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第六章5 『終戦』

 弥彦は暗い建物の中で目を覚ます。彼は大蛇の一撃をその身に受けて、しばらく気を失ってしまっていた。弥彦は横たわった状態で、右手を挙げ、ちゃんと指先まで感覚があることを確認する。そのまま、その他の体の具合を確認しようと、体を起き上がらせた時だった。


「大丈夫ですか?」

 

 近くから声が聞こえた。弥彦は驚いてその声の主の方を向くと、そこには見知らぬ少年が壁にもたれかかって座っていた。


「誰だ」

 

 弥彦は反射的に立ち上がり、距離をおく。その少年は、にこやかにほほ笑んで弥彦に対して敵意がないことをアピールしていた。そして、彼も同様に立ち上がると、自己紹介を始めた。


「水沢優と申します。お姉ちゃんについてここまできたんだけど、はぐれてしまいまして。それで、探し回ってたら君が倒れているのを見つけたわけです」


 おっとりとした口調に、弥彦も自然と警戒心を弱めていた。


「あ……ありがとう」

 

 弥彦が感謝の言葉を述べると、彼は建物の外を見るように、遠い目をしながら話し始めた。


「世間では今、大変なことになってる。元素融合体が三人も同時に出動している時点で普通じゃない。……つまり、世間から見れば君たちのやっていることは完全に悪だ。ただの破壊活動だ。やめたほうがいい。」


 優は弥彦に忠告を促す。しかし、その話を聞いても、弥彦はさっき自分がやったことが悪だとはどうしても思えなかった。


「俺は町を破壊するモンスターを一体倒した。それが悪いことなのか?」


 彼は思ったことをそのまま口にした。優は首を横に振りながら、付け加えた。


「君の言う、町を破壊するモンスターっていうのも結局は、君の同類がやっていることなんだろう?世間的には正義は元素融合体だけなんだよ」


 すぐさま、弥彦は言い返す。


「いや、そうじゃない。少なくとも俺も正義だ。敵を倒すヒーローなんだ。俺の作ったギガレイヤーもいる」


 弥彦がその名前を口にすると、突然、ドン、という音が響いた。しばらくすると建物の壁が壊され、そこに穴が空いた。そして、そこから巨大ロボットが姿を現した。それが彼の言うギガレイヤーなのであった。


「ギガレイヤー。助けに来てくれたんだね!」


 弥彦は嬉しそうに飛び上がった。そんな様子を優は不思議そうな表情で眺めていた。彼にとっては、ギガレイヤーは正義のヒーローには見えなかったのかもしれない。弥彦はギガレイヤーの手のひらに乗ると、優の方を見て自慢げに言った。


「これが俺のロボットだ。ここで引くわけにはいかない」


 そして、弥彦は叫んだ。


「いくぞ!ギガレイヤー!」


 巨大ロボットは一直線に大蛇の元へと向かっていた。


 このとき、弥彦は何にも気が付かなかったが、ある不思議なことが起こっていた。女神の力によって生まれたモンスターは、召喚者の考えたとおりに動く。逆に言えば、それ以外の行動はとらないはずなのだ。けれども、ギガレイヤーは自律的に行動し、弥彦を助け、大蛇の元へと向かった。つまり、このときにはすでに、ギガレイヤーは意思を持ち始めていたのである。


 空を飛んだギガレイヤーは、大蛇に向かってロケットパンチを繰り出す。孝樹たちと一進一退の攻防を繰り返していた大蛇は、急な横からの攻撃に、大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。

ギガレイヤーはその間に孝樹たちの元へと降り立った。弥彦をそこに降ろすと、再び大蛇の元へ向かって動き出す。


「頑張れ、ギガレイヤー!」


 弥彦の声にこたえるように、ギガレイヤーは一回転して大蛇に跨った後、その尾をつかんで再び空へと飛び立った。


 ぽかんとした表情で孝樹や詩が見守る中、ギガレイヤーは大蛇を空中へと放り投げた。そして、一瞬まばゆい光が放たれたかと思うと、大蛇をビームが貫いており、跡形もなく消し去った。


