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第二章6 『始まりの事件⑥』

 風が吹き抜ける。和音と純の服がなびくのが見えた。

 

「あれ?君たち助けにきたの?」

 

 藤宮大吾は右腕を下ろしながら、嘲るように言った。大吾にとっては敵が三人に増えただけで、形成が逆転したとは微塵も思っていない。実際、彼は強い。それは今までの数十分の出来事が証明していた。だからこそ、彼はこんな状況でも笑う余裕があるのだ。

 

 光流はとりあえず、二人のいる地上へとヒッポグリフを下ろした。そしてこのときにはじめて、純の隣にいる女の子が灯月和音だと知るのだった。もちろん、彼女が大吾と同じ異次元の力を手にしていることも含めて。

 

「色々あると思うが、今はあいつを止めることが先決だ。協力して欲しい。」

「すまん。」

 

 今度は私の番、敵討ちだ、と和音が光流と交代するようにヒッポグリフにまたがった。ヒッポグリフは和音が乗ったあとも別段抵抗する様子も見せず、首をくるくる回して待機している。

 いざ、と和音はすぐに勢いよく飛び出していった、目指すはもちろん藤宮大吾のいる場所。

 

「さあ、俺たちもあいつの護衛だ。」

「わかった。」

「確か、お前の力は想像できるものなら何でも具現化可能だったな?」

「そうだが、今はヒッポグリフを召喚しているから、新しく呼び出したとしてももう一体。それ以上だと、各個体の能力が著しく下がることになる。」

 

 光流の使える能力は想像力が全てであるため、より強く想像できた方が個体の能力も強くなる。しかし、数を増やすということは即ち、それだけ一度に処理する情報量が多くなることを意味し、どうしても一体にかけられる労力はおろそかになってしまう。光流の頭では同時に二つのことを処理するのが精一杯。それ以上になると頭が混乱してしまうのだ。

 

「大丈夫だ。この際攻撃力は関係ない。俺の言うとおりに動かしてくれ。」

「わかった。」

 

 こうして、藤宮大吾との戦いの二回戦が始まった。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「へえ、次はお姉さんが相手なんだ。大丈夫なの?」

 

 大吾は空中でホバリングしながら、和音が到着するのを待ったあと、挑発するような口調でいい放った。和音は一瞬暗い顔をしたものの、先ほどのやり取りを脳裏に浮かべ、相手の顔をしっかりと見た。

 

「ごめんね。年下になめられて優しい顔をするような人間に見える?君は危険な人間だ。その力は持つべきじゃない。おとなしく・・・。」

 

砲撃ゼブル!」

 

 大吾の放った砲撃が和音のもとに一直線に向かう。和音は防御を発動し、難なくそれを受け流す。

 

「君たちってそういう説教好きだよね。でも君みたいな可愛いお姉さんに言われるのは僕嫌いじゃないかも。でもさ、みたところたかだかレベル2だよね。砲撃も飛行もない状態で僕に勝てると思う?どうしても接近戦にならざるを得ないよね。それだけでも難しいんじゃないかな。」

 

「残念でした。私は一人じゃないんだよ。」

 

 言い終わるのと同じタイミングで、二人の回りを光流の召喚したある生き物が取り囲んだ。

 

「蜂?」

 

 辺りには至るところに蜂、蜂、蜂、蜂、蜂、蜂。二人を囲んだのは無数の蜂だった。蜂たちは二人の視界のなかをチラチラと動き回る。その中の数体は大吾の体に取りつき、針で刺し始めた。しかし、攻撃力は残念ながら無い。

 

「はははは。こんなんで何ができるのさ。一瞬ビックリしたけど、この蜂に刺されても全然痛くないじゃん。身体強化してるから当然だけど。」

 

「余裕でいられるのも今のうちだよ。斬撃ゾニア

 

 和音は剣を召喚すると、ヒッポグリフで素早く大吾に近づき、攻撃を繰り出す。しかしそれは軽く避けられて終わった。和音はめげずに連続で攻撃を加えるがすべての攻撃は涼しい顔をされたまま避けられ、当たる気配がない。和音もできるだけ素早く剣を動かし、何とか攻撃を当てようとしたが、全然当たらないのでだんだん表情を暗くしていった。しばらくその状態が続いたが、大吾はチラチラと視界に入る蜂にイライラしたのか、一瞬表情を歪め、砲撃、と小さく呟いたあと至近距離でエネルギー弾を放った。大吾はそのまま和音と距離を取るように上の方へと逃げていった。

 

 和音はというと、爆風でバランスを崩しヒッポグリフから落下、そのまま重力に身を任せて落ちていった。

 

「やっぱり、私だめなのかな。全然攻撃当たらなかったや。」

 

 和音は表情を曇らせた。そのまま地面に激突するかと思われたが、ヒッポグリフがギリギリのところでキャッチ。和音は再び空中へと舞い上がっていった。

 

「助けてくれた?」

 

 和音はその事に気づき、ヒッポグリフにまたがりなおすと、さっきと違いやさしい表情を見せた。

 

「でも、私は一人じゃない。今は自分にできることをやるんだ。」

 

