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第一章3 『未知との遭遇③』

 目の前で起きた出来事はにわかには信じがたいものだった。

 

「驚くのも無理はない。僕も最初はそうだった。でも目の前で実際に見ると、信じる他にないだろう?人目に付くとまずい。元に戻すよ」

 

 天野光流は再び携帯電話を操作した。すると目の前にいたモンスターは跡形もなく消え去った。

 

「これが一年前のメールのが予知した結果、そして『時空ノ歪ミ』の正体だ。『時空ノ歪ミ』とはすなわち『時間と空間の歪み』。僕たちのいるこの現実世界という空間に、二次元世界という別の空間が入り込む。だから今見たように二次元が三次元になる」

 

 天野光流はそう説明した。純も彼の言いたいことは理解できた。ただわからないことが多すぎてどこから話を聞いたらいいか見当がつかなかった。その反面、光流は非常に落ち着いており、これから話そうとしていることを整理しているようだった。

 

「大丈夫。この件に君を巻き込んだのは僕の方だ。君の知りたいことは全部話すつもりだよ」

 

 彼はそういうと携帯電話を純に見せた。

 

「まずはこの携帯電話。このケータイは僕のだけどこのケータイには、というか僕自身には『女神(エイル)』と呼ばれる二次元世界の統治者が宿っている。彼女に二次元世界の生き物を呼び出す申請をして承諾されるとそれを三次元に呼ぶことができるという仕組みだ」

 

 すると光流の携帯電話から声が聞こえてきた。

 

「初メマシテ。オ騒ガセシテシマッテ申シ訳ゴザイマセン。一年前ハ『時空ノ歪ミ』ニ対処デキル人材ヲ探シテ、アノヨウナメールヲオ送リシマシタ。彼ト彼ノ信頼シタアナタナラ、コノ問題ニ対処デキルト信ジテイマス」

 

 そこまで話し終わると光流は携帯電話をしまった。そして話を続けた。

 

「この『時空ノ歪ミ』の一番の問題点は、現実世界に介入してくる空間が二次元世界だけではないということだ。ただ、時空の歪みは一時的なものであるため時間がたつと解消される。だから僕がこの力を使って無駄な騒ぎが起きないように対処する。そのために君に協力してもらいたい。君の頭脳とカリスマ性を頼りにしたいんだ」

 

 話はこれで終わりだ、光流はそう言葉を結ぶ。純は何か言いたげな表情をしたが、結局、何も言わずにその場を立ち去った。光流も立ち去ろうと、後ろを向いた。


その時だった。


上空から、待ちなよ、という声が聞こえた。見上げる光流。ちょうど太陽と重なって逆光になっており、よく見えなかった。しかし、一つ分かったこと。黒い人影一つ見えたこと。そして、それが、体育館の屋根の上から、自由落下してきているように見えるということだった。

光は驚いた。だが、声を上げる間もなく、それは光流の隣へと着地した。


「やっと見つけたよ。きみが最後のメールの受信者、ていうさっきの話、信じていいんだよね?」


光流は目を疑ったが、近くで見たそれは、きちんと人の形を留めたのだった。見た目は若い男。おしゃれな私服に身をまとったそれは、年齢的には光流と同じくらいか、年下にも見える。


「お前はいったい何者だ?何をしに来た?」

「あれ?きみ、僕のこと知らない?結構有名だと思ってたんだけどなー。ちょっとだけショック」


彼は、光流の顔を見てにこやかに笑う。


「この世界での僕の肩書きを知らないなら、君にはこう名乗っておこうか。僕の名前はカイト。きみみたいな人間とは比べ物にならないくらいの高い身体能力と強力な固有スキルを持った、悪魔の一人だ」


