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魚人転生者と召喚被害者  作者: 浩太郎
1章 魚人転生者 エルゲントス王国 王都ロルー
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007 街歩きの罠

「今後の予定について、少し見直しませんか」


 ソファで一息ついたところで、向かいに腰を下ろしていたサー・エセルバートが声をかけてきた。

 当初馬車の中で相談していた予定は、こうだ。


 1.魔道具を購入する。もしくは製作を依頼する。

 2.魔道具が手に入るのを待っている間に、

  2.1.情報提供依頼を出す。

  2.2.旅の準備をする。

 3.魔道具を受け取ってから旅に出る。


「見直しというと……」


 転送陣の利用も、辻馬車の利用でも、特に時間をとられていない。今は昼さがりで外出を見送る時間でもない。


 さて、どこを見直す必要があるだろうと首を傾げ、自分の格好に気づいた。


 アレイスタは、一昨日から同じものを着ている。首まで覆う黒のドレスに、顔をうっすら覆う黒いレースのついた帽子。そう、彼女は喪服のままだった。移動には適さないので着替えようとしたのだが、このままでと押し切られてしまった。サー・エセルバートは着替えたくせに。

 それが、犬猫に揉まれて毛まみれ、よだれでぐちゃぐちゃだ。なんか妙なにおいもする。宿の従業員が洗濯屋に出してくれると言ってくれていたから、着替えてお願いすればいい。


「すみません、着替えますので、少し待っていていただけますか」

「いえ。そうではなく。

 服を新調しませんか」

「……?

 なぜでしょう?」


 洗えばきれいになるはずだ。それに、他にも服は持ってきている。


「気分を悪くしたら申し訳ありませんが、貴女はあまり外に顔を出さない方がいいでしょう。

 他に顔を隠せるようなものがあればいいのですが……」


 隠せば少しはマシでしょう、そう言ってアレイスタの方を伺う様なまなざしを向けてきたので、彼女は首を横に振った。


 そもそも、なんで顔を出したら不味いんだろう?


 怪訝な顔をしていたのがわかったのか、彼は少し言いよどんだ。


「貴女は魅力の力が強すぎます。

 危ないかもしれないので、あまり顔を出さない方がいいかと」

「……はあ。

 その、よく分からないのですが……」


 透子は、もちろんそれを知っている。そういう風に『アレイスタ』を作ったのだ。しかし、それで街中で問題が起きるようなことはなかった。ついでに、道中敵に遭遇してもほとんど役に立たなかった。対処したのはサー・エセルバートである。どれだけ、魔法か剣かに偏らせて作ればよかったと後悔したことか。倒したら仲間にすることもできるとわかってからは、特に。


「私は、スキル[力量把握]を持っています。

 あなたは、自分のステータスを確認できますか?」

「いえ、まだ……」


 そうですか、と頷いたサー・エセルバートは、貴女の魅力の値は、少しありえないくらい高いんですよ、と苦笑した。


「そのままだと問題が起きやすいのではと案じています。

 先ほどのように、犬猫だけで済めばいいのですが」

「……」


 魅力は、いわゆる『敵』、モンスターにしか影響を及ぼさないはずだ。ましてや街中でなど。それにステータスは、戦闘行動の出来るフィールドでしか効果がないものだ。魅力が高かろうが低かろうが、村人から得られる情報が変わらないのと同じである。


「服を買うだけなら、大して時間はかかりませんよ。

 魔道具ができるまでの間でしょうし」


 何かあったら危ないでしょう?


 にっこりと笑われて、アレイスタは、頷いた。反対するほどのことでもないというのもあるが、何回も繰り返した結果この笑顔に勝てる気がしなくなってきたのだ。





 ナンパ2回、養女にならないかとの誘い3回、人買いによる誘拐未遂1回、迷子に懐かれること1回、荷物引きのロバに甘噛みされること1回。


 服屋や雑貨屋が軒を連ねる界隈に着いたころには、アレイスタもなんとなく事態を理解した。どうやら、ステータスは街中でも影響を及ぼすらしい。というか、町だからとか、そういうのは関係ないのかもしれない。リアルだとしたら当然か、とアレイスタは納得した。普段着に着替えたとはいえ、ちぐはぐながら顔を隠すために喪服の帽子はかぶったままだったのだけれども、30分弱で着くと聞いていた道程に1時間ちょっとかかった。


 ちなみに誘拐犯は、放してくださいとお願いしたら放してくれた。いい人で助かった。もっとも、途中でサー・エセルバートが走っている馬車に乗り込んできたのが怖かったのかもしれない。正直、アレイスタも怖かった。なまはげかターミネーターかと思った。


 古着屋で適当に買った頭巾フードつきショールを巻いて深くかぶり、かつショールの襟元を引き上げて、アレイスタは頭を下げた。


「……ご迷惑をおかけして、すみませんでした」

「いえ、何事もなくてよかったです」


 すっと出された腕につかまった。浚われたあたりで、危ないからと腕を組むことになったのだ。断ったが無言の圧力に屈したアレイスタは、体格の違いから抱っこちゃん人形に見えるだろう自分を想像して情けない気分を味わった。


「魔道具を商っているような商店は、またちょっと離れた場所にありますから」


 そう説明しながら辻馬車を捕まえたサー・エセルバートに促され、アレイスタはまた馬車に乗り込んだ。


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