神埼咲♪
ああ、俺の理想が入っているさ!
いいじゃねえか!
べっ、べつに、無理に前書き書いているわけじゃないんだからねっ!
そして、べっ、べつに、前書きの使い方間違っているとか言われなくてもしっかりとわかっているんだからねっ
「…………?」
僕は布団の中で目が覚めた。
なんだか永遠とも思われるマラソンをずっと走っている夢をみていた気が……。いや、それともなにかと話していた気が……。
そんなことを考えるのもつかの間、急いで布団から出し自分の体を確認する。
青い髪に肌色の肌、そして五本の指、僕は人間の姿でいるみたいだ。
「あぁ……よかった。夢じゃなかったんだ……」
安堵のため息を吐いて、自分の周りを見渡す。
布団の周りには空になった無数の二リットルペットボトル。なぞなぞ大全集。そしてびしょびしょになった布団があった。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…………うわぁ、これ全部飲まされたんですか……」
計八本。きっとそのほとんどは口からこぼれ落ちたのだろうけど、十六リットル……なんて恐ろしい量なんだ。成人男性の全血液、約三人分に比例する量だぞ……。
恐ろしい。
「てか、それにしても――」
さっきから肝心な咲さんの姿がどこにも見当たらなかった。
ソファの上には散らかった毛布、テレビは点けっぱなしで昼ドラが流しっぱなしだ。たぶん、この様子から推測すると飲料水がなくなったから買いに行ったというところであろうか? せっかく体もよくなって咲さんに心配を掛けまいと思ったのに、これだから咲さんは。
いつまでも布団の上に佇んでいて仕方がないので、やっぱり起きた後はトイレに行く。それもあれだけの飲料水を量を飲んだあとだから、余計に行きたくて仕方がない。なので、トイレに行ってから後先のことを考えることにした。
「うん? 誰か入ってる?」
トイレに手を伸ばしたところ、鍵がかかっていてドアが開かなかった。正確に言うと、トイレのドアも古いので外側から鍵が掛っているかどうかなんて確認できないけど、開くはずのドアが開かなかった。
いるとしたか咲さんしかいないのだろうけど、今朝のこともあるので一応確認してみる。
「誰か入っているんですかー?」
「神崎が入ってますよー」
「咲さんですかー?」
「咲さんですよー」
なんだ、咲さんか。買い物に行ったと思ったけどトイレか。だとしたら十中八九僕に飲ませている間に自分も喉が渇いて飲んだといったところだろう。
そう思い、咲さんが出てくるのを待とうとトイレのドアに寄りかかろうとした時、突然ドアが開かれ後ろに転倒してしまった。
「あ! 朝顔! 朝顔起きたの! 起きたんだったら早く言いなさいよ! ……ってそんなところでなにやってんの?」
トイレで寝っ転がる僕を、さげずんだ目で見下した。
「ちょ、ちょっと、後転の練習を……」
「くだらないこと言ってないで立つ」
咲さんに手を貸してもらい立ちあがる。ここだけの話、寝っ転がった時にパンツが見えていたのは秘密だ。
それから僕もトイレで用を済ませ、リビングに戻ってからちゃんと咲さんにお礼を言う。
「そ、そう。それで具合は良くなったの?」
咲は毛布に包まりながら訊いてきた。
もうお昼だって言うのに、家の中で毛布に包まる。彼女はその姿がまるであたりまえのようにやっていて、それだけで、今まで友達がいなくて引きこもっていたんだと十分なほどに伝わった。って急に僕はなにを考えているんだろう。
「はい、もちろん。ただの脱水症状だって――」
誰が言ってたんだっけ? 自分? いや、僕は寝てたからそんはずは……。
「なによ? 脱水症状だったってわけ?」
「え、ああ、そうなんです! たぶん元がアサガオだからじゃないかなーって思うのですけど、それで夜、布団で寝たから乾いちゃったんだと思います」
だからあの咲さんの看病もあながち間違いではなかったのだと言える。それでも二度とあの地獄攻めはくらいたくないけど。
そんなことを考えていると、咲さんが黙ってしまい、毛布に包まったまま少し震えているのがわかった。
「ど、どうしたんですか?」
夏だから寒いってわけでもないし、特に怒らせるような真似はしていないから、武者震いでもないだろう。
それじゃあなんだ?
不思議に思い、毛布に包まる咲さんの顔を覗こうとした時、咲さんは急に顔を上げて言った。
「心配……したんだからね……すごい……」
その顔は笑っていながらも涙で溢れ、鼻を真っ赤にしながら毛布を濡らせていた。
「ど、どうしたんですか急にっ! え、え~と、まずティッシュ! へい、ティッシュ!」
なにがどうなったのかまったく理解できないまま、咲にティッシュを渡すと、涙を拭い鼻をかんだ。
そして、次に顔を上げる時にはいつもの咲さんが戻っていた。それは一瞬のできごとで、彼女が唯一見せた弱いところ――まるで幻かのように見えた。
……あんな咲さん、初めて見た。まだ一日の付き合いだろう、と言われてしまえばそこまでなんだが、涙を流すということ自体、一般的にそうそう見ないものだ。そういえば、僕が項垂れている時もすごく心配してくれたし――とそこまで考えていると、咲さんが僕のズボンを引っ張っていることに気付く。
「うん? どうしたんですか?」
「はい」
咲が笑顔で涙とかでくしゃくしゃになったティッシュを僕に渡した。
「嫌ですよー! 汚い! 自分で捨ててくださいよ!」
だがすぐに突き返す。
「な、なによ! 私は朝顔の看病してあげたっていうのに、あなたは私のゴミも捨ててくれないの?」
「だってゴミって言ったって結構ハードル高めのゴミじゃないですか。それに乾いているならまだしも濡れてますし……」
「な――っ! もういい! じゃあ、こうしてやる!」
そう言って、咲さんは立ちあがり、ティッシュを僕の顔に押しつけてきた。
「うわっ、汚なっ! もう立ったんだったら自分で捨てましょう!」
そんな問いかけにも答えず、咲さんは僕にティッシュを投げつけてくる。その笑顔はいつもよりも楽しそうで、さっきまで泣いていたのだろうか、と自分でも疑ってしまうぐらい屈託のない笑みだった。
そして、その日から僕はお風呂場の浴槽に浸かって寝ることになった。これなら寝ている間も水分とれるから大丈夫と咲さんが胸を張って言ったが、僕的には裸で浴槽で寝るなんてまるで殺人現場みたいだからかえって落ち着かなくいまま二時間は寝れなかった。
もちろん、入浴剤は入れないよ。
ユウチュウブを見た人はわかってるとおもうけど、
ワンピースで新のヒロインは『ペローナ』だと思う、この頃。