第八章5 『雷炎の襲来⑤』
吹き飛ばされた瞬は、地面にたたきつけられて、痛そうに体を動かしていた。
「大丈夫か!神山!」
それを目の当たりにした火渡刻は瞬の元へと駆け寄る。
「刻、何をやっている!あいつだ!藤宮大吾だ!お前も協力して、ぶっ潰すんだよ!」
瞬は刻の姿を見ると、破壊された工場の方を指さして、叫んだ。
しかし、その時に目に入った。刻のその背後の空中に浮かぶ、一体の青いモンスターを。
アークレイトレイン。光流が召喚した、そう名前の付いたモンスターの姿が、瞬の思考を停止させる。
「何なんだ、これは……」
その姿を見て、瞬は呟いた。
それと同時に、工場を中から、大吾と和音が飛んでくる。大吾は瞬の姿を確認すると、笑った。前門の虎、後門の狼。まさにそのような状況に陥ったマテリアルの二人。
刻は瞬に告げた。
「もうやめだ。撤退するぞ」
一方で、神山瞬は、この状況を見て、壊れたように笑った。
「くくくくっ……。どうやら遊んでいる暇はなさそうだな」
「何を言っている?俺の話を着ていなかったのか?現状の把握はできた。それで十分だろ?」
「ふざけるな!このまま帰れるかよ、この負け犬が!」
「何だと?冷静になれ、神山!このままだと無駄な被害を増やすだけだ!いいから、帰るぞ!」
刻は逃げたかった。
刻の目には、慧の姿が、光流の姿が、詩の姿が、まるで今の自分を責めるかのように映っていた。
だから、逃げたかった。ぐちゃぐちゃになった自分の気持ちを整理するためにも。
しかし、その思いは、見透かされたかのような瞬の言葉によって、砕かれた。
「ああ?なんかお前、変わったな?何かあったのか?」
刻は何も返せなかった。
そんな様子を見て、瞬は畳み掛けるように言った
「勝機はある。例のあれを使う」
その言葉を聞いて、刻の顔が変わった。
「あれを使う気か!?やめろ。やめるんだ」
「二度と刃向う気が起きないくらいに、叩きのめしてやる」
刻は瞬の元へと迫る。
「おい、聞け!あれはまだ実験の段階で……」
「お前、いい加減、鬱陶しいよ」
次の瞬間、バチッと音がして、膝から崩れ落ちる刻。刻の体を電気が貫いた瞬間だった。
「そこで黙って寝てろ」
瞬は刻が動かないのを確認すると、両の拳を突きあわせて叫んだ。
「β(ベータ)イグニッション」
その瞬間、何か莫大なエネルギー辺りを包んだ、そういう表現がぴったり当てはまる。
「またせたな。反撃の開始だ」
見ると、瞬は雷鳴とともに姿を消していた。
◇◇◇
「くそっ!」
「どうなってやがる?攻撃が当たらない」
戦闘は再び開始された。
しかし、どういうわけか、その姿を捉えることはできなかった。
しばらくして、一際大きい雷が鳴ったかと思うと、それはアークレイトレインの体を貫き、それを最後にアークレイトレインは力なく倒れ、その姿を消した。
「チクショー。私だって負けてらんないんだから!」
和音は、純たちの前に立ち、防御を展開させる。
しかし、瞬の右手が触れただけで、それは脆くも破壊された。
「うそっ……」
瞬の圧倒的な力を前に、純たちは為す術がなかった。
その時だった。大吾が何かに気付いたように、瞬の体を見つめる。
「こいつ、まさか」
何かを確信したような顔をした大吾は瞬に向かって叫んだ。
「おい、あんた。目的は俺のはずだろ?どうした、早く来いよ?もしかして、怖いのか?」
瞬を挑発する大吾。
もちろん、瞬がそれに反応しないわけもなく、一直線に大吾の元へと迫ってきた。
迫る瞬に向かって、大吾は叫んだ。
「斬撃!」
いくら速く動けても、自分に迫ってくるのはわかっているのだから、タイミングさえ合えば、その姿を捉えられないはずはなかった。
予測通り、大吾の持つ剣は、瞬の左腕のところを捉える。
しかし、切れなかった。
いや、正確には、切ったはずなのに傷口がすぐに塞がって、剣がすり抜けた。そして、大吾の体に流れる電気。
大吾は確信した。
「化け物め……。体自体が電気になってやがる。通りで攻撃が当たらないわけだ」
そう呟いて、大吾も瞬の電撃の前に崩れ落ちた。
「ふん。良く気付いたな。誉めてやろう。俺の力は、体をも雷に変える。『雷帰』、と俺はそう呼んでいる。まあ、タネが分かったところで、どうにもできんがな」
瞬は再び笑った。
「つまり、俺の体に触れただけで、ジ・エンドだ」
そして、再び瞬の蹂躙が始まった。
圧倒的な力を前に、立っている人間は瞬以外は誰もいなかった。
そう、人間は。
(くそっ!どうすれば)
純は心の中で呟いた。
人間ではない純にとってその攻撃は、耐えられないものではなかった。
その結果が、目の前の惨状だった。しかし、こんな状況だからこそできることがある。彼は思いついた。懐にしまった『仮面』に手を触れる。
そして、仮面を取り出すとばれない様にマントとともに装着する。
そこにいたのは、もはや純ではなく、八人の悪魔の一人、ジョーカーだった。
瞬の前へと再び姿を現す。
瞬はその姿を見ても、動揺はしなかった。
「誰だ。いつからそこにいた?」
瞬は言った。
「いつからって、最初から。ずっと見ていたよ。きみの戦いを。どうだ?一つ提案がある。私の仲間にならないか?」
「嫌だね」
その瞬間、一筋の雷撃が走る。
「おっと。これはこれは。失礼まずは自己紹介から、かな?私の名前はジョーカー。悪魔、だ。よろしく」
こうして二人は出会った。




