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第三章4 『裏切り者は、誰だ。』

人気の無い裏道に一人の男が歩いていた。白鳥海斗だった。彼はある場所に向かっていた。今日は初めて八人の悪魔が顔を合わせる日、その集合場所に指定されているところだった。


「ここらへんかな。」


そう呟くと海斗は急にその姿を消した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


海斗が到着すると、そこにはすでに五人の悪魔が確認できた。銀髪の男、杖をもった老人風の男、中学生のような容姿の女の子。そして、マントをかぶって顔が見えない者が二人。こうやってみると本当に色んな悪魔がいる。見た目ではわからない。


「うそ!?白鳥海斗じゃん。」


中学生の女の子は海斗の姿を確認すると驚きの声をあげる。無理もない。海斗は世間では有名なマジシャンだったのだから。


「へえ、あんたも悪魔だったんだ。それにしても趣味が悪いね、死んだ人間を生き返らせる力なんて。あんたの手品の種もわかった気がする。」

「これは驚いた。それは君の固有スキルの力かい?」

「そうだよ。私の力は『幻惑の眼』。相手の固有スキルを見破る力さ。もっとも人間に対しては特定の一人に対して幻覚を見せる力に変わるけどね。」


彼女はなぜかくるくる回ると、ピシャッと着地して海斗に向かって改めて挨拶をした。


「私の名前はライト。よろしくね、カイトさん。」


ちょうどその時、また一人悪魔が現れた。チャラチャラしていかにも今風の男だと海斗は思った。その悪魔は眠そうに一つあくびをすると近くのソファーに座り込む。これで七人。残るはあと一人だった。海斗が再び部屋の中を見渡す。するとマントの男がこちらに視線を向けているのに気づいた。顔は確認できなかったが、こちらも視線を向けると、むこうは顔を背けた。


最後の一人が現れるまでは、そう長くはかからなかった。最後の悪魔はヤクザのような風貌の男。その体には大きな剣を抱えていた。八人が揃うと、すぐに部屋の空気がはりつめ、何もない空間から声が聞こえてきた。


「よく集まった。我が名はフェンリル。お前たちの産みの親だ。我らが魔界から落とされてから久しい時が過ぎた。だがそれももうすぐ終わる。帰還の時は迫っている。お前たちよ、この地に封印されし、我の体を解放し共に帰還しようではないか。今の状態では我が固有スキルも使えない。故にお前たちに託すぞ、必ずや魔界への門を開くのだ!」


話が終わると部屋の空気はもとに戻った。どうやら今ので終わりらしい。やる気があるのか無いのか具体的な指示はなにもなかった。一同は、何かあるものだと思っていたため、拍子抜けするしかなかった。入り口に一番近いところにいたチャラチャラした今風の格好の悪魔にいたっては話が終わるとすぐに出ていこうとする。


「おい、ちょっと待てよ。初めての顔合わせでそれはないだろう?せめて自己紹介くらいしていったらどうだ。」


ヤクザのような風貌の悪魔がみんなにも聞こえるような大きな声で、その悪魔に呼び掛ける。呼び止められた彼はその動きを止めるとだるそうに振り向く。


「ああ?おれか?おれはシャドウ。じゃあな。」


それだけ言うとすぐに姿を消した。


「マナーのなってないやつだな。ほらお前もマントなんか被ってないで顔見せろや。」


男は近くにいたマントを被った悪魔のマントをとろうとする。そいつはその手から逃れるように一歩下がる。それでも強引に腕を伸ばしてマントに手をかけた。すると…


パンパパンパンパン


その悪魔の回りに黒いシャボン玉のようなものが現れ、次々と爆発音を響かせた。予想外の攻撃にヤクザの悪魔は両腕で顔をかばう。回りにいた悪魔も、その悪魔から距離を取るように、一歩後ずさった。攻撃がやむと、爆風でマントがはだけ、そいつの顔があらわになっていた。その顔を見てヤクザの悪魔は驚きの声をあげる。


