事件は大体水関係?
今回はエロく、そして短くまとめやしたぜ、兄貴、
まだ外が薄暗く、車の音ひとつ聞こえてこない。寝た状態から見える窓には、薄暗い空が映っていた。
きっとアサガオだった時の癖というか習性なのだろう。そのせいで僕は早く起きてしまったようだ。
人の形をした体を起こすと、まだ不慣れなのか妙に体に力が入らなかった。それに、昨晩より体が重く感じる。
僕は深いあくびをして虚ろな眼をこすった。
眼をこする――今さらながら、まだ自分の体が信じられない行為だ。
昨日、僕は突然アサガオから人間となった。しかもその理由が、咲さんがそう願ったからだという。
常識的に考えたら非常識的なできごとなのだろう。僕自身ですらまだ完璧には信じられないでいる。けれど、事実、今ここでこのように僕が人間として存在していることが真実だ。だから、そこに理屈や根拠は皆無なのだろう。
重たく感じる足を引きずり、部屋を出て二階から一階に階段をリズミカルに下りる。
この階段を下りるという動作だけで僕は楽しくてきっと四往復は素直に楽しめるだろう。でも、朝からそんなことをするときっと咲さんに怒鳴られてしまうので、素直に下りてそのままリビングに向かう。
結局昨日は、咲さんと何処で寝るか口論になり最終的に咲さんが譲歩して僕が、咲さんの部屋に、咲さんはリビングのソファで寝ることになった。
リビングに向かう際に、いろいろな物が僕を魅了したが、朝は挨拶。これだけはアサガオとしてやらなくてはいけない気がしたので、そっとリビングのドアを開き、咲さんに挨拶をすることにした。
「……おはようございまーす!」
一応寝ていたらあれなので控えめな声で挨拶をしたが、咲さんから返事は帰ってこなかった。それもそのはず、ソファの上には毛布だけが無造作に置かれており、咲さんの姿はそこにはなかったからだ。
「あれ?」
たぶん予想だけど今は五時ぐらいだと思うんだけど、もう起きたのかな? でも姿が見当たらないぞ? 何処へ?
意外にも咲さんはリビングにいなかったので、ソファの上に置かれてあったリモコンでテレビを点けてからトイレへ向かうことにした。
これも昔笹木さんから聞いた話なのだが、人間は朝起きると妙にトイレに行きたくなる習性があるらしい。その時、僕は理由を訊いたが、寝ている間に膀胱に尿が溜まるから、と、もっともらしい答えが返ってきた。
まあ、まさかそれを僕が身をもって体験するとは思っていなかったが。
少し急ぎ足でトイレに向かい、トイレのドアノブに手をかけて勢いよく開く。
「…………」
「…………」
「…………ちょっ!」
「…………っ!」
バタンッ。
トイレを開けると中には見覚えのある顔がそこにはあった。
すぐにドアを閉めたから百パーセントだと断言できないが、真っ白い肌に華奢な体、茶色い瞳に黒い髪、そしてピンク色のパンツを膝のあたりまでおろした少女が。
生憎この家に住んでいるのは僕と咲さん。それ以外は僕の知っている限り存在しない。ということは、これは咲さんだと断言してもいいかもしれない。だが、もし咲さんだと口にしてしまったら僕の命の保証ができない。
ドアを開けた時の咲さんの顔は赤く染まり、その色は怒りからなのか、恥ずかしみからなのかは言うまでもなかった。
「…………殺すわよ」
ドア越しからの殺人予告。
案の定その声は咲さんの声だった。少し震えているあたりが、また武者震いみたいなので怖い。
くそ! よく考えればこうなるってわかっていたじゃないか!
僕は朝起きるとトイレに行こうとした。それは笹木さんも言っていた通り自然な行動で生理現象みたいなものだ。
それで朝起きるとリビングに咲さんの姿はない。それも朝の五時ぐらいだ! だとしたら起きてトイレに行ったに決まっている! なんでそこまで僕は頭が回らなかったんだ!
