第十章5 『研究所の秘密⑤』
桐崎織戸は怒りに震えていた。
「よくも裏切ってくれたな」
彼には慧と過ごした時間が少なからずある。彼女の思いは理解していた。だから、その思いを最悪の形で踏みつぶされたことに対し、誰よりも憤りを感じるのだった。
楓はため息をつく。
「はあ。最初に研究所を裏切った裏切り者がよく言うわ」
彼女が腕を振ると、織戸の周りはおびただしい数の植物に覆われ始める。しかし、織戸は剣捌きであたりの植物を一掃した。
「許されると思うなよ」
織戸は楓に詰め寄った。
「危ないぞ!」
純はそれを見て叫ぶ。双葉亜矢がいるので、視力を奪われるのも時間の問題だったからだ。そうなれば、織戸は圧倒的に不利になる。
しかし、織戸が返した答えは意外なものだった。
「大丈夫だ。闇の元素の能力は、止まっている、もしくはゆっくりとしか動かない物体にしか効かない。素早く動いていれば恐れることはない!」
それを聞いて、純は納得する。
その時だった。一閃の光が頭上を貫いて、研究所の壁に着弾、破壊した。
「双葉亜矢。いい加減にしろおお!」
真矢も到着する。
しかし、亜矢はその声を聴いてもなお、きょろきょろと辺りを見渡していた。
「亜矢?どこ見てるの?」
亜矢の様子に首をかしげる真矢。
そして、彼女はあることに気が付いた。
「もしかして……目が見えてないの?」
その一言に、楓も含め、その場にいた全ての人間が驚愕した
「ふっ。ざまあねえな。欲を出した結果がこれだよ」
亜矢は頭を抱える。
楓が現れてから、彼女は目が見えなくなっていた。しかし、それを悟られたくない一心で今まで何とか取り繕ってきた。本当は織戸の姿も、亜矢は見えていなかったのだ。
「来るなあ!」
「大丈夫なの?亜矢?」
「全然大丈夫じゃねえよ。すっげえ痛いよ。でも、あんたに心配されるのはもっと苦痛だ」
亜矢は目を抑え、苦痛に顔をゆがめる。痛いというのは嘘ではないらしかった。
真矢はゆっくりと亜矢の元へと近づく。しかし、先程から虚勢を張っているものの、彼女の体も、限界に近いのは事実だった。彼女を動かしていたのは、双子の姉への執着。それだけだった。
真矢は亜矢の元へとたどり着くと手を握る。
「大丈夫だから」
「うるさいうるさいうるさい。もう後戻りなんてできないんだ」
「後戻りなんてする必要ない。ここからまた始めればいい」
「お前のそういう所が嫌い……なんだよ」
「嘘……つき……。素直じゃないんだから……」
周りには二人が何を話したかはわからなかった。
けれども、二人のやり取りが終わった後、気を失うように、二人とも地面に倒れこんだのは見えた。ほのかたちは急いで駆け寄る。二人の手はしっかりと握られていた。
その頃には、織戸と楓の戦いも決着がついており、研究所での戦いは幕を下ろすことになった。
◇◇◇
同刻、研究所内
隆一を殺した慧が次にしたことは、破壊されていく実験室から、サンプルなどの試料を持ち去ることだった。黒幕が死んで終わりではない。元素融合体が普通の人間に戻ってこそ本当の終わりなのだ。
実験室を探し回って慧が見つけたもの。それは、ケースに詰められた薬の様なもの。ケースには『抗元素剤』と書かれていた。
これを使えば能力は失われ、本当の平穏が訪れる。
はずだった。
しかし、建物が崩れるのが早かった。
崩れた建物の影から慧が姿を見せる。彼女は水圧であたりの物を吹き飛ばし無事だった。けれども悲しそうな表情を浮かべていた。ケースが破損、被害は中の試験官にまで及んでいた。試験官が破壊され、残ったのはわずか四本だけだった。




