第四章1 『二次元世界サイド①』
「さて問題です。朝は足が四本、昼は足が二本、夜は足が三本、これなんだ?」
「うーん。何だろう。」
「こんなの簡単じゃん。答えはきっと化け物だよ。」
孝樹は『みんなで盛り上がるクイズ百選』という名前の本を見ながら、和音に対してクイズを出していた。和音はお菓子を片手にそれに答える。
「おい、そこの二人。ここがどこだかわかってるのか?」
純が少しあきらめ気味に注意した。彼のその忠告はこれが初めてではなかったのだ。振り返れば、ほのかが孝樹と詩を連れてきたあの日以来、彼らが生徒会室に入り浸るようになってしまっていた。これで部外者は真美の他に和音、孝樹、詩の四人になり、今部屋にいる正規の生徒会メンバーの数を超えていた。
「会長さん、そんな固いこと言うなよ。禿げるぞ。」
「だまれ。」
孝樹が純をなだめるように声をかけたが、純はそれをうっとうしそうにして顔を背けると再び作業に戻った。
(この学園の生徒ではない部外者は、まだ俺の固有スキルの影響を強く受けてないから扱いづらいな。早くなんとかしなければ…)
「ちぇ、何か俺たちだけ仲間はずれにされてるよな。」
孝樹は不満を漏らしながら、和音に同意を求めるように視線を送る。和音は苦笑いをするだけだった。しばらく本に目を落としなにか考え事をしているようだったが、突然なにかを思い付いたように再び立ち上がると、明るい声で言った。
「そうだ、いいこと思い付いた。和音とかが持ってるその変な力、俺たちにも分けてもらえないかな?そしたらみんなで悪者退治できるし。」
「なにバカなことを言ってるの。その悪者が世間的に見たら私たちなのよ。」
ほのかが突然割って入ってきた。孝樹は彼女の言葉を聞きふてくされたような顔をしたが、ほのかはそれを険しい顔でにらみ返す。
「まあ、そうだな。この際善悪の判断を無視したとしても、問題はある。もともとボーンの力や女神の力はそう簡単に手にはいるものじゃないんだよ。なあ、天野?」
純は光流に視線を送る。光流はそれを感じ取ったものの、申し訳なさそうに言った。
「いや、その事なんだが、ちょうど俺もおんなじことを考えてて女神に相談したんだ。結論から言うと案外簡単に増やせるらしい。」
「へえ、そうなのか。」
今度は純は和音の方に顔を向ける。ボーンの方はどうなのか知りたかったのだ。和音は純の言いたいことを理解したようで、ボーンを取り出すと何かボソボソと話しているようだった。しばらくするとボーンをみんなの方に向ける。
『お前らの言いたいことはわかった。できることにはできるがあまりオススメはしねえな。お前らがちゃんと話し合った上でどうしてもって言うなら、俺からあっちの世界によびかけてみる。あまり来ねえかもしれないが、俺みたいな物好きもいるだろうしな。』
それだけ言うとボーンはカタカタと音をたてながら姿を消した。この部屋にいる人間がその話を理解し、自分で考えた上で視線は自然と純に集まった。
「どうしましょうか?」
詩が初めて口を開いた。彼女の表情からはあまりこの事に積極的ではない様子が伺えた。純はもう一度一人一人の顔を見渡した上で悩んだような表情をする。しかし彼の本心は悩むより前に既に決まっていたのだった。
(また一つ面白そうなことになりそうだ。自分が悪魔である以上、この世界がどうなったって構いはしないのだから。)
「みんな聞いてくれ。このまま保留して様子を見るという意見もあると思うし俺も最初はそう考えた。だが、ここは敢えて力を拡散させる方を選ぼうと思う。そちらの方が俺たちに攻撃を集中させることもないし、何より元素融合体が暴走したときの抑止力として大きな役割を果たすと思うからだ。」
純の答えを聞いてほのか一人だけが納得がいかないような顔をしたが、他の人は概ね賛成のようだった。純の口元も思わず緩む。
「それで拡散の方法なんだが、女神のチェーンメールを使おうと思う。これなら短時間で戦力を拡大できる。もちろん受け取った全員に力を渡すわけではなく、そのなかでふさわしい人を選別する。天野、女神の見解は?」
光流は携帯電話を取りだし、何やら操作をした。しばらくすると光流は顔をあげる。
「オーケーだ。」
その後、すぐに純を中心にメールの文面を考える作業にうつった。みんなの意見を取り入れながら考えた文面は以下の通りだった。
『コノメールヲ受ケ取ッタ全テノ人ニ告グ。カツテ警告シタ時空ノ歪ミハ既ニ発生シタ。願ワクバ勇気アルモノノ協力ヲ仰ギタイ。今アナタノ前ニハフタツノ道ガ用意サレテイル。ドチラニ踏ミ出スカハアナタノ勇気次第。
二次元世界or黄泉世界
今度コソアナタノ大切ナモノヲ守レマスカ?』
話し合いでこのメールは深夜零時に送ることになった。話し合いが終わって詩が尋ねてきた。
「あの。これって私たちも含まれるんでしょうか?」
メールは無差別に送られるためもちろんここにいる人も対象であるのは変わりない。でもわざわざ目の前にいる人にメールで聞くのもおかしいものだと純は感じた。
「私、もし参加するなら光流くんの力の方がいいです。」
「そうだな。詩がそっちなら俺はわんこの手伝いでもするか。」
詩と孝樹はそれぞれ自分の希望を述べた。そうなると他の人もその流れに沿って意見を述べ始めることになる。純はほのかの方を見た。
「私は、やらない。」
「先輩がやらないなら私もパス。」
「食べ物じゃないならいらない。」
ほのかは断り、続いて真美、小鳥と参加しないことを表明した。
「真島、お前は?」
「俺もやめておくよ。」
光流の問いかけに迷うことなく答える。人間ではない自分の身を考えての決断だった。一方でこの答えは光流にとっては嬉しいことだった。負けず嫌いの彼にとって純が力を持たないこと自体が悩み事を減らす一つの要因になるからだ。それに彼にはもう一つ考えがあった。それはのちに彼の自尊心を十分に満足させることとなるのだった。