自分の浅はかな知識と馬鹿な行動に後悔をする。
こうなったらちょっとでも説得させるしかない。
「ちゃ、ちゃんと鍵掛けないのがいけないんですよ!」
「…………」
「なんのために鍵があると思っているんですか!」
「…………」
いくら問いかけてみてもトイレの中からは一切声が聞こえない。
ああ、駄目だ。咲さんは完全に怒っている。怒った咲は無口になるということは昨日身をもって経験したじゃないか。
こうなったらまた、昨日と同じように褒める作戦に出てみよう。
「……そ、その下着可愛いですよ。昨日よりも」
「…………」
「……特にヒモパンってところが高評価です……」
「…………焼死……溺死……感電死……」
あわわわわ、やってしまった。完全に咲さんを怒らせてしまった。
きっとあの中に僕の死に方があるのだろう。ま人間になって二日目、僕的には感電死を望みます。
そんなことを考えている間にも、向こうでは水の流れる音が聞こえて、目の前のドアがゆっくりと開かれた。
「すいませんでした! もう二度としません! 今回のことは完全にこちら側の不注意で、勝手プライベート空間を乱してしまい誠にすいませんでした! ですから今回だけは見逃してくだ――」
と、そこまで言ったところで咲さんは意外にも、トイレから出ると、すんなりと僕の横を抜けてリビングのソファへと戻って行った。
あれ? パンチが飛んでこない?
完全に殴られると思って身構えていた体も、意外な結果に力が抜け、咲さんへの不信感が沸いてきた。
僕はトイレに行くことも忘れ、毛布にくるまってテレビを見ている咲さんに問いかけてみた。
「な、殴らないんですか?」
「べつに殴らないよ」
咲さんは顔を向けずに、怒った感じもなくそう答えた。
あ、怪しい。絶対なにかある。
「な、なぜですか?」
「だってよく考えたら朝顔の言うことも一理あったのだもん。私の不注意でこうなってしまった。たしかに私はもう一人暮らしじゃないんだからトイレに行ったら鍵を掛けなきゃね。それはそうと、朝顔はトイレしにいたんじゃないの?」
ううん? なにか違う。まだ咲さんと付き合って一日経ったか経ってないかぐらいだけどそれぐらいは感じとれる。
だが、怒りそうにもない咲の表情を見てトイレに行くことにした。
やっぱりプライベート空間というのはすごく落ち着くものである。それは狭くてここは自分だけの世界だと安心しているからなのであろう。それにしても咲さんの家の古さは目に見えてわかった。
他の家に行ったことはないけれど、この木作りのトイレルーム、ちょっと天井が低く作られた部屋、そしてなによりもリビングからトイレが見えるという家の設計。これは結構古くから経っているのに違いがない。
「ふぅ……」
そんなことを考えているうちに、用を済まし、ズボンに手を掛け、パンツを隠そうとした時だった。
ガチャ……
と、不吉な音が僕の背後から聞こえた。
僕は振り返ることもなく、頭に浮かんだ人物の名前を口に出す。
「さ……咲さん……?」
「なあに?」
すぐに返事は返ってきた。それもいつもより嬉しそうな声で。
「な、なあにじゃありませんよ! 閉めてください! いったいそこで何をしているんですかっ!」
「仕返し」
その言葉のあとにケタケタと笑う咲さんの声が。
「ちょ、ちょっとなに子供みたいなことしているんですかっ! プライバシーの侵害ですよっ!」
僕は相変わらず後ろを向いたまま咲さんに訴えかける。
「違うのよ、今トイレ行こうと思ったら鍵が掛っていなかったの。そしたら朝顔がトイレに入っているもんだから、つい」
「なにが『つい』ですかっ! 今仕返しっていったばかりでしょう! と、とにかくまず閉めてください!」
本気で咲さんに言い聞かすが、
「やだっ」
という返事しか返ってこなかった。
ああ、なんでもっと咲さんを疑わなかったのだろうか……。
またしても自分の浅はかな知識と馬鹿な行動に後悔をする
今回の話は力を入れてしまいました^^
できれば、評価やコメントなどくれたら嬉しいです^^
ユウチュウブの方もよろしくね?