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第十二章4 『反逆のジャック①』

白鳥海斗は郊外に別荘を持っていた。彼がマジシャンだった頃の人気を考えれば、当時の収入がどれ程のものだったかを、推定するのは、そう難しいことではない。そんな彼の懐から大金をはたいて購入したその別荘は、いまでは、ある目的のために機能していた。


行き場を失った悪魔の隠れ家。


シャドウが死に、フェンリルがいなくなり、そして彼らは残された。そんな窮地を救うために、カイトが動いてくれたのだった。生活費は無料、寝るところも用意されていて、そのうえ食事もついてくる(ただし、自炊)。そんな、『しらとりハウス』は来るもの拒まず、去るもの追わずの精神で運営されていた。


例に漏れず、行き場を失った悪魔に成り果ててしまった、真島純/ジョーカーもそこの住人になっていた。

しかし、事情が事情のため、純の心はいつまで経っても晴れない。そんな純を心配してか、カイトは優しく声をかける。


「浮かない顔をしてるね。お金ならあげるよ?いくら欲しい?」

「そういう問題じゃないんだが」


言葉ではそういいつつも、純は内心不安になって、自分の財布の中を覗いてみる。確認できたのは、千円札一枚と、レシート数枚、そして、なけなしの小銭だった。


「……」

「いる?いらない?」

「……とりあえず、イチ……五千円」

「はい」


純はカイトからもらった五千円札一枚を自分の財布の中に補充した。

純がこの家を訪れたのは、昨日の夜だった。学校で自分の正体を明かし、ほのかたちのもとから去った後、一度は自分の家に帰った純。しかし、もう二度とほのかたちとは会わないと心に誓った以上、自宅にいるのはあまり得策ではないかもしれないと考えた結果、最低限の荷物をまとめて、彼は家を出た。


そして、迷い、悩み、少しだけ旅をした結果、この家にたどり着いたのであった。カイトは快く純を迎え入れ、詳しいことは一切聞いてはこなかった。純も詳しいことは言わなかった。一晩、寝て、ベッドの中で思い悩んだ。けれども、純の心のモヤモヤが、解消することはなかった。


そんなとき、純とカイトがいるリビングの、その扉がガチャリと音をたてて開いた。


「あー、もう。こんなクソ暑いのに、冷房無しなんて有り得ないんですけど」


ボサボサに乱れた髪に、決して大人びてはいないその顔。それは、パジャマ姿のライトだった。右手には可愛らしい熊のぬいぐるみも握っている。

現在の時刻は午前十一時をまわったところ。寝坊にしては、遅すぎる時間である。


「ごめんね。冷房いまつけるから」

「んっ?」


そんなライトも、純の姿に気づいて、その眠そうな目をパチパチさせる。そして、一気に顔を赤くしたかと思うと、声を張り上げた。


「な、な、なんでっ!アンタがここにいるのよっ!」


純の方も、この家にはカイトしかいないと思い込んでいたため、幾分かバツが悪い。そんな二人の仲を取り持つように、カイトが仲裁に入った。


「あっ、ライト。彼が今日からここの住人になる、真島純。ジョーカーだよ。そして、こっちがライト。先週からここにいる、一応女の子」

「一応、って何よ?」


ライトはむすっとした表情を見せる。純の方も何とかコミュニケーションをとろうと、にっこりと笑っては見たものの、ライトには通じず、逆に、警戒するような視線を送られてしまった。新参者の純にとっては、前途多難であったが、もうひとつの気になることをカイトに尋ねてみた。


「他にも住人はいるのか?」

「いないよ。僕としては、残った七人で同じ屋根の下で暮らすのも、賑やかで悪くないと思ったんだけどね。シャーリーは集団生活は苦手っぽいし、カグラは持ち家があるらしい。残りの年長の二人は行方知らず」


その話を聞いて、純は喜び半分、そして、複雑な気持ち半分だった。この家で暮らすためには、目の前の少女と仲良くしなければならないからだった。純はもう一度、今度は苦笑いを送ってみたが、やっぱりライトには受け入れられなかった。


「アンタ、学生やってるって言ってたわよね?じゃあ、当然、帰る家もあるんでしょ?なんで、わざわざこんなところに来るのかな?私、悪魔だけど、人間で言えば、まだ中学生なんだから。……この、ロリコン!」

「なんでっ!そこまで言われにゃならんのだ!」

「ふんっ!」


打ち解けるのは、まだ難しいだろうな、と感じる純だった。


◇◇◇


コツコツ……

ジャックが地面に足を下ろす度に、靴の音が辺りに響いた。彼の手には相変わらず大きな剣が握られている。フェンリルが姿を消してから、今に至るまで、彼はずっと一人であるものを探していた。そして、それを持つ人物に会うために、今日はこの路地裏へと足を運んだのだった。


「商談成立、と受け取っていいのかしら?」


ジャックの目の前に現れたのは、浅海葵だった。彼女の目には、今までのそれとは違う何かが宿っていた。ジャックも彼女の姿を見て、何か意味深な笑みを浮かべる。


「まあ、そういうところだ。こちらとて、このままじゃ終われない。フェンリルがいなくなっても、俺たちは悪魔だ。きっちりとかたをつけないと、気が済まねえんだよ」

「そう、よかった。あなたには感謝しているのよ」


二人はある計画を立てていた。それは誰も後悔しないような結末を迎えるために、立てた計画であったし、そのことをやる意味は十分にあると考えていた。


「俺の固有スキルは『略奪の剣』。固有スキルを奪う固有スキル。他の奴とはちょっと変わった代物だ。後は俺に任せてもらうぞ」


「大事な妹を守るためだもの。後悔なんてないわ」


浅海葵は言った。

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