友達ってどこから?
毎日更新♪
今回ながいです。
ここが僕の故郷。
いまさら紹介するまでもないが、ここで僕は生れ、育ち、枯れる。だがアサガオ、というか大抵の植物は輪廻の如く蘇るので問題はない。
裏庭には、相変わらず隅の方に笹の木の笹木さんがいて、それに並ぶようにフヨウ、キキョウ、ナデシコ、ラベンダーと紫色中心の花が咲き誇っていた。
これも僕が人間になって毎日、お花達に水をやっている成果だ。
うん、うん。みんな元気そうでなにより。
「それで、ここでなにをするの?」
咲さんは何故か不満げに片腕を押さえながら日唯一の日陰から僕に質問しいてきた。
「それを今からやりますので、ちょっと見ていてください」
そう言って僕は目線を斜め四十五度の位置に定める。そこには、物干し竿を持ったいかにも主婦をしています。といった感じのおばさまが一生懸命布団を吊るして叩いていた。
こんな真昼間からよく頑張っていること。
僕はその人に狙いをしぼり、いつもより大きめの声で話をかける。
「あのー、今日もいい天気ですねー、洗濯物もよく乾くでしょう?」
おばさんは、私に言っているのかしら? と一旦手を止めたが、笑顔を見せると向こうもそれに応じてくれた。
「そうねぇ~、けど、洗濯物以外にも夫も乾いちゃって、何も手伝ってくれないのよー」
とおばさんは布団を叩きながら言う。
「ははは、そうですかぁー、気温三十度超えているから仕方がないですよー」
「そうねぇ。だから熱中症には気をつけないとね。あ、それも、この気温ってやっぱり異常らしいわよ? なにも森林伐採やらガスやらで地球温暖化に向かっちゃっているみたいなの。一年に一℃上がっているらしいから、このままじゃ地球もすぐだろうって専門の方が言っていたみたいですし、ホント先が思いやられるわよねー」
うん、さすが僕に知恵を授けてくださったおばさまだ。一度、おばさまに火をつけたら全て燃え尽きるまで待つしかないだろう。
僕は、その頃おばさんはきっと生きてないから安心して、と心の中でツッコミを入れて咲さんと向き合う。
「というわけでまず、咲さんがどれほど、恥ずかしがり屋なのか知りたいのです。今みたいにあのおばさんに話かけてみてください」
恥ずかしがり屋と言っても、やっぱランクがあるだろう。ちょっと自分から話かけるのは無理、だとか、初対面の人だと人の背中に隠れて話してしまう、だとか。そのランクによって友達の作り方にも多少違いが生まれるので、そのために今回咲さんをやる気にさせて外に連れてきたのだ。
「む、むりよ! だって私、人前で喋れないもの!」
「そりゃ、今までの咲さんです。ほら、あのおばさんの火が消えない内に、話しかけてください」
トラの子は一度崖から落として、這い上がってきた我が子のみを育てるというし、ここは咲さんには厳しいかもしれないけど、我慢だ。
咲さんを日陰から連れ出して、おばさんと会話できる範囲に立たせる。
「…………」
が、咲さんは立ったまま一歩も動かなくなってしまった。
「咲さん?」
ど、どうしたのだろうか? もしかして自分から話かけるのは無理のタイプだったのかな?
