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第三章2  『新たな刺客②』

その事に気づくのは屋上から飛び降り、走り出してからそう長い時間はかからなかった。状況を整理すればするほどますます、それが危機的状況だということに純は確信を持つことになった。浅海葵という女生徒が二人を狙っていること。彼女が持っている力が「武器や道具を簡単に作る」という比較的使いやすい力であること。誘われるように人目の無いところへ向かっていること。このような状況で唯一頼りになるのは光流の「二次元生物を三次元生物として召喚する」という力しかない。


ところが光流は先ほど地面に叩きつけられた衝撃で携帯電話を落としてしまった。


携帯電話がなければ光流自身に女神エイルが宿っていても召喚に使用する媒体がないため意味をなさない。もちろん純には元々そのような力は宿っていない。つまるところ、二人は新たな異世界の力を前にして抵抗することができないのだ。そんなことを考えながらずっと走って逃げていた純にさらに追い討ちをかけるような出来事が襲いかかる。曲がり角を曲がった先が行き止まりだったのだ。


「はい、お疲れさま。こういうのを戦術っていうんだよ。」


あとから急ぐ様子を全く見せず、葵が現れた。彼女は二人の様子を確認したあと、上方向を指差す。そこにはおそらく上方向に光流たちが上空に逃げた時の対策であろう、ちょうど電線が張ってあった。いかにも都合が良い配置。電線はもとの場所から動かすことはできない。したがって導かれる結論は…


「この壁はお前が作ったのか。」


彼女が軽くうなずく。彼女が持っている力があればこういうことも可能である。逃げ道のない一本道のこの地形もおそらくはそうであろう。つまりはこれは最初から計画されていたことなのである。


「どう頑張っても逃げられないってわかったでしょう?あきらめな。」


彼女は銃を再び構える。一歩また一歩とゆっくりと二人に近づく。それに合わせて二人も、じりじりと下がる。後ろには壁がある。逃げられない。そして彼女は…不敵に笑う。その時…


「!?」


突然、二人が足を踏み下ろした地面が下に沈む。その感触にまずいという危険信号が純の頭のなかに駆け巡った。しかし体勢を立て直すこともできず、二人はそのまま後方の落とし穴へ真っ逆さまに落ちていったのだった。


しばらくして、二人が落とし穴の底から見上げると、そこには二人を見下ろすように葵が立っていた。彼女は銃をしまうと代わりに携帯電話を取り出す。でもそれは彼女のものではなく、光流が落としたものだった。彼女は落ち着いた様子で続ける。


「私の要求は二つ。天野光流が女神エイルとの契約を解除すること。そして女神エイルに今後、人間界に干渉しないように約束をさせること。」


すると、光流の携帯電話が操作をしていないのに勝手に光る。女神エイルが彼女の呼び掛けに応じたのだ。


「アサナミアオイサン。マズ最初ニ約束シテクダサイ。彼ニハ危害ヲ加エナイト。彼ヲ巻キ込ンダノハ私ノ方デス。彼ヲイクラ脅シテモ契約ヲ解除スル権限ハ、彼ニハナイ。」


「わかった。」


葵はそれだけ答える。


「ソレトアナタガココマデスル理由ヲ聞キタイ。私モ決シテ遊ビデヤッテイルワケデハナイ。コレハ時空ノ歪ミニ対スル最善ノ策デハナクトモ、次善ノ策デハアルト私ハ思ッテイル。私モ悩ンダ上デノ結論ダッタノダ。ワカッテハクレナイカ?」


女神エイルがそのように言っても、彼女は表情すら変えない。


「これは私だけで決めたことではない。戦士トールの要求でもあるの。彼は言っていた、あなたのやり方では逆に状況を悪化させると。彼の言うことを百パーセント信じる訳ではないけど、ことを大きくしたくなかったらあなたは下手に動かない方がいいと私も思う。…あ、そこあんまり動かないでほしいな。」


