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第十一章4 『魔界の門④』

ジャックが動いた。

ジャックの一番近くにいたのは、大吾。そして、その後ろに孝樹と和音が続いていたが、ジャックはその三人を素通りして、最後列にいた光流と弥彦の召喚獣のところへ一直線へ向かった。

ジャックは大吾の横を通りすぎる際、驚いた表情を浮かべた大吾に向かって、挑発するように笑っていた。それを見て、大吾は、俺を無視するなコノヤロウ、という怒りの気持ちもあったし、挑発に乗ってやるよコノヤロウ、という高ぶる気持ちもあった。


大吾は地面に足をつけると同時に体を半回転させ、右手の大砲で、距離を広げるジャックに向かって狙いを定めた。


「吹き飛べ、悪魔野郎」


大吾はそう吐き捨てると、最大出力で砲撃を放った。特大のエネルギー波を纏った緑の閃光が、音速を越えるスピードでジャックに迫る。しかし、それをジャックは慌てることなく、右手に握った剣で一度受け止めると、そのまま真上に受け流した。


ジャックはもう一度剣を握り直す。そのわずかな隙に、白虎の双牙がジャックの背後から息つく間もなく襲いかかった。


「おっと。危ない危ない」


そう言って、ジャックは白虎の太い牙を難なく掴んだ。人間の姿をしていても、本質は悪魔。そのパワーは人間の比ではなかった。前に進むにも、後ろに下がるにも、ジャックの掴んだ牙のせいで、白虎は行動がままならない状態だった。


グルルル、と白虎は恨めしそうにジャックを睨み付ける。


「そんな目で見るなよ。気持ち悪い」


ジャックは背後に迫る大吾たちの気配に気づいて、白虎の掴んだ牙を下方向に引っ張る。そして、頭をを垂れた白虎の頭に乗り、そのまま逃げるように走り出した。

後ろからの、大吾たちの攻撃を辛うじて避けながらも、ジャックが次に目指したのは、ギガレイヤーだった。


「ハァアアァァッ!」


ジャックは剣の束を両手で握りしめて、気合いを入れると、固いはずのギガレイヤーの装甲を力で叩き斬った。そして、その残骸の一部をサッカーボールのように蹴りあげると、背後に迫る大吾たちへとお見舞いする。その残骸は避け損なった孝樹へと直撃する。


「孝樹!」


派手に転げ落ちていく孝樹に向かって和音は叫ぶ。


「危ない!」


今度は大吾の声だった。

孝樹に気を取られて、視線を外した和音だったが、気が付いたら、ジャックはその和音の目前へと迫っていたのだ。

大吾は和音を守ろうと、ジャックにタックルをして、引き離した。しかし、その勢いをジャックに逆に利用されて、今度は大吾も、悲鳴をあげながら、派手に吹き飛ばされた。


そうこうしているうちに、白虎も起き上がり、ジャックは挟み撃ちにされる。しかし、挟み撃ちにしているのに、和音は全然追い詰めた気がしなかった。むしろ、追い詰められているのは自分達の方、という認識が強く頭の中にあった。


ジャックは剣を構え直す。しかし、ここで予想外の事態が起きた。校庭が光り始めたのだ。これは明らかに術式が起動し始めた証拠だった。和音は校舎にいる純の方に視線を送った。


「バカな。早すぎる」


純は焦るように言った。途端に純の握っていた携帯電話が震えだす。着信は慧からだった。


「もしもし、そっちの状況はどうなっている。まさか、負けたとは言わせないぞ」

「負けてはないよ。というか、ボクのところはハズレだったみたい。悪魔は一人もこっちには来ていない。それよりも、柱が急に光り始めたんだけど、どうすればいいのかな?」


慧の話を聞いても尚、純には何が起きているのか、皆目検討もつかなかった。

柱には悪魔が接触しない限り、起動しないような細工を施していたし、そもそも、八本同時に起動しなければ、術式は発動しない仕掛けだった。

ただひとつ、不確定要素があるとすると、フェンリルが自分達に真実を話していたとは限らない、ということだった。


「フェンリルめ。何かしたな?ならば取る手はひとつ。総員、今すぐにあのクリスタルを破壊しろ!」


純はフェンリルの封印されたクリスタルを指差して叫んだ。

しかし、遅かった。クリスタルは、目に見える速度で急速に溶け出していき、なかに閉じ込めていた人物のシルエットを浮かび上がらせた。


そして、まもなくフェンリルは復活した。


それだけではない。大きな地響きとともに、校庭に真っ黒の線で描かれた模様が現れる。


「門が……開く……」


純はただ、その様子を見ていることしかできなかった。

魔界の門がその姿完全に現すと、フェンリルは天にも届く声で、話し始めた。


「ご苦労だった。諸君らのはたらきには素直に敬意を示したい」


フェンリルの声はどこか恐怖を感じさせるものがあった。そんなフェンリルは、何かを思い出したように、そうだ、と呟くと腕をひと振りする。すると、校庭には純を含め、八人の悪魔が強制テレポートされた。


「おかえり、同胞たち」


純にとっては、こんな状態で正体をばらされるなんて思いもしなかった。しかし、今の言葉で何人の仲間が、純が悪魔だということに気がついただろうか。そんなことを考えていると、フェンリルは再び口を開いた。


「ひとつ謝らねばならないことがある。いくら我が身が封印されているとはいえ、人間風情に悪魔の力を渡すことになるとは、とんだ愚行だったと思う。おかげで不完全な悪魔もどきが八体もできてしまった。すまないと思っている」

「悪魔もどき?」


純は耳を疑った。その疑問は八人の悪魔の誰もが持ったことだろう。そんな疑問を解消するように、フェンリルは実に分かりやすく言い換えてくれた。


「つまりだな。君たちは本当の悪魔ではない。私の封印を解くためだけに、人間をもとにして作られたいわば人形で捨てゴマだ。私はお前たちを魔界につれていく気は毛頭ない。あとをこの世界で自由に暮らすといい。では、さらばだ」


人間をもとにして作られた……捨てゴマ……?

純は頭がこんがらがった。この展開に頭がついていかなかった。つまり、どういうことなんだ、と既にわかりきっていることを頭のなかで何度も模索していた。

純と同じような表情をする悪魔たち。そのなかで、シャドウが力なく笑いながら口を開いた。


「ははは……ははは……。つまりはよ、俺たちはただ、利用されただけってことだろ?」

「そうだ」


フェンリルは迷うことなく答える。


「ふざけんなよテメエ!こんな宣告をされて、素直に従えると思ってるのか?殺すぞ」


シャドウは固有スキルを発動させようとした。

しかし、フェンリルに首根っこをつかまれる。


「殺すだと?よくそんなことが言えるな?悪魔と悪魔もどきの力の差をここで見せつけてやろうか?ああ?」


フェンリルは鋭い目付きでシャドウを睨み付ける。


「上等だ、コノヤロウ。……ぐふっ。なんだ?何しやがった?やめろ……やめろ!体が……ああ……ああああああああああ!」


シャドウの体は、肉片も残らないくらい散り散りに砕け散った。

それだけで、フェンリルとは絶対的な力の差があることは十分に知れた。だから、もう誰も、口に出そうとは思わなかった。


「そうだ。ジョーカーよ。貴様が一番興味深いやつだった。あれは実に面白い余興だったぞ。だが、貴様の夢見た世界をこんな形で壊してしまって済まなかったな」


フェンリルは最後にそれだけを言い残して、魔界の門の中へと消えた。

残された純たちは、ただ、その場を動くことはできなかった。


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