そんな咲さんを見かねたのかおばさんの方から嬉しそうに話かけてきた。
「あらー! 咲ちゃんじゃない! まあ、ずいぶんと可愛くなっちゃってねぇ。あ、もしかして後ろにいる男性は彼氏? 彼氏なのね! きゃぁー! あの咲ちゃんに彼氏だなんて、おい、そこの!」
「は、はい!」
と、突然なぜかおばさんは物干し竿で僕のことを指すと話を振ってきた。
「咲ちゃんはね、いい子なんだから絶対に失望させるようなマネはするんじゃないよ? もし咲ちゃんを傷つけたら、おばさんここに高層ビル立てて、この家に太陽の光が射さないようにしてあげるんだからね!」
「それは結局、咲さんも苦しめることになるんじゃ――って違いますよ! 僕はただ、そのー、咲さんの従兄です! ちょっと今はこっちで暮らしているのです!」
そう言うと咲さんはチャンスだと思ったのか、こっちに駆け寄って来るなり僕の背中に隠れてしまった。咲さんの顔は今までにないぐらい赤く、まるでトマトみたいだった。
まさか、こんな短時間で日焼けはないだろう? と、なると相当な恥ずかしがり屋だ。
「咲さん、僕の後ろからだったら会話できます?」
と優しく小さな声で、後ろに訊くが、咲さんは小さく「……むり」と言って完璧に隠れてしまった。
「あらー、なにー? 従兄なのー? もぉーそれなら早く言ってくれればよかったじゃない。そうかーだから最近、神崎さんの家は賑やかだったのねぇー、いいことだわ」
おほほほと最後におばさんは笑って、火が消えたのかそれから黙々と干す、叩くの作業に移ってしまった。
ほんと、マイペースなおばさまだ。
「咲さん……大丈夫ですか?」
「……帰りたい」
と、その一言で僕達は一旦家に入ることにした。
まあ、今回咲さんがどれほど恥ずかしがり屋か試すためにやったことなので、結果はともあれ、咲さんの恥ずかしがり屋度を知れただけでも十分か。
咲さんはというと、帰ってくるなり真っ先に洗面所に向かって顔を洗うと、深く溜息を吐いて、今は僕の前でいつもの食卓テーブルで頬杖をついていた。
「はぁーやっぱり、私恥ずかしがり屋だ……もう、どうしよう……死にたい……」
「駄目ですよ! そんな死にたいだなんて! きっと克服できますから!」
「……どうやって?」
咲さんは眼を涙目になりながら上目づかいで僕を見てくる。
う、あんな弱い咲さんからのこの上目づかい……かなり……くる。
などと考えていると、僕はふと当たり前の様な疑問が浮かんだ。
「そういえば、咲さん。その服や、食べ物ってどこで買っているんですか?」
咲さんは僕の不意な質問に「は?」と言って眉毛を八の字にしたが、あまりにも真面目な顔をしていたのだろうか、どうでもいいように答えてくれた。
「なにってスーパーとか、服屋さんよ」
実に当り前な答えだ。
「それで、買う時お会計場所とかは大丈夫なんですか?」
「大丈夫ってなにがよ?」
咲さんは不思議そうな顔をして訊いてくる。
「その赤面状態というか、恥ずかしがり屋ですよ」
そうだ。あんだけ人前に立つと赤くなってしまう彼女が、普通に買い物などできるわけがない。それこそ、最近通販とかあるけど結局受け取る際には人と対面するし、生きてく上でこれだけは避けれないことなのだ。でも、しっかりと咲さんは生きている。ということはあの恥ずかしがり屋があってもちゃんと対応できているということだ。つまり、その対応できている理由を見つければ友達も簡単にできるということになる。
咲さんは僕の質問にさも、当たり前かのように答えた。
「そんなのその人と毎日会っていて、しかも向こうが毎回話しかけてくれば、さすがの私も少しは仲良くなるわよ」
でも、そこの店員さんが変わったら私生きていけなくなるかもしれないけどね。と言って咲さんはまた深く溜息を吐いてしまった。
まあ、接客業だったらお客さんとコミュニケーションを交わすことはあるだろう。けれど、そんなもんで解決できてしまうのか? と、なると咲さんに同年代の友達がいないのはただ単に、咲さんが可愛いから近づけないだけで、それでも近づいた人はいるだろうけど、初対面の咲さんだと無視をされてシカトされたと思ってしまい、傷つくだろう。それが男なら一生残る傷もんだ。いや、でも、だとしたら、
「いるじゃないですか? お友達」
「なに言ってるの、どこのお店の店員さんも六十近いおじいちゃんよ」
「ああ、さすがにそれだけ歳が離れていると友達って呼べませんね……」
いや、それにしても理由を知ることはできた。つまり咲さんは他人と馴れるまで一方的に会話をしてなおかつ、相手の姿を慣れるまで見ていればいいのだろう?
「それって難しくないか?」
「うん? どうしたの?」
「あ、いえ、こっちの話です」
てか、そんなこと可能なのか? ほぼ毎日その人の姿を見れて会話できる人なんて、その時点で友達って言うんじゃないのか? いや、でもそれが咲さんにとって友達の入り口点だから、友達ではないのか。
ということはあのおばさまは慣れていない?
まあ、僕もあまり慣れていないけど……ってそういうことは後にしといて、とにかく今まで咲さんに友達ができなかったのは、確かに恥ずかしがり屋のせいもあるけど、咲さんが美少女過ぎるってのも原因の一つってことだ。
そして、悩みに悩んだ結果僕は、奇跡と言えるアイデアが浮かんだ。