第八章4 『雷炎の襲来④』
「第七の技、大腕」
その名が示すように、大吾の強化された右腕が、辺りの瓦礫を破壊しながら、瞬のもとへと迫る。
その腕は、普通のパンチとは大幅に異なる破壊力を持つ反面、盾にもなり得るという可能性も秘めている。降り注ぐ瓦礫の破片にも、ものともせず、一直線に迫った。
しかし、瞬は軽くそれをよける。
舌打ちをする大吾を眼下に捉え、両腕に電気を溜めた瞬は、空中で十字をきり、叫ぶ。
「サンダーバード!」
一つへと融合したそれは、巨大な塊となって、大吾を襲った。
「防御!」
今度は大吾がそれを防ぐ。
しかし、瞬は先程とは様子が違った。それは、大吾の名を知った時からだった。
「大吾。藤宮大吾。探したよ。待っていたよ君に会えるのを。俺は君に復讐するためだけにここにいる」
瞬の目は先ほどまでの冷静さを失っていた。
「気持ち悪いな。俺のファンか?」
「そんなわけないだろ。勘違い甚だしい」
瞬は再び高笑いをすると、はあ、と一息をついて、今度は落ち着いた様子で話し始めた。
「きみは、一か月前の君の起こした事故での負傷者の数を覚えているかい?」
大吾は怪訝そうな顔をする。
一か月前。
それはちょうど、純たちが女神やボーンの存在を知り、元素融合体が表に出始めた頃だった。その頃に起きた大きな事件といえば、ボーンの力を手にした大吾が、市街地でそれを使って、多数の目撃者を出した、あの事件の他にはない。
「そうか、やっぱり知らないか。……八人だよ。その中に俺も、俺の妹も含まれていた。飛んできた瓦礫の下敷きになった」
和音はそれを聞いて、口を押えていた。
一方で、大吾は、ああ、あれか、と小さく呟いただけで、他人事のように瞬を見ていた。
その様子に、更に怒りを積もらせたのか、瞬は続ける。
「君はあの後すぐにいなくなったから、知らなくても仕様がないよな!でも、俺はお前を許さない。絶対にだ!」
そう叫んで、瞬は消えた。
移動しているのはわかる。しかし、その速度があまりにも速いため、大吾が目でそこを捉えたときにはもう遅かった。大吾の体は宙を舞い、百八十度回転した彼の体は、頭から地面へと自由落下を始める。
それと同時に、大きな雷鳴が響いた。
けれど、大吾も負けてはいない。強引に方向転換を行う。
その結果、残されたのは、大吾が着地するはずだった地面に残された黒く煤こけた跡だった。
「ははははっ!痺れろ!泣け!喚け!貴様の降伏など生温い!徹底的にその四肢がちぎれるまで、喰らいつくしてやる!」
豹変した瞬の姿に一人恐怖を覚える和音。
「やめて下さい!ごめんなさい、私のせいなんです」
和音はたまらずに叫んだ。
「はあ?」
瞬は視線を和音へと向ける。
和音は、瞬を説得するように語りかけ始めた。
「ボーンの力を最初に手にしたのは私で、大吾くんに力を渡したのも私なの!だから、元凶は私!」
大吾くんは悪くない、という気持ちで、和音は声を張り上げる。
それを聞いた瞬は、表情を変えるでもなく、ただ和音を見ていた。
大吾は言う。
「無駄だよ、お姉さん。こいつは俺のことを憎んでいる。そんな言葉じゃどうにもできないよ」
「ああ、そうだな。そんなのどうでもいい。結局、その女を含めて、貴様らを殲滅する事実に変わりはない」
瞬の指先が和音の方へと向く。
しかし、それを見て最初に動いたのは、大吾だった。大吾は和音をかばうように彼女の前に立つ。
「お姉さんに手を出すんじゃねえよ」
「そんなにそいつが大事なのか?中学生の癖にませたやつだ」
「勘違いスンナ。確かに、お姉さんは俺に初めて力を渡してくれた人だけど、初めて俺を負かした人でもある。だから、お姉さんの負ける姿を見たくねえ。だってよ、お姉さんが負けたら、お姉さんに負けた俺はもっと弱いことになっちまう。だから俺はお姉さんを守る」
「何わけのわからないことを言っている。おかしなやつだ」
「ああ、そうだよ。言われなくても、俺の頭は十分おかしいよ。それは自分でも理解している。ゲームのし過ぎで現実との区別がついてないだの、友達をなくしただの、散々言われたよ。でも、……今が一番楽しいんだから、そんなのどうでもいいだろっ!だから、このお姉さんには……手を出すなああっ!」
大吾のその言葉とともに、辺りの雰囲気が一変した。
「何だこの力は……」
突然、大地が揺れている様な感覚が、瞬を襲った。
「藤宮大吾!お前、一体何をした!」
「ははっはははっはっはははっ!」
瞬は大吾の姿を見て、底知れぬ恐怖を感じていた。
「なんかヤバイ。ええい、二人まとめて吹き飛べ!大放電!」
「喰らえ!ありったけの大腕」
大吾の攻撃の方が早かった。瞬の前に現れたのは、先ほどの比ではないくらい巨大な大腕だった。
それはまるで壁のように瞬の前に立ちふさがり、二人へ向けた瞬の攻撃は空しくその前に消える。それだけではない。その攻撃は確実に、逃げ場のない瞬の元へと迫り、彼の姿を捉えた。
「ぐっ……わああ……っ」
その攻撃はとどまることを知らず、地面を削り、工場の壁を突き抜け、屋外へと飛び出していった。
瞬も一緒に屋外に吹き飛ばされる。
その姿は、外にいた刻たちの目にも映っていた。