彼はその笑顔を崩すことなく続けた。


「そもそも、この世界に住み着いた悪魔たちは複数いる。僕たちの共通の目的は、自分たちの世界、つまり魔界へ帰ることだ」


カイトは視線を光流に固定させて、強調する様に言った。


「そして、魔界への門を開くためには、魔界と人間界を意図的に交わらせる必要がある。そして、その副作用として発生するのが時空の歪みであり、異世界からの人間界への干渉だ。君はその異変の一端を担ったってこと」


光流はつばを飲み込む。


「魔界への門が開くとどうなる?」

「わからない。ただ、この世界も無事では済まないかもね」

「だったら止める」

「無理だよ。魔界の門を開くためのカラクリ装置は、すでに十年も前から動き始めている。その動きの中ではきみも、そして僕でさえも小さな部品の一つにしか過ぎない。すでに大勢の人間や悪魔が、その装置を動かす一端を担っているんだ。僕たちの力なんて微々たるものだよ」


カイトは、そこまで言うと、おかしそうに笑う。


「ほら、君はまたそうやって面白い顔をする。僕は悪魔の中でも優しい部類の悪魔だからいいけど、人によっては君はもう死んでるよ。どうあがいても無駄なんだから、気楽にやればいいさ。ね?」


カイトは歩いて向かってくる。すれ違いざまに光流の肩に手を置くと、そのまま上空へと跳び去っていった。


 ◇◇◇

 

「おかえり、純」

 

 生徒会室に戻った純にほのかが声をかけた。純は何も言わずに生徒会長というプレートが立ててあるテーブルへと向かい、椅子に座った。ほのかを含め生徒会メンバーは不思議に思ったものの、深く追及することはなく各々の作業を再開した。その中で一人だけ声をかけてきたものがあった。

 

「生徒会長、どうしたんですか?」

 

 笹原真美が生徒会長のテーブルに手を置き、身を乗り出して興味津々と言った様子で迫ってくる。椅子に座り下を向いてしばらく黙っていた純も、仕方なく答えた。

 

「『運命の巡り合わせ』ってあるんだなあって思って」

 

「なんですか、それ?会長、悪い顔になってますよ?」

 

 真美がたまらず聞き返した。ほかの生徒会のメンバーも作業を中断し、様子のおかしくなった生徒会長の方を見た。生徒会室にしばらく沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはほのかだった。

 

「ほら、純。変なこと言ってないで作業手伝ってよ。会長が動かないとみんな動かないよ」

 

 下を向いていた純も何かに気付いたように顔を上げると、一言ごめんと謝っていつもの調子に戻り作業を始めた。一人真美だけが何か納得がいかないような顔をしていた。

 

 ◇◇◇

 

 下校の時刻が近づくと、生徒会のメンバーは作業をやめ、片づけに入った。そして片づけの終わった者から一人また一人と帰って行った。

 

「せんぱーい。ちょっといいですかー?」

 

 帰り際に真美がほのかを呼び止めた。みんな作業を終え生徒会室には二人だけしか残っていなかった。ほのかは、何?、と短く返事をした後真美が続けた。

 

「会長のさっきの『運命の巡り合わせ』って何の話ですか?」

「あれは、気にしなくていいの」

 

 ほのかはそう返したがどうも納得がいかない真美はそれからもしばらく追及を続けた。最初は軽くあしらっていたほのかも最後にはとうとう面倒になって折れた。ほのかは、他の人には内緒ね、と釘を刺した後話し始めた。

 

「あんまりおもしろい話じゃないよ。当時ニュースにもなったんだけど、四年前にここら辺で起きた一家四人惨殺事件って覚えてる?まあ、正確には殺されたのは三人なんだけど。生存者は長男ただ一人。警察は生き残ったその少年に事情聴取を試みたんだけど、その彼の言い分というのが『悪魔がやって来て家族を殺しました』の一点張り。結局、他の捜査でも有力な証拠をあげることができずに事件は迷宮入り。一方で、生き残った少年はしばらくは施設にいたんだけど、そのあとは親戚が金銭面の援助をするという条件のもと、その少年は一人暮らししているの」

 

