第四章5 『影の暗躍者』
高い建物の屋上から、町全体を見渡す影がひとつ。その銀色の髪をなびかせて薄ら笑いを浮かべる。その男は、八人の悪魔の一人、カグラだった。
「隠れてないで出てこいよ。」
ばれたか、というような表情を見せながら姿を現したのは同じく八人の悪魔の一人、ライトである。
「なんだ、ガキか。」
「ガキ言うな!」
見た目がどうしても中学生に見えてしまうライトは、納得がいかず、不快感を表したが相手にはされなかった。いつまでもぐずるライトの方をちらりと見たカグラは、仕方なく話題を変える。
「何だか最近町が騒がしい。ジョーカーのやつが何かやったようだな。物好きなやつだ。」
「ああ、アイツね。『裏切りの王』。便利な力だよね。」
ライトが得意気に答える。これだからガキは、とため息をつくカグラだった。
「それで、俺に何の用だ?」
「あんた、ちょっと珍しいなと思って。それでつけてたの。自分の固有スキル全然使おうとしないし、悪魔の癖に人間世界に混じってコツコツ働いてちゃんとお金稼いでるし。信じらんない。」
「働くって言っても、あんまり普通の人がしないような裏の仕事が多いけどな。」
カグラは嘲るように笑う。
「実はな、俺は自分の固有スキルを一度も使ったことがない。俺はな悪魔として生きるより、むしろ人間として生きたいんだ。」
「どうしてそんなことを?」
ライトは驚いた様子で、しかし興味津々な顔で尋ねる。
「ガキにはわからんだろうな。むかし俺は人間を好きになった。でもどうしても寿命の差というものがある。好きになった女と一緒に老いて一緒に死んでいくことができない。それがどんなに悲しいことか。だから人間になりたい。人間として生活することでいつか人間になれる気がするんだ。」
空を見上げながらそう語るカグラの目はどこか遠くを見ているようだった。
「固有スキルを使わないからといっても、自分が他の悪魔より弱いとは思わない。代わりに体を鍛えてるからな。人間の技も案外使えるものだぞ。」
カグラはライトにそのすごさを見せつける様に、体裁きをその場で行った。それを見てライトも感嘆の表情をした。
「でもまあ、最近はちょっと他の理由もあるかな。」
ライトは不思議な顔をする。
「シャーリーってわかるか?マントを被ってた女の悪魔だ。ああいうの結構タイプなんだよね。それでいろんな意味で怖かったけど話しかけてみた。随分と気の小さな女だったよ。」
その声はどこか悲しそうな響きがあった。
「色々な話をしていくうちに、あの女の過去がわかった。彼女の固有スキルは『漆黒の球』というものらしい。固有スキルを見るスキルを持っているあんたならわかるだろ?爆発性のある黒いシャボン玉のようなものを作るスキルだ。その大きさや強度は任意で変えられる。だが問題は、その生成は本人の感情の変化が関係してて、自分の意思とは無関係というところだ。」
カグラは続けた。
「それで彼女は普段は邪魔にならないように、その大きさを最小にして生活をしていたらしい。でもそれがまずかった。小さな爆弾は回りの人間の体内に侵入し、ある日彼女がこけてビックリした拍子にボカンだそうだ。それが起爆剤となって取り乱した彼女は次々と爆弾を生み出し、辺りは血の海だったらしい。それ以来彼女は心を閉ざし、人とのコミュニケーションも極力避けてきたらしい。」
血の海と聞いてその場面を想像したライトは身震いをする。
「大きな力には大きな責任が伴う。自分の固有スキルに振り回されている彼女を見ていると、固有スキルを使う気も起きなくなってね。でも同時に彼女を救ってやりたいという気持ちも起きた。今はまだまだだけど、いつかきっと彼女の理想の男になってやる。そう思って日々頑張っているわけさ。」
それを聞いてあきれた顔をしたライトは言う。
「私は恋愛対象じゃないの?」
「もっと大きくなったらな。」
ライトのわめき声と、カグラの笑い声が屋上に響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シュルル…シュルル…
夜の町に糸が擦れる音が響く。その糸を手にしてスパイダーマンのようにビルの間を移動している男がいた。シャドウ、それが男の名だった。
「よいしょっと。」
シャドウは屋根の上に着地する。
「今日の獲物、捕獲っと。」
シャドウの五本の指からは透明な糸が伸びている。その先は道路にいた人間の頭に続いていた。その人間は時間が止まったように動かない。シャドウがその指を動かすと人間もそれにあわせて動き出す。操り人形。それがシャドウの力だった。シャドウの糸に捕らえられた獲物は体の自由がきかなくなる。
操られた人間は近くの別の人間に襲いかかる。それをシャドウは面白そうに観察していた。
「キャーッ!!」
夜の町に今夜もまた叫び声が響く…




