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第七章1 『水沢慧という女の子①』

水沢慧は友達ができない女の子だった。


それは、彼女の性格に起因するものである。父親が有名な科学者であり、その遺伝子が彼女にも伝わっているためか、彼女は、常に自分の『好奇心』のために行動した。他人への共感能力が皆無だったとは言わない。ただ、彼女の『好奇心』がそれ以上だったのだ。


具体例を挙げていけばキリがない。授業中は、授業内容とは関係ない本を読んでいることも多かったし、登下校の時も、道端の植物や虫に興味を惹かれれば、クラスメイトと一緒だろうと、すぐに道を外れた。でも彼女自身はそれで良いと思っていた。


そんな彼女が、守護神ガーディアンに入った。正確に言えば、他のメンバーが自然と慧の周りに集まってきた、そんな感じだった。そういう人は今までもいたが、すぐに愛想を尽かして、彼女と距離をおくようになる者ばかりだった。けれども、彼らは違った。一週間、一ヶ月、彼らは慧のもとを去らなかった。そんなことは彼女にとっても初めてのことだった。


次第に慧は守護神に興味を示すようになる。そして、彼らと一緒にいることが自然なことになっていった。守護神が解散するあの日までは……


◇◇◇


ある日のこと。一人の女子高生が町中を歩いていた。長い髪をなびかせながら、右手には鞄を抱えて。それは高校生になった水沢慧。彼女は、一人だった。ただ、その事を嘆くことなく、誇りにすることもなく。彼女は視線を左右に泳がせる。彼女にとって、目に見えるもの全てが、観察物であり、実験体であり、そして研究対象だった。


「この植物はツツジ。あっちはイヌマキの木。イブキもある。やっぱり、どこでも同じだ」


慧はいつも通りに学校帰りの寄り道をしていた。しばらく、住宅街をぶらぶらとしたあと、大通りへと進む。今度は店のショーウインドウに目をうつす。


そして、偶然あるニュースを耳にした。


『先日発生した、廃工場などでの爆発事故などに対し、様々な憶測が飛び交う中、それに関する重大な発表が政府からなされました。それによりますと、近い将来、時空の歪みというという現象が発生する危険 が非常に高いと見られているとのことです。それによりこの世界のものではない別世界の干渉が行われる ことになり、現在の時点で既にその影響が出ているとのことです。政府によりますと廃工場などでの爆発 事故もこれに当たるということです。この脅威に対し、政府は水沢教授らが開発している元素融合体 エレメントハイブリッド と呼ばれる新技術を採用しこれに対抗することを発表しました。現在のところ 元素融合体 エレメントハイブリッド は火、雷、氷、風、水、土、木、鋼、光、闇、の十種類が存在するようです。みなさんはくれぐれも自分 で対処したり、無駄なことに首を突っ込んだりせず、全て彼らに任せるようにして下さいとのことです……』


「時空の歪み……?」


ニュースの中のそんな単語を聞いて、彼女は呟いた。ふと、アインシュタインのことが頭のなかに浮かぶ。けれども、そんなのも束の間、ニュースの途中から急に表情を変える。


「水沢博士……」


水沢博士。正確な名前を水沢隆一という。何を隠そう、彼は『彼女の実の父親』だった。それを聞いて、アインシュタインのこととか、時空の歪みのこととか、頭から吹き飛んだ。慧はニュースを聞き終わるや否や、急いで方向を変えると家への足を早めた。


「父さん……」


そう呟きながら……


◇◇◇


家につくと、急いで扉を開ける。靴を脱ぐ。廊下をまっすぐ進む。


「悠……!、愛……!」


悠とは彼女の弟。愛は妹だった。仕事に熱心であまり家庭を省みない父親だったが、慧も含めて、三人は父親にある種の尊敬を抱いていた。それほどの実績を父親は持っていたのだ。


「二人とも、ニュース見た?父さんが……」


彼女はそこで急に言葉をとぎらせる。それは、部屋に入ったところで、彼女の目に、ある人物が写ったからだった。


「父さん……?どうしてここに?」


そこにいたのは水沢隆一博士本人だった。傍らには彼の部下のような人物が二人いる。何だか重苦しい雰囲気が漂っていた。水沢博士は慧の方をゆっくりと向くと、口を開いた。


「おかえり、慧。すまない。私は大変なことをしてしまったようだ」

「…………」


慧は次の言葉に詰まる。父親は続けた。


「元素融合体計画。このプロジェクトの指揮は私がとってきた。私はただ純粋に知りたかっただけなんだ。他意はない。他の研究員もおんなじ気持ちだったはずだ。けれども、少し前から様子が変わってきた。私は嫌な予感がして、プロジェクトを中止するように動いた。でも遅かった。グループの大多数はすでに推進派で固められていて、私が異を唱えても、すぐに従うものは少なかった。それでも、みんなを説得して中止させるつもりだった。でも、そのうち部下の一人が、新しく指揮をとりはじめて、私は追い出されたよ。そんな私についてきたのはたったの二人だった。それが彼ら、野村くんと五十嵐くんだ」


紹介された二人は頭を下げた。


「こんなことは許されるべきじゃない。だから、私は何としてでも止めなければならない。私はもう一度研究所に出向くつもりだ。すぐに戻ってくるさ。でも、万一のことも考えて、お前に話しておこうと思った。それと、ここに研究所から盗んできた元素融合体のサンプルがひとつある。これと研究資料もここにおいていく。あとは、私の部下二人もここに残る」