 こうして弥彦が歓声を上げる中、最後の大蛇は、消滅したのであった。


◇◇◇


 一方、純たちはというと、危機に陥っていた。


 突然一体のドラゴンが、頭上を通りすぎる。それだけでも風圧はすさまじいものだった。


「とうとう、こっちも攻撃対象になったわけか。うかうかしてられないな」


 純は呟く。けれども、純に何か策があるわけではなかった。今のところ純が取れる手段は、誰かが助けに来てくれるまで待つ、という消極的な方法だけだった。


 その間にも、大型のドラゴン二体は距離を縮めてくる。


 そのとき、もう一つの影を見た。それは藤宮大吾の影だった。


「空のドラゴンはこっちが倒すから、もう一体よろしく」


 そう言うと、大吾はすぐにドラゴンを追いかけて行った。


「おい、ちょっと待て……」


 そんなことを言っている間にも、もう一体のドラゴンは目の前へと迫っていた。ドラゴンは明らかにこちらを標的にしている。唸り声をあげながら、ドシ、ドシ、と鈍い音を立てながら迫ってきた。

しばらく進むと、ドラゴンは動きを止める。そして、大きく息を吸う動作を始めた。純はそのときすごく嫌な予感がした。


「おい、全員防御の準備だ!急げ!」


 レベル2の人たちが防御を展開した。その直後に、ドラゴンは火を噴いた。


「くっ……」


 思わぬ熱気に包まれ、純は息を止める。目も開けられないほどだった。やっと攻撃が止んだと思って辺りを見渡すと、周りの地面や建物は黒く煤こけていた。その様子を見て、純は呆然と立ち尽くす。そのときだった。


「こんちくしょー!」

 

 急に叫び声をあげたかと思うと、和音は、なんとドラゴンに登り始めた。もちろん、ドラゴンも無抵抗なはずがない。ドラゴンは翼を大きく広げると、上に羽ばたいて和音を振り落とそうとした。

しかし、和音も負けてはいない。必死にしがみつくと、耐えて一緒に宙に舞った。その後、砲撃でドラゴンの翼を狙い打つ。複数放った砲撃の何発かが翼に命中し、ドラゴンは一気に体勢を崩した。ドカン、と音がしたかと思うと、ドラゴンはビルの壁へと激突、地面へ崩れ落ちてきたのだった。


「う、いたたた……」


 和音がドラゴンの陰から姿を現す。ドラゴンがクッションになって何とか無事なようだった。


「無茶しやがって」


 純が呟くと、和音はてへへ、と舌を出した。


 しばらく動きを止めたドラゴンだったが、砂埃を上げて、ゆっくりと動き出す。頭をフル回転させて有効な策を考える純。そのとき誰かの声が耳に入ってきた。奏楽だった。彼は叫んだ。


「ビルが、ビルが崩れてくるぞ!」


 純が上を見上げると、彼の言葉の通りに、ビルはミシミシと音を立てて崩れ始めていた。


「逃げろ!」


 その声でみんな一目散に逃げて行った。


 次の瞬間倒壊したビルはドラゴンを巻き込んで、その姿を跡形もなく消した。


 もちろん、巻き込まれたドラゴンは、最後に一声あげて、消滅した。


 しばらく、立ち尽くす一同だった。一方で純たちの頭上で、大きな爆発音が響く。おそらく、大吾が戦闘する音だろう、と純は思った。


 間もなく地上に降りてきた大吾は純に声をかける。


「こりゃまた派手にやったね」

 

 大吾の言葉に純は悔しそうにつぶやく。


「……こんなの勝利とは呼べない」


 純の頭の中には、和音の喜ぶ声だけが、いつまでもこだましていた。


◇◇◇


 ほのかと真美はしばらく歩いたところで、白いネバネバした糸のようなものを見つける。それは道を進むごとに、少しずつその数を増やしており、その特徴的な糸の張り方から、二人はあたかも、蜘蛛の巣に引っ掛かった気分になった。


