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第十二章2 『十年前の真実②』

自分のことは自分が一番知っている。


これは嘘だと思う。自分の幼少時代のことは自分の親の方が詳しく知っているし、そうでなくても、自分の普段の癖と言うものは、周りにいる人の方がよく気づく。自分の知らない自分なんて、見つけるのは案外簡単なのかもしれない。


真島純はどこかの本で読んだような、そんな言葉を思い出しながら、思考をフル回転させて、何とか口に出す言葉を絞り出していた。


「そんなわけないだろ……?生徒会長になる以前は、こいつらとは接点なんてなかったし、そもそも……クロは十年前に死んだって俺に教えてくれたのは……連城、お前じゃないか!」


そこまで言って、純はあることに気付いた。

人間から作った8人の悪魔、とフェンリルが言葉にしていたことを。


「そういうことなのか……」


純は頭を抱えた。

仮にその事が事実だったとしても、今の純には自分がクロだった頃の記憶なんて一切なかったし、逆にそれがほのかの思い違いだったとしても、今の純が『誰か』をもとにして作られたというフェンリルの言ったことを完全には否定し得ない。


けれども、考えているうちに、純はほのかの言っていることは、正しいように思えてきた。あまり考えないようにしていたことだが、黒崎家で養ってもらっているとき、何度か思うことがあったのだ。彼らは本当の家族のようだと。ある日、押し入れの奥にふと見つけた、黒崎家のアルバムを開いてみれば、その真実がすぐにわかるはずだったのに、それを心のどこかで拒んでいたのは、純自身だった。


うなだれる純を横目に、それを否定するような会話が聞こえてきた。

声の主は和音だった。


「何言ってるの、ほのかちゃん!いくらクロの死を受け入れられないからって、そんな妄想にとりつかれちゃダメだよ!」

「妄想なんかじゃない!純は記憶喪失なだけなの!」

「しっかりしてよ!クロは死んだの!死んだんだって!」


和音の声が一段と大きくなった。まるで、ほのかだけじゃない、他の人にも言い聞かせるような口調だった。きっと、自分自身も心のどこかで抱いていた希望を、いっしょに掻き消すように言っていたのかもしれない。


「でも、警察の人が、死体は見つからなかったって言ってたでしょ!」

「もう思い出させないで!」


和音は、自分の鞄につけていた、『4』のナンバープレートを引きちぎると、床に叩きつけて、ほのかに見せつけるようにして、何度も何度も踏みつけた。


「こんなことなら、私たちは集まるべきじゃなかった!一度解散したときに、そう決めたはずなのに……。時間が経って、忘れちゃったんだ!」


和音は途中から涙声になっていた。

純は見ていられなくなって、つい、口を挟んでしまった。


「もし、連城の言ってることが本当だとしたらどうする?俺にその記憶はないけど、彼女のいっている通り、記憶喪失だとしたら?」

「生徒会長さんまで、何言っちゃってるのかな……?名前がちょっと似ているからって、有り得ないよ。クロの面影だって全然無いし……」


和音は純の顔を見て、確認するように言った。きっと彼女は、純が否定してくれるのを待っているに違いなかった。

もう、これ以上、情報を隠しているのは、お互いに辛かった。だから、純は決心した。


「姿かたちが違うのは、きっと俺が人間じゃないからだ」

「えっ……?」


純は仮面とマントを取り出して見せる。そして、驚く彼女たちを横目にそれを装着した。


「我が名はジョーカー。悪魔だ」

「嘘でしょ……?冗談はやめてよ。生徒会長さんは、今まで私たちといっしょに戦ってきたじゃん!この前だって、悪魔たちをやっつけようって、言ってたじゃん……」


純は返す言葉がなかった。ただ、これだけは言っておかなければならなかった。


「俺たちは人間をもとにして作られている。だから、俺がお前たちの言う、クロをもとにして作られた可能性を否定はできない。ただ、さっきも言った通り、記憶はない」

「もう、嘘をつくのもいい加減にして!今日の二人はなんか変だよ!」

「嘘じゃない!これを見てもまだ俺が人間だと思えるのか!」


純は、背後の壁を思いっきりぶち抜いた。人間では到底できない所業。純が人間ではないことを示す、明らかな証拠だった。


「自分の正体を明かした以上、俺はもうここにはいられない。お前たちとはいられないんだ。これでもうわかるだろ?お前たちが悩む必要はない。クロは死んだ、それで……終わりだ」


純はほのかたちに背を向ける。仮面の下の純の表情は、どんなものなのかはわからない。けれども、もはや、気丈に振る舞っている余裕なんて彼にはなかった。


純はさっき自分が壊した壁から、外に飛び去っていく。


遠ざかる純の姿を、残された七人は、ただ、見送ることしかできなかった。

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