答えは○○○○○
次の日の昼。
目覚めの良かった僕は体を拭いて、すでに人間に慣れた体でテキパキと体を動かして咲さんを説得させていた。
「――と、言うわけで、本格的に友達を作っていきたいと思います!」
「えぇ~」
咲はなぜかだるそうにテーブルに手を伸ばして項垂れている。
咲は自分のことだと理解しているのだろうか?
なぜ急にそんなことを言い出したかと言うと、今日の僕は妙にやる気に溢れていたので、この気持ちが幻滅しなわない内に、友達の一人や二人をちょちょいのちょいっと作ろうと思ったからだ。
正直、今さらながら友達っていうのはどこからが友達で、どこからが友達じゃないのか、という疑念はたくさんあったものの、そこは後にして、とりあえずいつも通り食卓テーブルについて家族会議をしていた。
「なんで、嫌がるんですか! 自分のことですよっ! もっと積極的に参加してください!」
咲は相変わらず、横になったままボケている。
もしかしたら、友達ができた今、この現状に満足をしているのだろうか? いや、そんなはずはない。たとえそうだとしても僕の気がおさまらない。
それぐらい今日の僕は燃えていた。
「ほら、具体的にはどういう友達が欲しいのですか? 男? 女?」
友達と言ってしまえば簡単に聞こえるかもしれないが、友達にだって性別の問題以外にも年齢や趣味、ましてや最近、血液型、正座を気にする人だっていると聞いた。
あれ? それは出会い系だけだっけ?
手段としては別にそんなのどうでもいいです。といった感じに無差別に友達を作る方法もあるわけだが、やっぱり趣味が一緒だったり性別が一緒の方が話やすくてその先もずっと友達でいられる確率が上がる。それなのに、別にどうでもいいです。なんてアバウトな決め方は良くない。
「う~ん、やっぱり女の子よね、同い年くらいの。でもさ、朝顔。友達ってどこからが友達なの?」
咲は手を前にやったまま顔だけを僕に上げて話す。
「うぐっ……」
やっぱりその質問がきたか。
友達――昨日の晩に咲さんに内緒で家に置いてあったパソコンというやつで調べてみたのだが、メールアドレスを交換したら友達、一緒に遊んだら友達、もう会話した時点で友達、といった風に人それぞれみたいだった。
ただ、その中でも一番支持があったのは、友達というのは喧嘩したら友達です、となかなかに深い良い答えだった。だが、生憎僕はそういう意見を求めてない。
「う、う~ん、あれじゃないですかね? こう、一緒にいて楽しいと思ったら友達なんじゃないですかね?」
おお、我ながらいい答えをいったぞ。あとで、投稿しておこう。
「へぇー、そうなんだ」
だが、咲さんはだるそうに答える。
「なんですか、さっきからその態度は?」
「だって、家、クーラーとかないから暑いんだもん」
たしかに……なぜこの家にクーラーがないかは別にして、家にある温度計は三十八度と信じられない数値を叩きだしていた。これはいつ倒れてもおかしくない。
僕も暑いとは思っていたが、項垂れるほどではない。ということはこれも少しはアサガオだったころの影響が?
「そこはもう根性です! それじゃあそれを踏まえたうえでちょっと訊きますけど、咲さんは僕といて楽しいですか?」
もしここで楽しくないといったら一気にやる気が削がれること間違いないだろう。
期待の中、僕は咲さんの言葉を待っていると、咲は急に顔を赤らめてさらに顔を伏せてしまった。
「どうしたのですか? イエスですか? ノーですか?」
「……い……いえす……よ」
咲は顔を伏せて答えたので僕の耳まで声が届かない。
「すいません。聞こえなかったのでもう一度おねがいします」
「……い……えす」
エス?
「いや、咲さんがSなのは重々承知ですよ。それより答えてください」
「い、いえすって言ってるでしょうが! あーもう! なにっ! それが今関係あるの! それより友達作るんでしょう! ほら立ちなさいよ!」
テーブルに伏せていると思ったら急に顔を赤くしたり、急に顔を赤くしたと思ったら怒鳴り散らしたり、いろいろ大変な少女だ。
だが、それも全て僕策士の内だった。顔を赤くするのは予想外だったけど。
咲は赤面状態で椅子から立ちあがる。
「よし! きましたー! それじゃあちょっと僕についてきてください!」
でも、僕は若干友達作りってことに緊張をもっていた。
咲さんは表情豊かで人を信用して感情のままに叫ぶ癖というか性格がある。もちろん、それらはすごく可愛いくて良いことなんだが、これから作るのは友達作りだ。
もし、そんな咲さんに悪いような友達ができてしまったら、そういうところを利用されて咲さんが辛い思いをするかもしれない。悲しい思いをするかもしれない。
だから友達作りというのはそれだけリスクがあることなのだ。
玄関に行き、靴を履いているとある一つのことが浮かんだ。
「……フライパン」
「え? なに?」
咲は突然の僕の呟きに振り向く。
「え? だからフライパンですよ」
「うん? フライパンがどうしたの?」
咲さんは隣で靴を履いている僕を見ながらそんなことを訊いてくる。
あれ? なんで僕は急にフライパンだなんて言ったんだ? なんか、無性にそれが言いたかったってわけでもないし、でも、なんか心のモヤモヤがとれた気がする。
「いえ、なんでもありません。独り言です」
「……変わった独り言ね……」
咲さんに変な眼で見られてしまったが、なんとか誤魔化し靴を履いて裏庭へと回った。
ほのぼの系が書きたいんだ……