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トリビアの水

短い……


 それから一週間後、咲さんは暇さえあれば奥の部屋でパソコンをいじりに行き、思った以上の早さでコミュニティーの人達と慣れていった。きっと同じ年齢同士で話題が合ったり、僕と暮らしていたおかげで少しは人と話すってことに慣れていたのであろう。


「慣れてって大事だなぁ」


 そんなことをぼそっと呟き、目の前に置かれた水をすする朝顔。

 今日は珍しくテーブルではなくソファの方に座りテレビを見ていた。

 テレビの中のニュースキャスターは今日も気温は三十度を超えると言って、日射病予防を進めている。僕個人としては日射病が起こる前に脱水症状を心配しなきゃいけないんだけどね。

 咲さんは相変わらず奥のパソコン部屋で今日もコミュニティーサイトでコミュコミュしていることだろう。それで最近僕にパソコンを使わせてくれなくて困っている。

 ふぅ~、と溜息を吐いてからコップに入っていた水を一気に飲み干し、如雨露を持って裏庭へと行く。

これはだいぶ前から、始めていることで僕の日課にもなっていることだ。

 僕がアサガオだったころは炎天下の元水という水はもらえなくて苦しんだもんな。


「咲さーん、ちょっとお水あげてきますねー」


 そう言うと「うーん」と奥から返事が返ってきた。

 ところで、最近はまっているものといえば、一人で、花の名前だけでどれだけシリトリができるかっていうことと、あのよく段ボールとかと一緒についてくるプチプチつきのビニールを寝るときにお風呂場に行って一緒に寝ることだ。あれは、寝れなくて暇な時にプチっと沈めた状態で潰すと小さい空気が浮上してきて面白い。

 それで最近の趣味といえば、よく食パンとか買うとついてくる結構複雑な形をした水色の袋とじ? を集めることと、ペットボトルのキャップを床と指でスピンを発生させてどれだけ前に進めるかって一人で競っているところだ。ちなみに今の最高記録は六メートル二十センチ。本当はもっと先に進めたのだけれど、奥の部屋に突入した瞬間、咲さんに踏まれて記録を潰されてしまったのだ。あそこは魔の巣窟ゾーンと呼ぼう。

 つまり、僕が結果として言いたかったことは、


「暇だ――っ! なんなんだよーっ! 笹木さーん! 最近咲さんと会話していないし、やることないし、つまんないんだよー!」


 と、とても簡単なことだった。

 最近咲さんと話した会話と言えば「髪切った?」「いえ、切っていませんけど?」ぐらいだった。


「切るわけがないじゃないですか! 元がアサガオだから切っていいのか悪いのかわからないし、なによりもお金も持っていませんからね――っ!」


 と如雨露を振り回しながら笹木さんのところを集中的に水をかけるのであった。

 悪いけど笹木さん、今回だけはこの気持ちをわかってくれ。


「うおおおおおお、この遠心力! 如雨露の中に水は入っているけど水は落ちなーい、これふしーぎ、トリービア」


「なにがトリビアよ。自分で遠心力って言ってるじゃない」


 すると、さっきまでパソコンをやっていた咲さんがサンダルを履いて僕の元にやってきて痛い子を見るような眼で軽快なツッコミを入れた。


「おお、これはお恥ずかしい場面を見せてしまった……。ところで咲さん何しに?」


 咲さんの登場に、一旦遠心力遊びを止めて咲さんの場所に駆け寄る。

 もしかして、さっきの独り言も聞かれてしまっただろうか?

 咲さんは僕の質問に、伝えたいことを思い出したのかとびっきりのスマイルを浮かべて僕の手を前にやって握り合せた。


「それがね! あれから毎日メールとかをしていて仲良くなったかなーって思ったところでオフ会の朝顔のことを訊いてみたのよ。そしたらドックーさんがいいわよって言ってくれたの! 朝顔、一緒にオフ会いけるのよ!」


 咲さんは笑顔でそう言ってくるが、今まで放置されていた僕としてはなんだか素直に喜べないでいた。

 別に僕……オフ会とか行きたいと思っていなかったし……。


「それはよかったですね」


 それでも一応頑張った咲さんは褒めてあげる。


「なんであんまり嬉しそうじゃないのよ……人がせっかく朝顔と遊ぶ時間を割いてまでオフ会にいけるところまで持ちかけたっていうのに……」


 その言葉に僕は耳を疑ってしまう。


「え、僕と遊びたかったんですかっ!」


「な、なによ、急に。 そ、そうだけど、しかたないじゃない? オフ会だって大事だし……」


「そ、そうなんですか! ああ、よかった……、てっきり僕は咲さんに見離されたのかと思っていましたよ……もう、僕にかまってくれないのかと」


 そう言って安堵のため息を吐く。考えないように考えないようにとしてはいたが、やっぱり同性同士で年齢が同じだったらやっぱりそっちの方がいいのかと……。


「なに言ってるの、朝顔は私の唯一の友達よ? 見離すわけがないでしょう! それじゃあ九十九里浜に持って行くものを買うからデパートに行きましょう!」


「イエッサー!」


 どうやら僕は深く考えすぎていたみたいだ。


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