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第二章4 『始まりの事件④』

 真島純は走った。

 

 大きな音がした場所に着いたときは、すでに何重にも人混みができており、事の大きさを物語っていた。純は仕方なく人混みを分けながら中心へと向かっていく。

 

 そこへ着いたとき、純は先頭に灯月和音らしき影をみたので話を聞こうと近づいていった。彼女が純に気づいたのか気づいていないのかはわからないが、何だかいつもとは違う様子であることは純の目からはみてとれた。彼女の今にも泣きそうな顔をしていたのだ。

 

「真島くん。どうしよう……私。大変なことしちゃった……かも。ほら……あれ」

 

 和音が指差した場所がどうなっているかは説明されなくても純にはわかっていた。そこにあるのは壁、商店街の入口に程近いところにある建物の一部だった。そこはすでに壁などはなく、大きくえぐれた穴が開いていた。中の散乱した店の様子もわかる。

 

「これは……もしかして、お前がやったのか?」

 

「違う……あの子が」

 

 そこにはいまどき珍しく、バンダナを頭につけた格好のいかにも満足そうな表情をした少年が立っていた。特筆すべきはその腕。全長2,3メートルはあろうかというその長い腕は、良くみると先にいくほど細くなっており、所どころ光沢もみられる。まるで大きな剣だった。

 

 さらに全身を覆うような鎧とでもいうのだろうか、頭から足にかけて装着された不可思議な装置の数々。まるで見たことがない。いったいなんだと純は思ったが、その答えとなる代物が目に入った。首にかけられた、ドクロのネックレス。まさか、と純は思考を巡らせた。

 

「ハハハ、これは面白いゲームを手にいれた。これは神様から僕へのプレゼントだ。きっとそうだ。」

 

 突然、回りにも聞こえるような大きな笑い声をあげ、その少年はゆっくりと辺りを見渡す。そしてその視線を純と和音に定めたあと、大きな剣と化したその腕を高くあげた。

 

「ありがとう、お姉さん。これで僕もヒーローだ。」

 

「いや・・・やめて。」

 

 そして・・・少年は迷うことなく腕を降り下ろした。

 

 刹那、大きな影が二人の前を横切る。

 

「大丈夫か!?」

 

 そこに現れたのは体は馬のようであるが頭は鳥である翼の生えた生き物、純は本でこの生き物をみたことがある、伝説上の生き物・ヒッポグリフだった。その背中に乗っているのは間違いなく天野光流その人だった。

 

 彼はその生き物から降り、ヒッポグリフを盾にして二人をかくまう。大きな衝撃音と共に回りの野次馬たちの悲鳴が聞こえる。二人はただなすがままにするしかなかった。

 

 しばらくすると音がやんだ。

 

「ちっ、王子さまの登場かよ。なんかやる気なくした。あとは二人でお好きにどうぞ。僕、帰りまーす。」

 

 その少年は軽く舌打ちをして、大きくジャンプすると、そのまま道路や建物を飛び越えて去っていった。光流もすぐに立ち上がり、ヒッポグリフにまたがる。

 

「聞きたいことは山ほどあるだろうが、今は僕に任せて。何とかする。」

 

 それだけ言い残すとそのまま、先ほどの少年を追いかけるように空を飛んでいった。

 

 残された純は、和音の様子をうかがった。相変わらず泣きそうな顔をしていたが、今度はそれに加えて、恐怖の色も見えた。しかしそれは当然と言えば当然だ。和音はこのときはまだ理解していなかったのだ、いま目の前でおきたことがなんなのか、そしていま自分が直面している現実がどう言うものなのかを。

 

 彼女は先日はじめて時空の歪みというものを知った。そして自分なりに頑張ると言った。自分も守護神の一員だったのだからと。しかし、彼女はまだそんなに強くはなかったのかもしれない。

 

 そこへ聞いたことのある声が聞こえてきた。

 

『まあ、しょうがないわな。中にはああいうやつもいるさ、気にすんな。』

 

 それは黄泉世界の住人・ボーンだった。じゃあさっき見たのは、和音のものではなく別のやつだったのか、と純は勝手に解釈した。

 

「どういうことか詳しく教えて欲しい、ボーン。すでに大きな騒ぎになっている。早急に手を打たないと、もっと大きな騒ぎになってしまう。・・・その前に場所を移動しようか。」

 

 野次馬の誰かが警察に連絡したのか、近くにパトカーが止まっているのが見える。面倒なことにならないようにと、純は立てるか、と和音に確認したあと、二人でいっしょにその場を足早に離れた。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 純の後ろを和音は終始無言でついてくる。

 

 しばらくして少し離れたところにある何だか寂れた雰囲気の公園についた二人は速度を緩めた。純はベンチのところへと和音を座らせ、近くにあった自動販売機で二人分の飲み物をかったあと一つを和音に渡した。和音は一言ありがとうと言って受けとる。ちらっと和音をみたあと純は話を始めた。

 

「ボーン、さっきの話の続きをお願いできるか。」

「大丈夫、私が話すよ。」

 

 和音は顔をあげる。

 

「ごめんね。私のことはもう気にしないで。いままでの私はちょっと演技してた部分もあるから。」

 

 笑顔でそう語る彼女であったが、内心はまだ動揺しているのか、純はその言葉遣いに若干の違和感を覚えるのに加えて、その笑顔も作り笑いに見えたのだった。

 

「まず、あの少年の名前は藤宮大吾、中学二年生。私もさっき会ったばっかりなんだ。彼は私に続いて二人目にこのドクロを手に取った者なんだよ。それをこの人から聞いて急いで駆けつけた。そして私もこの骸骨を見せて、同じ状況に置かれていることを彼に理解してもらった。ここからが私の過ち。私はそのままそれを奪っちゃえばよかったんだ。危険なものだから持ってちゃいけないって。実際そういう選択肢も考えた。でも私はそうしなかった。私ちょっと嬉しかったんだ。秘密を共有できる仲間ができることが。それで時空の歪みのこととか、私たちの他にも同じような力を持ってる人がいることとか話したんだ。そしたらあの子急に様子がおかしくなってさっきのような状態に・・・。」

 

 そこまで話すと彼女は手に持っていた缶ジュースに口をつけた。辺りには人は一人もおらず、公園のなかを寂しく風が吹き抜けた。

 

「それでお前はこれからどうする?俺は天野を追いかけてみるけど。」

 

「私も行く。私にも戦う力があるもん。」

 

『二人で話してるとこ悪いが、行くなら気を付けた方がいいぞ。前に俺らには人間に特別な力を与える能力があってそれによってレベルが違うって言う話をしただろう。あの少年はどういうわけか知らんが、もうレベル4なんだ。さっきみたあの剣も斬撃ゾニアっていうレベル1の武器だ。レベル2の嬢ちゃんならあの武器も使える。でもな、レベルが3、4の武器においては嬢ちゃんは使えん。普通に戦っても勝てないだろうな。』

 

 しかし、彼女はその話を聞いても臆することなく、逆に目に強い意志を宿して立ち上がった。

 

「大丈夫。それでも私はやる。今度は一人じゃないもん。真島くんもいるし光流くんだっている。私も加わればなんとかなるでしょ。ね!」

 

 明るい声で拳をあげた和音は同意を求めるように純の方をみた。純は根拠のない自信を持つ和音に逆に少し不安を覚えたが、彼女の目がその不安を打ち消すくらい輝いていたので、とりあえずうなずいた。

 

 さっきまで泣きそうだったのに、こいつは良くわからんと不思議に思いながら二人と一匹?は飲み終えた空き缶をゴミ箱に捨て、公園をあとにした。

 

 

 


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