第三章1 『新たな刺客①』
「そんな、この俺が。バカな。何かの間違いだ。」
真島純が現在いる場所は生徒会室の中、時間はすでに放課後。四人の人間の視線を浴び、手に持っているはトランプのカード最後の一枚。残ったカードに描かれているはジョーカー。これは誰がどう見ても真島純の負けを意味していた。さらに運が悪いのはこれが罰ゲーム付きのゲームであることだった。
「どうしたの?最近、純の様子少しおかしいよ。」
ほのかが不安そうにそう問いかけてきた。しかし、その問いかけは無意味だった。彼女が気にしているのは何かあったのではないか、ということではない。何かが起きているのを彼女は薄々感じているのだった。さっきの質問も正しく解釈するなら、さっさと私にも話せ、ということに他ならない。
だが、問題はこの一件、つまり時空の歪みが起こっている、そしてその事で悪影響が出ているということについて話したところで彼女がどういう行動に出るのかがわからないということだった。彼女は真面目で有能な副会長である。時空の歪みのことを知って警察に連絡する、なんてアクションも起こさないとは言い切れない。もちろん強く釘をさしておけば実行する可能性は低くなるだろう。しかしそれなら最初から話さないに越したことはない。そういう思案が純の頭のなかを巡り、結局今日までうやむやにしたままやり過ごしてきたのだった。さらに言えばそういう雑念がゲームでの敗北という二文字もつれてきたのであったが。
「会長のようすが変だろうと変じゃなかろうと、罰ゲームは受けてもらいますよ。約束通りこの前出来たばかりのケーキ屋のおいしいケーキを人数分自腹で買ってきてくださいね。」
「俺がこんなことをするはめになろうとは…。」
真美がチラシを机に叩きつけた。純は頭を抱える。仮にケーキが一個二百円だとして五人分買うと千円になる。自分の分を抜かしたとしても八百円。しかし罰ゲームがその程度で済むわけはなく…
「安いのを買おうとしたって無駄ですよ。ちゃんと通の人からの情報がありますから。この幻のチーズケーキ期間限定DXバージョンって言うのを買ってきてくださいね。」
真美が指差したさきにのっているケーキはいかにも高そうだったが、肝心の値段はチラシには載っていなかった…
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「はあ、高くついたなあ…」
純の今回の出費は四千円弱。なぜ自分があんなゲームに参加してしまったのか後悔しても遅かった。お金を払い、肩を落としながら店を出たところで思わぬ人物とであった。灯月和音その人である。店の前でうろうろしてる辺り、新しく出来たこの店のケーキを買いにきたのであろうということは容易に推測できた。彼女は純を見つけると目の色を変えて走ってくる。
「ちょ、それ幻のチーズケーキじゃないですか!」
「やらないからな。欲しいなら自分で買え。」
そうは言ったものの純の手に持っているケーキは自分で食べるものではないのだと考えると自分の言葉がむなしく胸に響いた。
「それより、あれから何も変わったことはないのか?」
「変わったことと言えば、私のレベルが一つ上がったことかな。」
藤宮大吾の一件は彼女の成長を促したらしい。彼が起こした事件は一時はニュースにもなるほど大きなものであった。しかし和音が彼を倒し、そして彼のボーンを破壊した。その時点で彼が再びボーンを手にする可能性はなくなったと和音のボーンが教えてくれた。どうやらそういうシステムらしい。
だが大吾が脱落したといっても他の人がまた同じような状況に遭遇する可能性が消えたわけではない。彼がなぜレベル4から始まったのか、わからない以上こちらもレベルをあげる方が無難だと言える。
そんなことを純が考えている間にも彼女は子犬のような目で純の持っているケーキを見つめていた。純はさきほど店でもらった割引券を取り出すとそれを彼女に突きつける。
「これやるから、自分で買え。」
和音は割引券を受けとると迷うことなく店の中へと駆け出した。純は手に持ったケーキを改めてみて一つため息をつくと、真実たちのもとへと帰っていくのであった。
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次の日の放課後のこと。
