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第七章4 『光のマテリアル』

ある日の昼下がりのこと

街の中心部を歩く二人組の姿。純とほのかだった。


「この道で合ってるのかな……?」


純の手には紙切れに描かれた手書きの地図がひとつあった。

なぜ、こんなことになっているのか、それは孝樹の提案が発端だった。この場所にほのかと二人で行ってこい、と手渡されたのが先程の紙切れだった。首をかしげながらも、孝樹や和音の強い押しに負けて渋々従っている、簡単に言うとそう言う状態だった。


「なあ、連城?」


純はほのかの方を向いた。

ほのかは苦虫を噛み潰したような顔をしている。ほのかは知っていた。孝樹と和音が組んでよくわからないことを強制するということは、何かを企んでいる証拠だということを。子供の時もそうだったから、ほのかは、ほぼ確信していた。特に孝樹は自分のこと以上に、他人のことを気にかける性格であるため、『ほのかの純に対する気持ち』に気づいた上で、この行動を取っているのではないか、と余計に勘ぐってしまっていた。


そして、それを裏付けるように二人を尾行する、複数の影にほのかは気づいてしまった。


その影は孝樹、和音。しかもそれだけでなく、真美と慧もいた。

「おい、こんなに大人数いたら尾行にならないだろ!帰れ!」

変装をした孝樹が小声で言った。

「嫌だ。ボクはちゃんと監視許可をもらってここにいるもん!別に興味があって尾行してる訳じゃないんだからね……うん」

「私も嫌ですよ!私は先輩のSPみたいなものですから!近くにいて当たり前です」

「そう言う割りには、しっかりと準備してるじゃねえか!」

そういう二人は孝樹たちと同じように、しっかり変装らしきものをしている。


「ふむふむ。ターゲット、ただいま大通りを進行中!ところで、孝樹?目的地には何があるの?気になるんだ~」

言い合いを行う三人を横目に、しっかりと観察を続けていた和音がワクワクとした表情で孝樹に尋ねた。

「恋愛成就でちょっと有名な神社がある」

「れ、恋愛!?」

真美がビックリしたように言った。

「そうだ」

「でも先輩と会長ってそんな感じには……」

真美はオドオドしたような口調で続けたが、孝樹は観察眼が甘い、と言うように得意気に返した。

「ちっちっち。ほのかは好きな人と一緒にいられるだけで幸せを感じるタイプなんだよ。だから、必要以上には踏み込まない。傍目から見れば、ただの友達にしか見えないかもな」

「だったら、そっとしておいた方がいいんじゃないんですか?本人にとっては、余計なお世話ですよ」

「うーん。それもそうなんだがな……」


孝樹は急に口ごもる。そして言った。


「今のほのかは本当に楽しそうなんだ。クロが死んだときは脱け殻のようになってたアイツが楽しそうにしてるのって、見てる限りきっとあの男のお陰だろ?正直、十年ぶりにほのかから連絡が来たときはびっくりしたよ。代わりって言ったら悪いけど、きっと新しい拠り所なんだよな、真島純って。でも真島にとっては違う。だから、何とか二人をくっつけたいんだよ」

「確かに。あんな生気の抜けたようなほのかちゃんはもう見たくないもんね。それに、真島純って、いい感じの人だし。常に周りに人が集まってくる。昔のクロみたい」

「見た限りの感想はボクもそれには賛成だな。何か不思議な雰囲気があるって言うか」


真美はそれを聞いて黙ってしまった。真美もほのかのことに関しては結構色々知っているつもりであったが、それ以上に深く踏む混んで知っている孝樹たちの話を聞いて、何も言葉がでなかったのだ。


「私の命の恩人の守護神は、仲間思いでもあったんですね。さすがです……」

真美は呟く。しかし、孝樹はすぐに言い返す。

「ばーか。守護神はもういないよ。仮に七人がまた集まったとしても、クロのいない守護神はもう別のものだ。残ってるとしたら、わんこの持ってるナンバープレートや、俺が持ってる旗みたいな思い出の品。そして、幼馴染みという枠組みだけだよ。全部過去形で語られるできごとなんだ」

「そうかな?私はまだみんなのこと現在進行形で、守護神のメンバーだと思ってるよ。何だか終わった感じがしないし」

「ボクもそれはちょっと違うと思う。クロが死んだ原因に関しては、みんなそれぞれに責任があるって結論が出たはず。それを忘れた訳じゃないでしょ、孝樹。みんなのことを思ってそう言ったのなら気にしなくて良いと思う。孝樹は時々周りに気を遣いすぎだから。自分のことに関しては鈍感なくせに」