 そのままスピードをあげて大吾に近づく。大吾の方も砲撃で攻撃してくるが、ヒッポグリフはその攻撃をすべて回避した。二人の距離が縮まると今度は大吾の方がスピードをあげて逃げていく。そこからはしばらく鬼ごっこが続いていくことになる。しかし、明らかに変わったことが一つ。二人を取り囲む蜂が、少しずつ、少しずつその数を増やしていったのだ。

 

「ちくしょう。なんだこの蜂。増えてってねえか?」

 

 大吾がイライラしながら呟く。しばらくするとその蜂は前方が見えないほどにその数を増やした。とうとう頭に来た大吾は前方に向かって砲撃を乱射する。少しだけ開ける視界。そこで大吾は目にした。右前方に見えるヒッポグリフの姿を。追いかけられていたはずがいつの間にか前に回り込まれていたのだ。大吾は右に砲撃を向ける。しかし左上でも大きな影が動くのを目の端で捉えた。次の瞬間、ヒッポグリフに乗っていない和音が剣を振り下ろしながら落ちてきた。

 

斬撃ゾニア!!!」

 

 和音の渾身の一撃が振り下ろされる。大吾は攻撃を受けて真っ逆さまに落ちていくが、間一髪のところで右手を挙げて、砲撃へと変形した腕の部分でその攻撃を受け止めていた。右腕を含め体の数か所に大きな傷跡をつけたものの飛行は解除されておらず、しばらく落ちたところで停止した。

 

「今のは効いたよ。でも残念だったね、僕はまだ戦える。僕はまだ・・・」

 

 大吾は上から落ちてくる和音に向かって砲撃を向けた。

 

「今だ!」

 

 地上から純の声が響いた。その声を合図に、何とあたりを鬱陶しいほど飛び回っていた蜂たちが一斉に姿を消した。代わりに現れたものがあった。それは空中に張り巡らされたワイヤーだった。大吾が地上を見るとどこからとってきたのか純の隣には大量のワイヤーの束があった。純は和音が戦っている間、蜂で目隠しをしたまま蜂にワイヤーを持たせ、空中に張り巡らせていたのだ。

 

 その端は地上のクレーンへとつながれていた。地上にいた純と光流がクレーンを動かしワイヤーの端を引くと空中のワイヤーは地上へと落ちてくる、もちろん空中にいた大吾を巻き込みながら。

 

「くそ!ワイヤーが絡まって動けないじゃないか!」

 

 事前にヒッポグリフに拾われていた和音はその様子を見ると、今度は地上へと加速、そのままヒッポグリフを足場にしてジャンプしてさらに加速した。

 

斬撃ゾニア!!!」

 

 和音はもう一度攻撃を繰り出す。大吾はワイヤーが絡まって自由に身動きがとれない状態だった。それでもその攻撃を防ごうと防御アバロンを発動しようとするが、最初の二文字を言ったところで、和音の攻撃は大吾に届き、防御する暇もなくその攻撃を受けた。二人はそのまま廃工場の屋根を突き破り、大きな衝撃音と砂煙をあげながら、地面に激突した。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 純と光流が和音のもとに到着すると、大吾の装備はすでに解除されており、その横に頭蓋骨が転がっていた。和音は剣を持ったまま大吾の横に立っていた。

 

「本当は、こいつを地上に引きずりおろそうと思って考えた作戦だったけど、灯月のおかげで予想外の成果だったよ。ありがとう。」

 

 和音は下を向いたまま黙っていた。すると、大吾が目を開けて和音に言った。

 

「お姉さん。それ壊すつもり?」

 

 それとは、そばに落ちている頭蓋骨・ボーンのことである。これを破壊すれば、大吾はもう変身できない。今回の事件はすべて解決である。

 

「うん。これは君が持ってちゃいけない力なんだよ。最初からこうすべきだった。」

 

 和音は剣を上にあげるとそのまま思い切り振りおろし、ボーンを破壊した。ボーンは粉々に砕け散った。その作業が終わると和音も変身を解いた。

 

「はははは、最高の経験だったよ。本当に。」

 

 こうして、一連の事件は幕を閉じたのだった。

 

 ただ、この出来事を建物の影に隠れて見ていた男が一人いた。その男とは白鳥海斗である・・・。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 その後の話

 

 廃工場から大吾を抱えて街へ戻ってきた四人は、大吾と別れ、三人になった後近くのファミレスへと入った。

 

「まさか灯月も異世界の力を持っているとは知らなかったよ。」

 

 光流が席に着くと真っ先に言った。

 

「私は知ってたよ。光流くんがあのマジシャンと戦ってるとこ見てたし。ちょっとだけだけど。」

 

 光流はその話を聞いて驚いたような恥ずかしいような表情になった。

 

「それにしてもあの時『後はおれに任せろ!』とか言ってたよね。すぐに負けちゃったけど。光流くんは昔から変なところに意地っ張りだったからね。だから子供のころもあんな失敗やこんな失敗もしちゃうし。」

「待て!それ以上言うな!」

 

 二人は楽しそうに言い合っていた。その様子を横で純は微笑ましく眺めていた。この二人は子供のころ守護神という名前でつながっていた仲間だもんな、などと思いながら。

 

「でもね、今日は本当に助かったよ。ありがとう」

 

 最後に和音がとびっきりの笑顔でお礼を言った。

 

「お、おう。」

 

 不意を突かれて光流はどもる。

 

 純がふと外を見るとそこには学校帰りのほのかの姿が見えた。なぜか睨みつけられた。

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