純は光流と屋上にて秘密の話し合いを行った。話を持ちかけてきたのは光流の方だった。この前のことそしてこれからのこと、そういうことを話したいとのことだった。
光流の心は穏やか出なかった。純に助けられたという事実、和音に助けられたという事実、負けたという事実、そして二人が助けに来なければ、自分は死んでいたかもしれないという事実。実際に藤宮大吾が光流にためらいなく砲撃を向けたとき彼は目を疑った。死ぬということは今まで考えもしなかったからだ。だが現実だ。そんな現実を前にして彼は純に言った。
「お前は怖くないのか?なんの装備もないお前が前線にたって、死ぬ可能性は低くはないはずだ。俺だってあのときお前たちの援助がなければ死んでたかもしれないのに。」
「俺だってお前があのときヒッポグリフに乗って現れなければ、死んでたかもしれない。でも今は生きている。それはお前のその力のお陰だろう?」
「でもこの力のせいで死のリスクが高くなるのも事実だ。」
「確かにそうかもしれない。でも高かろうと低かろうと死のリスクがあるのは誰でも同じだ。ゼロになんて出来ない。大事なのは対抗する手段があるかどうかだ。俺のようななんの力も持たない一般市民がこの前のような危機に直面したとき出来ることは何もない。そんな非力な一般市民が大多数を占めるこの町で、対抗する手段を持ったお前のような人間は特別だ。そんな人間がしなければならないことはただ一つ。戦うことではなく守ることだ。できればただ守るのではなく死の危険を感じないように穏やかに、そしてなにがおこったかわからないくらい小規模にだ。」
「そんなこと、どうすれば…」
「だから、俺がいる。なんの力も持たない一般市民の代表として、前線にたつ俺を守りきれれば少しは希望が持てるだろう?だから俺を死なせたくなかったら俺を守れ。」
しばらくの間沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは二人のどちらかではなく屋上の扉の開く音だった。二人は同時に扉の方を向く。そこにいたのは一人の見知らぬ女生徒。
「こんちは。わたし浅海葵って言います。まあ、単刀直入に言うとこれについて話があって…」
そう言って彼女が取り出したのは携帯電話だった。
「心配なさらず。あなたたちのことは既に知っています。灯月和音のことも藤宮大吾のことも白鳥海斗のことも、そして時空の歪みのことも。」
時空の歪みという単語が出てきて純の表情はより一層真剣なものになった。彼女は光流の方を指差していった。
「あなたが持ってるそれ、女神とか言うやつと関係があるんだけど、わたしが持ってるのは戦士って言うの。あなたが生物を召喚するのに対して、こっちは無生物、主に武器や道具を召喚する。こんなふうにね。」
彼女が小さくリアライズと叫ぶと携帯電話を光が包み込み次の瞬間彼女の手に握られていたのは小型の銃だった。その銃口を彼女は光流の方に向ける。
「この前の廃工場での戦い見せてもらったけど、ナンセンスだね。あとはわたしが全部引き受けるからあんたはもう退場していいよ。灯月和音と白鳥海斗もあとでわたしが始末しとく。じゃあね。」
銃声が一つ鳴り響く。距離があったからかそれともただの威嚇だったのか、銃弾が直撃した気配はなかった。とはいっても唯一の逃走ルートである扉は既に塞がれている。そうなると手段はただ一つ。
「真島、つかまれ!」
光流の合図と共に二人は屋上から飛び降りた。次の瞬間二人の足元にはドラゴンの姿が。二人はその背に着地すると地面まで降下していった。これで逃げ切れたかと安堵したがそう簡単に逃がしてくれるはずもなく、地面に着地する直前にどこからか沸いてきた鉄骨がドラゴンに直撃し、バランスを崩し地面へと倒れ込んだ。
ふと屋上に目線を向けると先ほどの女生徒が飛び降りてくるところだった。一瞬目を疑ったものの、純の隣に大きなクッションのようなものが現れ彼女はそのなかにダイブした。
純と光流は何とか立ち上がり、逃げようとする。しかし逃げ道を塞ぐかのように上から鉄骨が降ってきて妨害するのだった。限られた逃げ道のなか二人は逃げ回る。その結果二人は誘い込まれるかのように人目のない裏道へと入っていくのであった。