「なんだその最後の含みのある言い方は?」

「秘密。真実を教えることが必ず良いこととは限らないから。ほら、二人が曲がったよ。追いかけよ」

四つの影が、建物の影からひっそりと移動を始めた。


◇◇◇


「なあ、連城?どうした?さっきから黙って」

「別に……」

ほのかは孝樹たちの影に気づいてからは、純と少しだけ距離をあけて、目線を合わせないようにして、歩いていた。けれどもその結果、いつも以上に純のことを意識するようになってしまい、純の問いかけに関しても、全て上の空だった。

「おい……」

突然、純はそう言ってほのかの手を握る。

ほのかの体は予想以上にビクッと反応した。更に純はほのかの体を引き寄せる。

「後ろから自転車が来てる。危ないぞ」

そう言いながら。

「あ、ありがとう」

「何か様子がおかしいぞ。本当に大丈夫か?」

「う、うん。気にしないで」

「そうか。なら良いんだが。ほら、あそこが目的地みたいだぞ」

純が指差した先に見えるのは、建物ではなかった。緑が生い茂る場所。近くに行くと何があるかわかる。神社のような所だった。不思議な顔をする純の横で、ほのかは固まった。境内の中にいる数少ない客は全て男女の二人組。そして何より目に入った『恋愛』の文字から見てどんな場所かは明らかだった。

「きっとここじゃないよ。早く行こ、純」

ほのかは純の腕を引っ張る。

「ちょっと、でも……」

そう言って純は引き摺られる。神社の横にある細い道に入った所で純はほのかの腕を振り切る。

「ちょっとストップ」

「あ、あれ?道を間違っちゃったかな?」

ほのかは咄嗟にそう口にした。

「いや、そう言うことじゃない。さっきから何だかつけられてる気がしてな」

ほのかはすでに赤い顔をもっと赤くする。孝樹たちの存在に純も気づいていたと思ったからだ。

「おい、後ろからついてきてるのは誰だ?姿を見せろ」

純は後ろをつけてきた人に向かって注意を促した。けれども、声に反応して出てきた人を見てほのかは逆に驚かされた。

「いやあ、バレてましたか?」

そう言って姿を現したのは、知らない女の人だった。左手には買い物袋のようなものを持っている。

「何の用かな?」

純は尋ねた。女はポケットからある写真を取り出すと、二人に見せつける。

「あんたたち、この人の知り合いだよね?」

彼女が取り出した写真には、光流が写っていた。

「あ、ごめん。自己紹介が先だったね。私はこういうもの」

そして彼女はカードを取り出した。そこに写ってる情報からわかること。

それは彼女が『元素融合体、光のマテリアル、双葉亜矢(ふたばあや)』だということだった。

純はそれを知って嫌な顔をする。

「元素融合体が何のようだ?」

「忠告してあげようと思って。私たちの間では、話題は君たちのことでもちきりなわけ。もちろん、敵としてね。本当なら今ここで戦ってもいいんだけど、私は家に帰る途中に偶然あなたを見かけたから、声をかけようと思っただけで、何もする気はないよ。それに、あなたたちを狩る任務は私じゃないしね。ただ、これを見て抵抗する気を無くしてくれたら嬉しいかなって」

そう言って彼女は人差し指を純に向ける。

ピッという音がした。

次の瞬間、純やほのかの後ろにある自動販売機が大きな音をたてて破壊される。そのとき、純は見た。自分の横を通りすぎた一閃の光を。

「私、光の元素融合体だけど、あんまりこの力を使いたくないんだ。強すぎるから。わかるよね?」

そう言い残して、彼女はくるりと方向転換して去っていった。

一瞬の出来事に、ほのかはびっくりして、今まできごとなどすべてが吹き飛んだ。気が付くと純の手をギュッと握っている。そのとき

「どうした!」

尾行していたはずの孝樹たちが姿を現す。真美はすぐにほのかのそばに駆け寄ってきて、慧は走り去った双葉亜矢を追っていた。

「うわっ!」

ほのかは握っていた手を慌てて離すと、しゅんと下を向いた。


そんな中で、一人、純の心の中は穏やかではなかった。


◇◇◇


後日、純は一人で双葉亜矢に会った場所に来ていた。

なぜか破壊された自動販売機は直っている。しかし、それよりもなによりも、純にとっては自分達が元素融合体の次のターゲットとして顔が知られていることや、元素融合体の未知数の能力が予想以上のものだったことなどを知ったことで、不安が広がった自分の不甲斐なさを嘆いていた。