水沢博士は席をたち、慧の所へ寄ってくると、頭に手をおく。


「お前は賢いから、何か余計なことまで勘ぐってるかもしれない。でも、心配ない。お前はいいお姉さんだ。私が居ない分、優や愛の世話をしてくれた。感謝してるんだぞ。だから、これからも今まで通りやってくれればいい」


そう言い残して、水沢隆一は玄関に向かった。見送りに出た部下に、あとは頼んだぞ、と言うと、わかりました、先生、と部下は返事をした。そして、父親は慧のもとから去っていった。話が終わるまで自分の部屋で待っているよう言われたのか、今まで姿を見せなかった弟と妹は、父親が去ると部屋から出てきた。慧は二人を抱き締める。


それ以降、水沢隆一は二度と家に戻ってくることはなかった。


◇◇◇


最悪の結末が頭から離れず、どうしようもなく心配になった慧は、その後無理矢理、五十嵐や野村から研究所の場所を聞き出した。けれども、遅かった。言われた場所に向かっても、すでにもぬけの殻、研究員は一人もいなかった。『彼ら』は外部に研究所の場所が漏れるのを恐れて場所を移動させていた。こうして、父親の生死がわからぬまま、モヤモヤとした日々を過ごすことになった。


そして、彼女はあることを決めた。


「ボクを元素融合体にして」


慧は父親の研究資料を見て、大体のことは理解した。そして、やるべきことも。


「研究は絶対にやめさせる。それが父さんの願いでもあるから。でも、向こうには政府と言う後ろ楯がある。普通にやってもダメ。それに、強行突破しようにも、元素融合体はほとんど新兵器に近い。普通に立ち向かっても返り討ち。なら、こっちも同じ手段を使うしかない。研究所を見つけて、父さんを助け出して、研究をやめさせる。だから、やって」


慧は野村、五十嵐に頼み込む。最初はもちろん反対された。けれども、押し通した。必死に説得するうちに、君は父親に似ているよ、と言われ、しぶしぶだったが、協力してくれた。水沢博士が盗んできた元素融合体はたったの一つ。属性は『水』。一方、『彼ら』には残りの九つがある。やるんだ、やるしかない。彼女は覚悟を決めた。


こうして、水沢慧は水の元素融合体となった。


◇◇◇


慧はまず、元素融合体と接触することから始めた。しかし、目撃情報はあるものの、なかなか捕まらない。もういないことはわかっていても、何らかの証拠がないか、元素融合体の現れた場所に訪れる。そんな日が続いた。武器として家においてあった槍を手に取ったのもこの時期だった。


そして、今日も手がかりがつかめぬまま家に帰った。


「ただいま。悠、愛。はい、おみやげ」


慧はスーパーの袋を手渡す。


「わーい。ありがとう、お姉ちゃん!」


二人は笑顔でそれを受けとる。それを見るだけで癒される、そんな笑顔だった。けれども、これで終わりではない。慧はすぐに、五十嵐、野村のもとに向かう。


「何かわかったことはありましたか?」

「いや、進展なしだよ、ごめんね……」


三人四脚で調査を進めてはいるが、一向に相手は尻尾すらつかませてもくれない。


そんなときだった。二つ目のチェーンメールが日本中を駆け巡ったのは……



この出来事によって、元素融合体の活動はさらに活発になった。そして、彼らの行動パターンを知ることができた。彼らは、問題が表面化しないと動けない。逆に言えば、問題が表面化する前に、彼らの『餌』をこちらが見つければ彼らに接触することも可能だった。


真偽のほどはわからないが、二つ目のチェーンメールで二次元世界やら黄泉世界やら、『何らかの不思議な力』を手にした人がいるらしい。そして、それこそが元素融合体が狙う餌だった。


誰がその力を持っているかはわからないが、近々そいつらの集会が行われる予定らしい。ならそこにはきっと、元素融合体も現れる。


「これなら、きっと……」


二つ目のチェーンメールが流れてから、いろんなことが進展した。


◇◇◇


「ここであってるのかな……」


慧は集会が行われると言われている場所に、やってきた。けれども、大体の位置情報しかわからない。でもそれでも良かった。慧の目的は集会自体ではなく、それにつられてやってきた元素融合体だったから。


「誰もいないな……ボクが間違ってるのかな」


ふと、目線の先に怪しい男を見つける。試しに『水』を生成して飛ばしてみた。結果は当たりだった。男は水が直撃する直前に、金属板のようなもので防いだからだ。


「ビンゴ。やっと会えたね、元素融合体」


慧がそう言うと、男は慧の方を振り向いた。男は何も言わず、鉄屑を生成すると、いきなり慧の方へ飛ばしてきた。


「はあ、あれ絶対属性は鋼だよ」


慧は攻撃を防ぎながら、漏らした。属性的に火とかだったら彼女も戦いやすかった。けれども、相手は鋼、固体である。水は液体だから、まず、強度的な違いがある。さらに水には火のような殺傷能力もない。彼女が思い付いた唯一の実用的な使い方は、ウォーターカッターのような使い方だった。けれでも、今の彼女にそんな技術はない。彼女はまた、ため息をつく。


「こんにちは。君は水沢博士の娘さんかな?」


近くでそんな声がして、慧は耳を傾ける。


「俺の名前は桐崎織戸きりさきおりと。察しの通り、鋼のマテリアルさ」

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