 しばらく沈黙が流れた。


「先輩、その話ってもしかして……」


ほのかは頷く。


「そう。純の家族はね、四年前に殺されてるの。それもむごたらしい方法でね。普段はそういう風には全然見えないんだけど、昔から純が『運命の巡り合わせ』という言葉を使うときには必ず、その瞳の奥にドス黒い光が見える。言葉には出さないけど、きっと犯人の対する復讐の機会を狙っているんだと思う。だってその時の純って怖いくらい冷酷な殺人鬼の目になるんだもの」

 

「そう……だったんですか」

 

 真美も聞いたことを申し訳なく思っているかのようにいつもの明るさはなく、軽く挨拶をした後そのまま生徒会室を後にした。

 

「言っちゃって良かったのかな。まあ、いいよね。肝心の、純の『一番大事な秘密』は私しか知らないんだから……」

 

 ほのかが独り言を呟いた。

 

 ◇◇◇◇

 

「マジックショー?」

 

 ほのかが純にチケットを見せながら言った。そこには「世界が注目する天才高校生マジシャン・白鳥海斗(しらとりかいと)」の文字が書いてあった。

 

「昨日ね、和音にまた会ったの。それで今日この近くで行われるマジックショーのチケット三枚持ってて一緒に行かないかって誘われたの。あと一人分チケット余ってるからこれ純にあげる。どうせ予定ないでしょ?ていうかもう和音に一緒に行くって伝えたから拒否権はないから」

 

 和音とはこの前買い出しの帰りに出会ったクレープを食べてた女の子のことである。もちろん純に予定はなかったから行こうと思えば行けた。というか拒否権がないから行くしかなかった。白鳥海斗といえば最近流星の如く現れた凄腕マジシャンのことである。プロのマジシャンでさえそのトリックが分からないというから驚きである。そして更に驚くべきことがおととい発表されたばかりである。

 

 それは白鳥海斗はこの公演を持って活動を休止するというニュースである。

 

 休止期間は無期限。理由は他にやることができたからというものである。このニュースが流れてからネットではチケットが高値で売買されていた。どうして和音が三枚もチケットを持っていたのかは謎である。

 

◇◇◇


「うわっ。人が一杯だね」


チケットを見せて、建物の中に入ると、ホールは既に人で溢れ返っていた。三人横の列に並んで座って、開場を待っていたところ、純は見知った顔を見つける。


「天野光流。何であいつがここにいるんだ?」


それは向こうも同じだった。


「ん?あれは、真島じゃないのか?」


光流は純と目が合う。だが、すぐに目をそらされた。


「なんだ?」


光流は一瞬そう思ったが、ブザーが鳴り、ステージの幕が上がり始めたこともあり、視線をそちらに移す。しかし、そこには更なる驚きがまっていた。


「レディースアンドジェントルマン!」


その掛け声と共にステージに現れたのは光流が体育館裏で遭遇した、カイトだった。


 

◇◇◇


 ほのかと純と和音の三人は公演が終わり人混みに紛れながら出てきた。

 

「すごかったね、白鳥海斗」

 

 和音がはしゃぎながらそう言った。純は彼のマジックを初めて見たが、純の目から見てもすごいとわかるものばかりだった。例えばといって例を挙げようにも一つに絞りきれないくらいに。マジックなんて子供だましだと馬鹿にしていた純も悔しいながらも認識を改めざるを得なかった。

 

 そんな中、純は人混みの中に一人見知った人物を見つけた。天野光流だった。どうして彼がここにいるのか気になった純は二人に別れを告げたあと、光流の方へ近づいて行った。

 

「お前、マジックショー見てたのか?」

 

 純が光流に声をかける。

 

「真島じゃないか。ちょうど良かった手伝って欲しいんだ。君は人間じゃないものの存在を信じるかい?」

 

 純にも緊張が走る。続けて光流は話を続けた。

 

「ちょうど今、ステージでショーをやっていた白鳥という男は人間じゃない」

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