「俺の計画の邪魔をされてたまるか!」

純は壁に拳を叩きつける。そのとき突然ヌッとひとつの影が現れると、純に向かって言った。

「ずいぶんとご乱心で、真島純さん?」

姿を見せたのは純の知らない男。純は怒りを隠すことなく聞き返した。

「誰だ?知らない顔だな。また元素融合体か?」

「違う違う。俺の名前は久慈原乱。ああ、別に覚えなくていいよ。俺もお前とはあんまり関わりたくないし。だって……」

乱は近づいてきて、純の耳元で言った。

「だって、お前人間じゃねえだろ?」

それを聞くや否や、純は表情を変える。乱はそれを見てやっぱり、という様ににやりとした。


純は焦った。

自分が知らない人間が、自分の正体を知っているということに。純は思考を働かせる。バラしたのは悪魔の誰かか、それとも他のだれかか。もしくは、自力で正体に気付いたのか、と。けれども、いずれにしても困るのは、これ以上純の正体を広められること。これから元素融合体との戦いだというときに、これ以上余計なことはされたくなかった。


だから、純は『強行手段』に出た。

乱を壁に押し付ける。そして、久慈原乱の首を絞めた。純はこの場で殺して始末することに決めたのだ。

「ぐふっ……はっ……」

乱は苦しそうに呻く。純は悪魔であるため、その腕力は人間の比ではない。

しかし、乱はこの状況を予測していたのか、焦ることなく、ポケットから携帯電話を取り出すと、『戦士の力』を行使した。

次の瞬間、純の下の地面が音をたてて崩れ、ぽっかりと穴が開いた。足場がなくなった純は自由落下を始める。

「くそっ!」

純は落ちないように乱の肩を掴むが、乱は新たにナイフを召喚すると容赦なく、純のその腕を切りつけた。ザシュッと綺麗に刃が通る。結果、支えを失った純は今度こそまっ逆さまに落ちていった。

「あばよ」

そう言って、乱は手に持ったナイフを捨てるように純に投げつけると、携帯電話をかざして純の沈んでいった穴を修復した。完全に埋まったのを見届けると、二、三回その場所を踏みつけて、苦しそうに首をさすりながら乱は足早に去っていった。


しばらくすると、地面がボコりと持ち上がって、突き破られた。

中から出てきたのは純。先程の乱の力を見て、純は確信していた。

「……浅海葵か。やっぱりあいつは生かしておけない。殺す」

そう心に誓った純の目は、怒りの炎に満ちていた。


◇◇◇


「はあ……はあ……はあ……」

「どうしたの?」

息切れをして戻ってきた乱に向かって葵は言った。乱は息を整えると、嬉しそうに言った。

「ビンゴだぜ。真島純。あいつに『人間じゃねえだろ?』っていったらいきなり首を絞めやがった。危険人物決定」

乱は自慢げにそう言ったが、葵はそれを聞いて悲しそうな顔をした。

「何やってるの?勝手な行動をしないでって言ったでしょ」

そう言いつつ、葵は心の中ではずっと別のことを考えていた。彼女は唇をキュッと結ぶ。

(ほのか……待っててね。必ずあなたを守るから)

葵の手には、幼いほのかと二人で写った写真が握られていた。


◇◇◇


ーーもうひとつ、ある変化が別のところで起こっていた。

「はあ……はあ……ただいま、真矢」

「どうしたの?予定よりずいぶんと遅かったじゃない」

双葉亜矢はあの日、真島純に会ったあと、息切れをして家に戻っていた。

それは水沢慧に追いかけられていたから。そのせいで、余計に能力を使うことになった。彼女は、自分の光のマテリアルとしての能力をあまり受け入れていない。それは強すぎて使い勝手が悪いだけでなく、彼女自身が、必要以上の暴力を望んでいなかったから。逆に言えば、そういう性格だったから、強力な光のマテリアルになれたとも言える。

「いや、ちょっと追いかけられてて、遠回りしちゃった」

亜矢は真矢に笑いかける。双葉真矢は亜矢の双子の姉だった。

「とりあえず、お帰りなさい、ずっと待ってたよ、亜矢。元素融合体になれた感想はどう?」

「思ってたより大変かな。でも悪くないかもね」

亜矢は心配かけないように、そう答えた。

「そう」

双葉真矢は短くそう返すと、彼女は後ろからロープを取り出したのだった。

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