「お前、女かよ?」


マントの下にあったのは女性の顔。彼女はひどく怯えたような表情を見せていた。目の前にいるのがヤクザのような風貌をした男だからであろうか。彼女ははだけたマントを再び被ると急いでその場を去っていくのだった。ヤクザの悪魔は焼け焦げた服を見てため息をつく。彼は、残されたもう一人のマントの悪魔を睨み付けた。他の悪魔も自然にそこに注目が集まる。


「ははは。心配しなくても大丈夫ですよ。」


その声はどこか聞き覚えのある声だった。その悪魔は自らの手でゆっくりとマントを取る。その下に現れた顔に一番驚いたのは白鳥海斗だった。なぜならそこにあったのは彼の知った顔であったからだ。


「真島…純…」


そこにいたのは紛れもない真島純、本人だった。純は不適に笑う。


「初めまして、じゃあ無いだろう?手品師さん?」

「どうしてここに?」

「どうして?それは私が悪魔だからに決まっているだろう。他にどんな理由がある。」


海斗は信じられないという表情を隠しきれなかった。なぜなら純は学生であり、普通に人間たちと仲良くしている姿を目撃していたからだ。彼と幾度と無く会っているが、悪魔であるような素振りは微塵も見せたことがなかった。海斗はすぐにライトに目をやる。


「ライト、こいつの固有スキルを教えてくれ。それで悪魔かどうかわかるはずだ。」

「うん…」


ライトは純の固有スキルを見ようとする。だが、純がそれを制止する。


「固有スキルなら隠さずに教えるさ。よく聞け。私の名前はジョーカー。私の固有スキルは『裏切りの王』。私は人々をだまし、人々の上にたつ、裏切り者の王様さ。」


純の高笑いが部屋の中に響き渡った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ライトが念のために確認しても、純の自己申告した固有スキルに間違いはなかった。つまり真島純は正真正銘の悪魔であり、海斗が今まで見てきた姿は偽りの姿だったのだ。


「私の固有スキルはね、条件さえクリアすれば、無抵抗に相手からの信頼を得られ、盲信され、そしてその内私の指示に疑いもなく従うようになる、そんなスキルなのさ。この力を利用して今の生徒会長という地位に上り詰めた。まさに王の力。全ての駒はこの私の手の中で踊っているにすぎないのだよ。」


部屋の中には海斗と純、そしてライトの三人しか残っていなかった。他の悪魔は自己紹介もそこそこにさっさと退散してしまっていた。


「俺がいうのもなんだが、最低だなお前。」

「何が最低なものか。今のご時世リーダーなんて好感度がすべてなんだよ。最終的に裏切ろうが、不正をしようが関係ない。最初の印象さえよければ簡単についてきてくれる。バカなものだよ。」


そこにはすでに人間としての純の姿はなかった。今までずっとこんなやつに踊らされていたのかと思うと、海斗はゾッとした。


「で、お前のいう条件というのはなんなんだ?」

「最終的に裏切ることさ。裏切るつもりがあれば途中は何をしようが、私の力は発動する。有効期間もないからその気になれば半永久的に効果を持続させることもできる。もっとも疑い深い人間はそれなりに抵抗力があるからあんまり効かないんだけどさ。」


海斗はそれを聞いて『裏切りの王』というネーミングに納得する。改めて今までを振り返ると彼の演技は大したものだった。身体能力の高い悪魔が人間並みに力をセーブするだけでも一苦労だろう。初めてあった日まで記憶を遡ると海斗に一つの疑問が浮かんだ。


「じゃあ俺と初めて会ったとき『悪魔に家族を殺された』というのも嘘か?」

「嘘じゃないさ。私の家族はちゃんと悪魔に殺されたよ。真島純という悪魔にね。まあ、もともと本当の家族でもなかったんだけどさ。」


さらりとそう言ってのける純に海斗は恐怖すら抱いた。純は時計を確認すると、海斗に軽く挨拶をして出口へと向かう。


「そろそろ偽りのゲームに戻るとするよ。できればみんなにはばらさないでほしいな。まあ、ばらしたところでこちらが弁明すれば、こちらの言うことを信じることになるんだけどね。」


姿を消す寸前、海斗に背中を向けたまま純は言葉を残す。


「やり方は違っても、目的は同じだ。一緒に魔界への帰還を…good luck」


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