「うげっ、何これ?」


 真美は糸を触り、顔をしかめながら言った。ほのかにも、この気持ち悪い感触を伝えようと振り返った時だった。真美は、ほのかが付いてきていないことに気づく。どこ?と辺りを見渡すと、離れたところにほのかの影を見つける。


「どうかしたんですか?」


 真美は急いでほのかの元へと駆け寄る。一方、ほのかは脇道の方へ体を向け、その道路の先へとまっすぐ指を指し示していた。


 そこには、大きな繭が見える。まるで蜘蛛が中に獲物を捕らえているかのように。


「あれ、何か変だよ。行ってみようよ」


 ほのかは歩を進める。真美もその後ろをおとなしくついて行った。道路の半ばまで進み、繭の全貌が見えてきた、その時だった。


「ダメだよ。これ以上進んじゃ。」


 真上から男の声が聞こえた。真美の前を歩いていたほのかがその方向を見上げた。しかし、そのときにはすでに遅かった。


 急に地面から足が浮いたかと思うと、ほのかは宙吊りになる。


「先輩!」


 真美は叫ぶ。と同時に助けを求めて伸ばされたほのかの手を掴み、何とか助けようとした。その間に、その張本人は糸を伝ってスルスルと壁伝いに降りてきて、真美の隣に立った。男は言った。


「何で、ここにいるの?逃げなきゃダメじゃないか?」

「あんたは誰?」


 真美は強気でそう言い返した。けれども、真美は男と対峙して恐怖を肌身で感じていた。悠然と立つ目の前の男から放たれる、ただならぬ気を。真美はこのときは悪魔という存在を知らない。だから、人間の姿をした目の前の存在が何であるかはわからなかった。


「先輩を離して」


 真美は必死に頼んだ。真美はいつまでも、こうしていられるわけではない。この間にも少しずつ彼女の握力に限界が近づいてきており、一方で、ほのか自身も苦しそうに顔をゆがめ始めていた。


一方、男はその言葉を聞くと、不気味な微笑みを浮かべた。


「わかったよ」


 男はすんなりと真美の要求を受け入れる。空中で自由の身になったほのかは、そのまま真美の胸へと飛び込んできた。一緒に地面に倒れ込む形になりながらも、ほのかの無事を確認し、ひとまず安堵する真美。しかし、この時にはまだ、糸の一部がほのかの体に付着したままだとは気づかなかった。真美は叫んだ。


「ヤバイですって、早く逃げましょう、先輩!」


 真美はすぐに立ち上がると、ほのかの手を握って引っ張る。しかし、ほのかは動かなかった。男は満足そうな表情でその様子を眺めていた。


「……先輩?」


 真美が心配そうに言うと、ほのかはゆっくりと立ち上がった。しかし、そのまま真美の方へと近づくとほのかは彼女をいきなり押し倒した。一瞬何が起こったかわからない真美。


「先輩!ど、どうしたんですか?」


 真美の声も空しく、ほのかは無言で近づくと、倒れた状態の真美に馬乗りになった。その手はゆっくりと真美の首へと伸びる。


「うぐっ。せん…ぱい…」


 異常な状況に、混乱した真美が、ほのかの顔を見ると、彼女のその顔は、他でもない恐怖の色に染まっていた。彼女はゆっくりと口を動かした。


「私じゃ……ない……体が勝手に……」


 そのとき真美は男の高笑いを聞いた。


「はははは。最高だね。これだからやめられない。どうだい僕の力は?糸を介して他人を操れる。これでどんな人間も僕の操り人形さ」


 男は言った。真美はこのときに確信した。目の前の男は、本当に危険な男だ、と。だが、そうは思っても、まず目の前の状況をどうにかしなければ、逃げることもできない。呼吸もだんだん苦しくなってくる。


 しかし、それよりも何よりも、真美は自分に手をかけている、目の前のほのかの苦しそうな表情を見るのが嫌だった。迷っている暇はなかった。真美は足に力を入れると、体をちょっと浮かし、心の中でごめんなさい、と謝りながら、ぐいっと体を半回転させる。そして、そのまま全力でほのかを横に投げ飛ばした。