穴の底で壁を上ろうとしていた純に向かって葵は銃を向けながら言った。葵は純が隙をみて穴の底からの脱出を試みようとしていると思ったのだ。しかし純は逃げようと思って壁を登っていたわけではなかった。落とし穴に落ちてから純は考えていた。穴の底にいると、逃げるどころか相手に立ち向かっていくこともできない。でもこの状況でも何か出来ることはないかと。結論としては、出来ることといえば土の塊を投げつけることくらいしかない。そう…逆に言えば土の塊を投げることくらいなら出来るのだ。だからこそ考えた作戦とは言わないまでもささやかな抵抗。純が壁を登っているのは作戦の一部なのだ。彼が壁を登ることで、二人は先ほどより離れた場所にいることになる。したがって彼女はどちらか片方にしか意識を向けることができない。そして意識を向けられていない方が土を投げる。そんな幼稚な作戦。


彼女が純の方を向くことで準備は整った。あとは、そのまま純に意識を向けさせたままにしておいて、別方向から光流が土を投げるだけ。そして光流は思いっきり土を投げた。光流が投げた土は細かい粒となって葵に降り注ぐ。葵が土が投げられた方を見ると今度は純が土を投げる。それを繰り返し続けた。ダメージは全くなく、地味ではあるものの目眩まし程度にはなると思った。しばらくすると二人同時に大量の土を投げている状態になった。そして彼女はうっとうしそうに顔の土を払いのける。二人はその瞬間を待っていたのだ。彼女が顔の土を払い除けた瞬間、あるものが投げられた。それは…靴である。


投げられた靴はそのまま彼女の顔へ一直線に飛んでいき、頭へヒットした。その衝撃に驚いたのか、彼女は光流の携帯電話を手放してしまい、そのまま穴の底へ。光流は携帯電話が落ちた場所へと急いで駆け寄る。そして、それを手に取ると叫んだ。


「リアライズ」


今度は穴の底から光流が召喚した大蛇が顔をのぞかせる。その頭には光流と純。その様子を見て彼女は少し怒りの表情を見せる。


「壁よ、崩れろ。」


彼女は携帯電話をかざしながらそう言った。すると二人を囲んでいた両側の壁が瞬く間に崩れだし、二人に襲いかかってきた。突然の出来事に二人はそれを大蛇を盾にしてしのぐことしかできなかった。…しばらくして衝撃音が止み、瓦礫の中から顔を出すと、横には既に新しい壁ができており、彼女はマシンガン所持で隣にはミサイル数発、その他諸々の武器が二人に向ける形で準備してあった。


「ごめんね。」


彼女はそれだけを言うと迷うことなく手榴弾を投げ入れた。響く爆発音、続いてマシンガンの連射音が聞こえた。あっという間に光流の大蛇は倒される。しかし光流達も負けてばかりでいられない。純は丸腰のまま煙の中から飛び出すと一直線に浅海葵のもとへと向かう。今までの行動から彼女は光流の召喚したモンスターを殺すことはできても、人を殺すことはできないと考えたのだ。


だが、彼女は走ってくる純に向かって発砲する。彼女に純を傷つける意図があったかどうかはわからない。しかし、結果としては彼女の銃弾は全て外れた。…ついに純は彼女のもとへとたどり着く。


「く、離せ。」


しばらく二人の押し合いが続く。しかし、純がバランスを崩し、二人は地面に倒れ込む。うわっ、と彼女は叫び声をあげた。見ると腕の辺りが赤く染まっている。瓦礫の尖った部分かなにかで切ってしまったらしい。純は急いで立ち上がり他に怪我がないかを確認した。彼女は純を押し退ける。


「ちくしょう。」


ふらふらと立ち上がり後ずさりすると、彼女はなぜか全ての武器をもとに戻した。


「悪いと思ってるなら早くそれを渡して。」


「すまない、まだ君のことを信用できないんだ。」


純はそう答える。


「そう、ならきっと後悔することになる。」


彼女はまだ何か言いたげだったが、それだけ言うとあっさりと立ち去った。残された二人のもとには大きな穴と脱ぎ捨てられた靴、そして泥だらけの服だけが残った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれから二日が経った日、もうひとつ大きな動きがあった。始まりはこんな言葉をかけられたことからだった。


