第九章1 『学園攻防戦①』
生徒会室では、今まさに作業の途中だった。
「最近、会長さん生徒会室空けること多くなりましたね。ふぅ。職務怠慢ですよ。へぁ」
真美は口をそう動かしながら、地道な流れ作業を手伝っていた。
「変な声出さないの。色々普通じゃないことが起こってるんだから、仕方がないのよ、きっと」
「は~い」
「それと、小鳥ちゃんも、もっと頑張って」
「……」
「タルトちゃん。頑張りましょう」
「……わかった。がんばる」
名前を呼ばれた田春小鳥は、よほどタルトというニックネームが気に入っているのか、そちらの方で名前を呼ばれたときにしか反応しなかった。
現在、学校は夏休み。
そんな中でも、生徒会室に通って作業をしているのは、田春小鳥、笠原真美、連城ほのか、の三人だけだった。ただ、数時間ほど前までは、ほのかの幼馴染の水沢慧もここにいた。けれども、メールを受け取って、急に飛び出したきりまだ帰ってこない。
そんな時だった。
ガラガラッっと、生徒会室の扉が開けられる音が耳に入り、続いて、聞きなれた声が部屋の中に響いた。
「無事ですかっ!何も起きてませんかっ!」
水沢慧と真島純だった。
二人は入ってくるなり、すぐにそう確認した。
「どうしたの?こっちは大変だよ」
ほのかは、はあ、とため息をつきながらそう答える。
「何が起きた?」
すぐに、焦ったように純が確認する。
「仕事。純がサボるから、山積みで残ってるよ」
「なんだ、そんなことか……」
純の返答に、ほのかはむっとした表情をした。
そんなほのかの表情を見てか、すぐに会話に真美が入ってくる。
「そんなことか……じゃないですよ!会長、私たちは夏休みを返上して仕事をしてるんですよ!ご褒美があってもいいくらいです!」
ご褒美、という言葉に、小鳥がピクリと反応する。
「……ご褒美、ちょうだい。美味しいものが、いい」
それに真美も便乗する。
「それはいい案だっ!」
こうして純は、真美には、ごほうびっ、ごほうびっ、と迫られ、一方で、小鳥には、美味しいもの……、美味しいもの……、と迫られる羽目になった。
慧もその様子を微笑ましく見ている。
「そうだね、三人とも、お疲れ……さ……ま……」
「慧ちゃん!」
それは突然だった。
慧は急に体の力が抜け、床へと崩れ落ちた。
◇◇◇
慧が目を覚ますと、覗き込むようなほのかの顔が見えた。
「やっぱり無理してたんじゃないか」
純が言った。
「大丈夫だと思ったんだけどなあ。あはは」
慧は苦笑いをしながら、答える。
慧の体には今までの戦闘の疲れが溜まっていた。それが、今のタイミングでドッと出たのだ。
「心配かけてごめんね……」
その時だった。
ドゴンッというような大きな音が生徒会室まで届く。音が聞こえてくるのは窓の外。ちょうど校庭の方向。
そして、その後にくる、地震のような揺れ。
「なんだ?」
純は呟く。しかし、頭の中では分かっていた。純は急いで校庭の見える場所まで走って行った。
「三人も……」
そこには、三人の男女の姿が見えた。顔まではよくわからないが、それでも推測はできる。
元素融合体。
「結構早かったね。どうする?」
後から追いついてきた慧は純に尋ねた。
「やるしかない」
純は言った。
生徒会室に戻った純は、ほのかたちから引き止められる。
「一体何が起こってるの?」
「招かれざる客だよ」
純は言った。
◇◇◇
ちょうどそのころ、校庭には、風のマテリアル近衛荘真、土のマテリアル泉飛鳥、氷のマテリアル、清浦鈴音の三人がいた。
「ふはぁ。あくびが出るぜ。早いとこ、殺っちまおうぜ」
荘真はつま先で地面の土を蹴りながら、手持無沙汰に言った。
「飛鳥、お前はここにいて、出てきたやつを全員捕縛しろ。俺と鈴音は校舎の中に入ってあぶりだす。どうせ夏休みだ。そんなに人もいないだろう。派手にやろうぜ」
「……って私は一人ここで待機!?なんで!?」
指示を受けて、飛鳥は、荘真に突っかかる。
「は?お前の特性を最大限に生かせる場所は校庭以外にないだろ?」
荘真は拳を突き合わせながら返す。
「確かにそうだにゃ。りょうかいっ!」
「むにゃ。ちょっと眠いけど、頑張る」
飛鳥と鈴音は、各々に返事をしながら、一歩足を進める。
「じゃあ決まりだな。レッツゴー」
「「ラジャー」」
神箜第二学園が危機に晒されていた。
◇◇◇
純は元素融合体の危険性も含め、今の状況をほのかたちに説明する。
ほのかは、心配そうに純の顔を見つめていた。
「閉じ込められた……っていうこと?」
「極端に言えばな。でも、可能性がないわけではない」
「よくわからないけど、私も手伝いますよ、会長。とりあえず様子を見てきましょう、ほのか先輩」
「待て!お前らがいく必要は全然ない!」
「大丈夫ですよっ!会長は休んで疲れでも癒しておいてくださいっ!」
武器になるようなものを持って生徒会室から出ていく二人。純はその背中をただ見つめていた。
二人はまず、生徒会室から一番近い出口に向かった。
正面玄関へ向かうと冷気が頬にあたる。鈴音の作った氷で入り口がふさがれていた。もちろん、鈴音の姿もそこに確認できた。
(真美、別のルートを探そう)
(不意打ちで倒しちゃったほうがよくないですか?向こうは気付いてないみたいですし)
(バカなの?)
二人は小声でそんなことを話し合う。
そんな二人の気配を察知したのか、小さな氷のかけらが飛んでくる。
飛んできた方向を見ると、鈴音が二人の方に顔を向けていた。
目が合う。
「見つけた」
彼女は言った。
「逃げましょ、先輩」
真美は危険を感じ、ほのかの手を握って元来た道を引き返す。
「逃がさないよ」
次の瞬間。真美の周囲に数多もの氷が生成し、真美の身動きが取れなくなる。
「真美!真美!」
「くそっ!」
真美が目の前にできた氷の壁に向かって媚び詩を振り下ろす。しかし、びくともしない。
「おとなしくしてほしいな」
鈴音は言った。
しかし、鈴音は何かを感じたのか、急に二人から氷の壁の方に視線を移し、じっと見つめる。
二人も、何だろう、と同じ方向に目を向ける。
音が……聞こえた。
しかも、それがだんだん大きくなってくる。
鈴音の顔に水が当たった。
氷の壁が砕け散った。
「次はこっちだ。ボクの大事な友達に、手出しはさせない」
氷の壁の向こうから、水沢慧が姿を現した。




