第五章1 『崩壊の始まり①』
藤宮大吾が去った工場の中には、防御を発動させて攻撃を凌いだものが数名と、攻撃を防ぎ切れなかった多数が散らばっていた。その中には動かなくなった浦川孝樹とそれを見て泣き崩れる灯月和音がいた。大吾の脅威が去ると、防御を発動させていた人も、次々と解除する。その中のひとりが和音のそばに近寄ってきた。
「大丈夫?お嬢ちゃん?」
その男は和音に声をかけたが、和音は力なくうなずくだけだった。無理もない。自分が集めて一緒に頑張ろうと結束したグループの和が一瞬にして崩れ、その原因が、自分がかつて仕留め損ねた中学生にあるのだから。
ただ唯一の救いは、攻撃を受けても本人には直接ダメージはないことだった。和音の回りの人も、土やほこりで汚れている以外は、特に外傷は見当たらなかった。傷の軽い人は少しずつその体を起こし、立ち上がってきていた。しばらくすると孝樹の体も動き出す。
「あ…あ…うわぁー。」
孝樹は泥でかなり汚れている自分の体を見て思わず口にした。しかし、それもすぐにまあいいか、というような顔をして立ち上がると今度は回りに目を向ける。ちょっと悲しそうな表情を見せた。そして孝樹も和音のそばに歩いていくと声をかけた。
「大丈夫か?わんこ?ケガ、ないか?」
「大丈夫だよ。ちょっと装備が破壊されただけ。」
和音は孝樹の方を向くと笑顔を見せる。でもそれはいつものような明るい笑顔ではなかった。
「そうか…あいつはどうした?」
「大吾くんなら追い返したよ。」
嬉しいような悲しいような顔をした孝樹だった。そして今度はその隣に立っている男に声をかける。
「お前名前なんて言ったっけ?」
「そうだね。紹介が遅れました。僕の名前は石河奏楽。以後お見知り置きを。ところできみ、それのレベルが上がっているようだけど。」
奏楽は孝樹のボーンを指差して言った。
「ん…本当だ。レベル4?急に二つも上がったな。」
和音のレベルは3であるため、これで孝樹は和音を追い越し、このグループで一番になっていた。
「すごいね。」
和音は孝樹に嬉しそうに言った。
「ありがと。」
三人がそうやって話しているうちに、倒れていた人は次々と起き上がり、ほとんどが起き上がっている状態になった。孝樹はみんなより一段高いところに立つと、声を張り上げた。
「すまんみんな!負けた!」
その声が工場内に響く。しかし誰も孝樹を咎めようとはしなかった。
「気にしてねえよ!」
「これからも応援するぜ!」
その後は、残念ながらリタイアした人たちとは別れを告げ、その場に残った和音や孝樹、奏楽ほか数名ほどで新たなスタートを切ることを誓ってその日は終了した。
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携帯が鳴る。光流は自分の携帯電話を開いた。そこにはにわかには信じられない情報が表示されていた。リストに登録されているはずの人物の内、三十人ほどが一気に脱落したのだ。それも今日召集されているはずの、ボーンの力を持った人物が。
「和音、孝樹…」
もしかしたらと嫌な予感が頭をよぎったが、リストに二人の名前を確認して光流はとりあえず安心した。何が起きたかはわからないが、何らかの襲撃を受けただろうことは予想がついた。
「力の拡散とか大変なことをして…」「きっと後悔することになる…」
葵からの言葉が頭をよぎる。それでも自分は大丈夫だと光流は言い聞かせる。向こうと違ってこちらは力関係が平等ではない。反乱が起きたならすぐに沈めることができる。乱にはその事を批判されたのだが、
「あいつは何にもわかっちゃいない…」
光流は絶対に自分が正しいのだと言い聞かせた。部屋には光流しかいなかったはずだが、足音が聞こえ、気がつくと光流の近くに人が立っている。
「どうしたの?」
詩だった。彼女は心配そうな顔で光流をのぞきこむ。
「孝樹たちの身に何かあったらしい。」
「ケガ…したのかな?」
「さあな。」
会話はそれで一旦途切れたが、詩はまだ何か言いたそうな感じだった。わざわざ光流の所まで来たのだ、何かそうする理由があったはずだった。
「何だ?」
「相談…なんだけど。やっぱりみんなの力関係を平等にできないかな?」
「詩、お前まで何を言っている?」
光流は信じられないというような口調で言う。
「でもみんなもね、納得がいってないみたいだったよ。やっぱりおかしいよ、光流くんに力が集中するのは。それって私たちを手下として扱っているってことだよね。」
「詩。お前は力を手にして何がやりたい?」
詩は少し言葉に詰まったが続ける。
「私は…できれば何もしたくない。私はそれが一番だと思う。」
「やっぱり…詩、お前は向いてない。厳しいようだけど性格的には、ほのかと同じようにただの人間としている方がふさわしいいんじゃないかな。」
光流は携帯電話を操作する。その意図を理解した詩は慌てた。
「え…ちょっと待ってよ!」
詩の言葉もむなしく、光流は操作をやめることなく完了させ、立ち上がると詩の横を通りすぎて部屋を出ていった。
こうして江崎詩はリストから消去され、その二次元生物召喚の力を失った。