「大変だったみたいだね。」


純が町中を歩いているときに聞こえたその声の方を見ると、そこにいたのは他でもない白鳥海斗本人だった。大変だったねというのはおそらく一昨日の出来事に対してであろう。海斗はにっこりと笑うと続けた。


「まあ、それはどうでも良いや。それより、僕からのプレゼントどうだったかな?藤宮大吾って僕の知り合いなんだよね。マジシャンやってたときに仲の良かった社長の息子。」


藤宮大吾、それは和音と同じ黄泉世界からの使者を使う者。かつて純達が戦って倒した相手だった。純の頭に嫌な予感がよぎる。


「まさかお前の差し金だったとはな。でももう彼のボーンは破壊した。復活することはない。もうこれ以上余計なことはするな。」


「それがもうしちゃったんだな、余計なこと。これ、何かわかる?」


海斗が取り出したのは頭蓋骨。まさしくボーンそのものだった。衝撃を受ける純。


「これはボーンのレプリカ。つまり偽物。あの廃工場での戦いの時、藤宮大吾は負けた。そして変身は解除された。そのあと彼のボーンは破壊されたかのように見えた。…でも違うんだよ。あのとき破壊されたのはこれ。彼の変身が解除されてから僕がこっそり入れ換えたんだ。…つまりどういうことかわかるよね。藤宮大吾は死んでない。復活する、そういうことだ。彼は失うには惜しいほどの力を秘めている。彼のレベルが何であんなに高いかわかるかい?彼はね有名なゲーマーなんだよ。一日中ゲームをやっている。それもゲームと現実の境目が分からなくなるくらいにね。ここからは僕の憶測なんだけど、彼はおそらくゲームの中での死を現実での死のように感じることが出来るんじゃないのかな。だからボーンを手にするとあんなに強くなる。彼はこれからもっと伸びるよ。」


純は海斗の話を聞き、壁を叩く。純たちの努力は無駄だったのだ。しかも海斗の話が本当なら藤宮大吾は予想以上に危険人物ということになる。


「それとついでに言っておくと、八人の悪魔が全員この町に集まった。明日にでも集合がかかるだろう。運命の日は近い。時空の歪みは必ず起こる。もう君たちに出来ることはほとんどないよ、あきらめな。特にあんなニュースが流れてしまったからには、僕も君たちに構っていられなくなるかもしれない。」


純は最後の一言が気になってもう一度尋ねた。


「なんのことだ。ニュースっていうのは。」


「そのうちわかるさ、ほら。」


海斗は高層ビルに設置してある大画面を指差した。そこで流れていたニュースとは…


『先日発生した、廃工場などでの爆発事故などに対し、様々な憶測が飛び交う中、それに関する重大な発表が政府からなされました。それによりますと、近い将来、時空の歪みというという現象が発生する危険が非常に高いと見られているとのことです。それによりこの世界のものではない別世界の干渉が行われることになり、現在の時点で既にその影響が出ているとのことです。政府によりますと廃工場などでの爆発事故もこれに当たるということです。この脅威に対し、政府は水沢教授らが開発している元素融合体エレメントハイブリッドと呼ばれる新技術を採用しこれに対抗することを発表しました。現在のところ元素融合体エレメントハイブリッドは火、雷、氷、風、水、土、木、鋼、光、闇、の十種類が存在するようです。みなさんはくれぐれも自分で対処したり、無駄なことに首を突っ込んだりせず、全て彼らに任せるようにして下さいとのことです…』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その頃、連城ほのかもある行動を起こしていた。


「お前の方から連絡を取るなんて珍しいな。もう十年ぶりになるのか。」


そこにいたのは、男が一人と女が一人。


「あなたたちに連絡を取ったのは、頼みたいことがあるからなの。」


ほのかは答える。


「もちろん、副リーダーの頼みなら、なあ?」

「もちろん。またみんな一緒に集まれるんだね。」


「ありがとう。」


十年前に失われた絆が再び運命の時を刻みだす…

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