 ほのかは、地面にたたきつけられて、ウッと呻き声をあげた。しかし、直ぐに起き上がってくる。その姿は、まさに操り人形そのものだった。


 真美は立ち上がり、急いでほのかの元へと駆け寄ると、今度は逆に彼女を押し倒して、動けないように乗りかかった。


 その様子を見て、男は表情を曇らせる。


「アレー、それじゃ動かせないじゃん。……さっさと、どけよ!」


 男は叫ぶと、真美にも糸を絡めてくる。


「うっ!」


 腕、足、肩。それぞれに絡まった糸が、真美をほのかから引き剥がそうとする。けれども、真美はありったけの力で抵抗した。


「いや……だ……」


 ほのかは、そんな真美の姿を見て、何とも言えない気持ちになり、首を横に振る。自分に構わなくていい、というアピールだった。


「……逃げて。……助けを……呼べばいいから」


 自分の意に反して動かされる体を押さえつける真美に対して、そう言うも、彼女は頑なに抵抗した。真美は言った。


「先輩を……一人にできない。先輩のことを……裏切ることになってしまう。逃げるなら……先輩も一緒です」


「どうして……そこまで」


 ほのかは自分を必死で守ろうとする真美に対して、普通じゃない、強い意志のようなものを感じて、尋ねた。真美は、そんなほのかの目見ると、にっこりと笑って答えた。


「先輩は覚えてないかもしれないけど、十年前、私は先輩に助けられました。守護神と名乗るグループに救ってもらったんです。あのときは、私はまだ髪が長かったから、わからないかもしれないですね。でも、先輩がいなかったら、私死んでたかもです」


 ほのかは真美の言葉を聞いて、昔を振り返る。守護神としてやってきた活動は多岐にわたっていた。全てを覚えているわけではない。けれども、その中でうっすらと思いだされる、黒く長い髪の少女の記憶。


「あの時、他の人が大人に助けを求めに行く中で、先輩だけがずっと、私のそばにいてくれました。あの時に守ってもらったから、今度は私が守る番です。先輩を追いかけて、この高校に来て、ずっと恩返しをしたいと思ってたから。守護神は解散してしまったみたいだけど、先輩はずっと私の中の守護神です」


 そして、最後に、真美は十年前にほのかにかけられ、勇気づけられた言葉を思い出しながら、それをもじって、ほのかに返した。


「だから、真美お姉さんに任せなさい」


 真美は苦しそうに呼吸をする。ほのかはそんな彼女を心配そうな目で見ていた。


 このとき、ほのかは、なぜか自分の体が自由に動くなっていることに気づいた。そして、ふとなにげなく目の前の真美の、その後ろに目をやった。


 そして、そこに不敵に笑う男の姿があるのを見つけた。


「真美!危ない!」


 ほのかはすぐに叫ぶ。しかし、そのときには、男の強力な蹴りが真美の脇腹にクリーンヒットしており、表情を歪めた真美が、きれいに横に吹き飛んで行った。


「ぐっ……うう」


 真美は脇腹を抑えてうずくまっている。


「ったく。手間かけさせんなよ」


 男は面倒臭そうな顔をした。男は真美に向かってそう言い捨てると、今度はほのかに目をやり、にっと笑う。ほのかは既に恐怖で動けなくなっていた。真美はそれを見て、よろよろと立ちあがり、何とか助けようとしていた。


「先輩から……離れろ……!」


 真美は再び男の元へとやってくるも、軽くあしらわれて、また遠くに吹き飛ばされた。この時のほのかたちに為す術はなかった。ほのかは涙声で呟く。


「誰か……助けて……」


 その時だった。


飛行グロリア!」


 その声は孝樹だった。空を飛んできたかと思うと、猛スピードで男に飛びかかる。そして、土埃を立てながら男を引っ張ると、その勢いで建物の壁に叩きつけた。


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