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第九章3 『学園攻防戦③』

校舎内、玄関付近。

清浦鈴音と水沢慧の二人は対峙していた。

「っていやーっ!」

慧は手で作った水弾を野球ボールのように鈴音に向かって投げつける。空気を切る音。これで何度目だろうか。零れ落ちた水滴が廊下をびしょびしょに濡らしていた。

「……氷結」

それだけではない。先程から鈴音へと放っている水弾は、彼女の一言でいとも簡単に凍り、音を立てて無残に砕け散る。破片。その破片が、空しく鈴音の横を通り過ぎていく。そうやってできた氷の山が鈴音のまわりには散らばっていた。

「はあ……はあ……」

「きつそうね」

鈴音は、壁に手をついて体を支えている慧を心配そうにして、そう声をかける。

「あたり……まえでしょ……」

彼女は既に刻との死闘を繰り広げたばかりである。正直にいって、体力がまだ完全には戻っていなかった。

それに加えて、『水』と『氷』という相性の悪さ。夏休みという時期もあり薄着だった慧にとっては、予想以上の寒さで、手先の感覚が鈍くなってくる。

水を発生させてもすべて氷になるという空しさ。

しかし、近接戦闘に持ち込もうとしても、足場が悪くて、近づけないというもどかしさ。

それが、今おかれている彼女の状況だった。


「なら、これで終わりにしましょ。『氷姫の滅弓撃ワン・ダ・リンク』」


鈴音が両手で弓のを構えるポーズをとる。

そこには何も見えない。しかし、次第にゆっくりと形成されていく、一本の先の鋭利な武器。

氷の矢だった。

氷といえども、条件が整えば、人を傷つけるのは容易である。それを示すかのように、矢の先端はキラリと光る。

慧はじりじりと後退する。逃げるしかなかった。

鈴音はそれを見て笑った。


発射ジャスト


一本の矢が廊下を貫く。

慧は、防御のために、水の盾を作ってはみたが、無駄なのはわかっていた。


「っぐわあ……はあっ……」


右肩を貫かれた。

思わず床にしゃがみ込む。


元素融合体(エレメントハイブリッド)と言えども、手負いの状態じゃ、こうも弱いのね」


鈴音はそう言いつつ二本目を準備する。

発射ジャスト

慧へと向かうその氷の矢に、迷いはなかった。

その時だった。

氷の矢が砕ける。

見上げると、いつの間にか、仮面にマントの男が、二人の間に立ちふさがっていた。

ジョーカーは二人の顔を交互に見る。慧は彼の中身が真島純だということは知らない。

彼は手に残った氷の欠片を握りつぶすと、二人に問いかけた。


「失礼。ちょっとだけお話をさせていただけるかな?」


鈴音は訝しげな顔をした。



◇◇◇


荘真と乱、そして、葵。

三人の間の時間が一瞬だけ止まった。お互いに顔を見つめる。

「くっ……」

一瞬の隙をついて、その場から逃げようとする葵に対し、荘真は笑う。

すると、強風が吹き、乱と葵は壁へ通し戻される。それを見て荘真は満足そうに笑っていた。

「逃げんなよ。この……臆病者」

荘真は語尾を強調した。

その言葉にカチンときたのは乱だった。

「おい、てめえ。いま何て言った?」

「やめなさい!二度とそういう真似はしないと誓ったはずでしょ、乱?違う?」

乱は軽く舌打ちをして、乗り出した体をもとの位置まで戻す。

「わかってるよ」

もう一度風が吹く。

辺りに散らばっていたゴミが舞い上がった。荘真は地面に転がっていた壊れた自転車の一部をその手に掴んだ。まるで、武器のように。

それを葵の横の壁に叩きつけて、さらに扱いやすい大きさまで砕く。

「きゃ……」

葵は小さな悲鳴を上げる。

その破片を持って、荘真はまるで今から殺人を行うかのように、殴る構えになった。

「まさか……ね?」

「世の中には免罪符っていうものがあるんだ。だから、正義の味方が一般人を戦いに巻き込んで殺してしまっても、仕方がないこととして扱われるんだ。こ、ん、な、ふ、う、に、ね」

自転車の破片が鋭く光り、振り下ろされる。


◇◇◇


運動場では、3vs1の激戦が繰り広げられていた。

倒しても倒しても、ゴーレムは増殖を続け、平らだった地面は既に見通しの悪い荒れ地と化している。

優勢なのは泉飛鳥だった。


「あきらめなよ。いまの状況では私とキミたちの間には歴然とした力の存在する」


彼女はそう言った。

確かに、実際には3vs1ではなく3vs10ぐらいの差があり、一方的に光流側の体力が削られていくだけだった。

そして、飛鳥は何かに気付いたように、光流たちのその後ろに視線を送る。

「更に悪い知らせだ」

光流は振り返る。

「はあ……はあ……」

そこには火渡刻の姿があった。


「おかえり、刻。協力感謝するよ」

「悪いな、飛鳥。俺は研究所を抜けた。つまり、今はもうお前たちの仲間ではない」


刻は光流の肩をつかむ。


「俺たちの仲間はこいつらだ!」

「おかえりー。待ってたよ、刻」


和音は嬉しそうに刻の元へと寄って行った。


「何を言っている?どうかしちまったのか?火渡刻」

「どうかしてるのはお前らの方だ。あんな研究所にいつまで協力するつもりだ」


刻は吐き捨てるようにそう言った。


「あんまり時間はかけたくない。ケガをしたくなかったら、お前らは俺より後ろに居ろ」

「刻、私を倒すつもり?」


刻は笑って頷く。


「知ってるか?水は100℃で蒸発し、鉄は1500℃で、ドロドロに溶ける。太陽の温度は6000℃で10000℃に達すれば、その炎は全ての物質を原子レベルにまで分解するほどのエネルギーを内包する。俺は炎のマテルアル!消し炭となれ、百式炎華業王剣!」


炎が校庭を包み込む。ゴーレムは跡形もなく姿をけし、残ったのはドロドロに溶けた地面だけだった。


「うそっ!まじ!?」


「あと……二人だ」


刻は校舎を目指した。

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