第四章2 『二次元世界サイド②』
純たちが考えたチェーンメールが世間に流れると、一年前の様に瞬く間に世間の注目を集めることになった。もちろんそれを一番快く思ってないのは、元素融合体を率いる政府の機関である。
『政府は昨夜から流れているチェーンメールは愉快犯によるいたずらの可能性が高く、時空の歪みとは一切関係ないとの見解を示しており、国民のみなさんは惑わされることなくこれ以上拡散しないなどの常識ある対応を望むと改めて発表しました。』
このようなニュースが一日に何回も流れたが、ネットが普及したこの時代において、特に若者の情報収集源は既にネットへと傾いており、今回の騒動は収束するどころか、むしろ話題作りの格好の対象となった。特に今回のメールには新たに二次元世界や黄泉世界などのキーワードが入っており、そこから現実世界滅亡説や大戦争説、また全ては政府の自作自演で、新しい軍事力を手にいれるための口実に過ぎないとの意見も見られた。
実際のところは真相は誰にもわからない。ただ、一番詳しく知っているのは悪魔として今回の出来事を動かしている純であり、純だけがこの出来事を裏でゲームのように楽しんでいた。
時間がたつと、次第に女神による選別も終わり、候補者が次々と光流の携帯電話にリストアップされていった。分布は日本全国に及んだが、特に集中したのは時空の歪みが最初に発生し、現在も最前線である神箜第二学園の周辺だった。これら力は当然、元素融合体の攻撃対象となり、今まで特に目立った活躍のなかったそのマテリアルも次第にその対応に追われ、日本全国を飛び回ることになった。
そんな中で、初めて力を持つ者に集合をかける日が訪れた。
◇◇◇
「今日は集まってくれてありがとう。俺がチェーンメールを発信した張本人、天野光流だ。」
光流の前に集まったのはチェーンメールを受け取り、選別を受けたあと、二次元世界を選択したものたちだった。そこには江崎詩の姿もあり、中には小学生も見受けられた。
「みんなも知っての通り、この力は誰にでも与えられるものではない。俺たちのように選ばれし者だけが手に入れられる力だ。これは力の悪用を防ぐためでもある。それに加えて俺は念には念をいれるため、ちょっと細工をした。みんなが持っているそれは言わば端末になる。そして本体は俺だけが持っている状態だ。みんなの情報は俺の携帯電話にリストアップされているし、何か不審な点があれば、こちらの判断ですぐに力の解除ができるようになっている。」
光流は一通り説明を終えると、その場にいる人を見渡す。そこで手をあげて、質問をする男がいた。
「元素融合体というものが存在するのにどうしてこんなことするんですか?逆に攻撃の対象になるじゃないですか。」
その質問に光流は顔色を変えることなく答える。
「元素融合体は詳細がわからない力だ。安易に信用はできないし、もしも暴走した場合に備えて何らかの力を蓄えておくべきだ。」
その男はわかったようなわからないような顔をしたが、言い返すことはなかった。もともとこれは真島純の言い分だった。光流はそれを伝えただけにすぎない。納得がいかない部分もあるかもしれないと思った。しばらくして次に別の男が立ち上がり、その男は光流がいる場所に近づいてくる。
「おいおい、話だけ聞いてれば、おかしいじゃねえか。お前はこっちのこと信用してないのに、おれらはお前のこと信用しなきゃならんのか?こういうときはみんな平等にするのが筋ってもんじゃないのか?ああ?」
その男は喧嘩腰に光流に詰め寄る。しかし光流も黙ってはいない。
「俺は決定者だ。その事を変えるつもりはない。納得がいかないなら抜けてもらって構わない。強制じゃないからな。」
「何だよそれ。無責任だな。こんなやつこちらから願い下げだぜ。俺の名前は久慈原乱。リストにのってるだろ。さっさと解除してくれ。」
その男は言いたいことを言って、あきれたように光流のもとから立ち去る。光流は携帯電話を開くとその男をリストから探しだし、削除した。
「本当に解除しやがった。まあいいけどな。俺、別のところからのオファーもあるし。」
そう言って男は光流を睨み付けると、携帯電話を取りだし、どこかに電話を掛けたようだった。
「ああ、俺だ。久慈原だ。やっぱり俺そっちに協力することにした。よろしく。」
男が携帯を切る。すると天井から大きな音がした。しばらくして二度目の音がなると天井に穴が開いた。そこには一人の女の姿が見える。彼女はその穴から部屋のなかの様子を確認するとそこから飛び降りてくる。その姿を見て光流は言った。
「浅海葵?どうしてお前が?」
光流は驚きを隠せなかった。そこにいたのは、かつて光流達を襲った人物だったからだ。彼女は光流の方へ近づくとあきれたように言う。
「力の拡散とか、大変なことをしてくれたわね。せっかくあのとき忠告してあげたのに。」
彼女が近づいてくるのを確認すると、光流はとっさに携帯電話をかざす。
「今ここで戦うか?」
「そんな無駄なことはしない。こんなに大規模になってしまった以上、あなただけ倒しても意味ないもの。」
葵は動きを止めてそれだけ言うと、今度は方向を変え、久慈原乱と共に出口へと向かう。
「それよりもう一度考えることね。これであなた一人仲間を失ったのよ。きっと後悔することになるわ。」
久慈原乱はもう一度光流を睨み付けると、近くの物を蹴って、そのまま葵と共に姿を消した。




