま体を回し円運動させ、力一杯缶を叩き落とした。缶は壁に衝突したあと、何回かの衝撃音を響かせ、最終的に回転して地面に静止した。べっこべこに凹んだその缶を拾い上げ、光流はゴミ箱に捨てた。

 

「はあ、これじゃなんか犬を調教してるみたいだな。」

 

 天野光流はくやしかった。自分に与えられたこの力、自分にだけ与えられたこの力を使いこなせなければ、あの男、真島純には勝てない、彼はそう思っていた。彼は真島のようなリーダーシップを発揮する人が好きではなかった。そういう人間がいることで陰に隠れる人間がいる。実際に生徒会選挙では光流は負けた。

 

 でも光流には代わりにこの力が与えられた。彼が純に協力を仰いだ本当の理由は彼の頭脳やカリスマ性を頼りにしたいからではなく、純に見せつけたいからだった。「お前は生徒会長になってこの学校を守るが、僕はこの力で世界を守るのだ」と。

 

 だが結果はこの前のように惨敗。世界を守るどころの話ではなかった。むしろ純が悪魔や兵士に立ち向かっていく姿を見て、さらに惨めになるだけだった。

 

 思えば十年前もそうだった。十年前も光流はどうしても勝ちたい人がいた。001と呼ばれたあいつはいつもみんなを引っ張っていった。今はもう会うことはないというのに、今でもまだその人に勝てそうな気がしなかった。だから今度は別の人だけれど負けるわけにはいかなかった。

 

 そんなことを考えている光流のところに純がやって来た。

 

「練習は順調かい?」

「まあまあだね。」

 

 光流は純があまり好きではなかったが、それでもこの前の出来事で認識を改めざるを得ない部分があった。それは彼の過去だった。光流に過去の因縁があるように彼にもそれがあった。偶然とはいえ悪魔と出会ったことで吐露した過去が。

 

「巻き込んで悪かったな、その・・・昔あんなことがあったなんて知らなくて。」

「いいんだよ。前は悪魔なんて言っても誰も信じてくれなかった。ちゃんとわかってくれて逆に感謝したいくらいだよ。それに君は僕に悪魔と戦うチャンスをくれた。これで過去の因縁とも決着をつけることができる。」

 

 純は明るくそう言ってるが、今まで心の闇を抱えてきたのだ。本当なら正常な精神を保っていなくてもおかしくない状態だろう。そこが彼のすごいところなのかもしれない、と光流は感じた。

 

「過去の話で言えば、君も面白い話を持っているようじゃないか。003だっけ?」

「連城から聞いたのか。もう昔の話だ、面白くもなんともない。知りたいなら連城に聞けばいいじゃないか。」

 

 ちょうどさっきその事について考えていた光流は、良くないことまで口走りそうだったので、純の話には乗っからず、そのまま純の横を通りすぎ、その場を去った。

 

「何でこうも相手に逃げられるのかな。」

 

 純は肩をおとしながら、同じく帰路についた。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「オオー、これも美味しそうですね。写真とっとこ。」

 

 灯月和音は町中にある、とある店で学校帰りにケーキを食べていた。ケーキを写真にとったあと、ふと窓の外を見ると不思議な光景が目に入った。

 

「あれ?ガイコツさんが歩いてる。」

 

 このことが彼女を戦いに巻き込むきっかけになるのだった。

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