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魚人転生者と召喚被害者  作者: 浩太郎
序 魚人転生者 はじまり
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002 問題の1つめは、頑張ってもムダだったってこと

 さて、問題の1つめについて言及したい。


 問題の1つめは、この世界が、透子のやっていたゲームそのままだということ。それが何故問題になるかと言えば、透子の設定したキャラクターと、ゲームに対する態度にある。





 アレイスタは魔法――レベルによって魔術だったり魔導だったりする――が苦手である。呪文は噛むし、魔法陣は間違う。どれだけ練習しても上達しない。魔力は程々に高い値だが、博士からは「なんていうか……人には向き不向きがあるから、落ち込むのではありませんよ」と生暖かい視線を向けられた。

 ならばと武器の扱いはというと、こちらもさほど上手くない。アレイスタは体格にあまり恵まれていないため、当たっても威力が見込めないのだ。では手数を増やせるかと言うと、普通に60代の博士に負ける。博士は「私もさほど得意じゃないけど、人よりちょっとはマシよ」と苦笑を漏らしていた。

 つまり、彼女はどれだけ頑張っても、魔法も武器も普通に届くか届かないかといったところ。座学、特に理数科目は博士も訝しむ優秀さであったのに、努力しても進歩がないという事実は、彼女のプライドを傷つけた。自分の不甲斐なさに枕を濡らした夜も、1度や2度でない。


 思い出し、そしてわかったのだ。アレイスタは、透子が設定したキャラクター『アレイスタ・ゴメス』の、アバターどおりの容姿を持っている。赤銅色の髪に碧眼というクリスマスカラーな配色。見かけ上ハイティーンな身体。おそらく能力もゲームに準じたものだろう。上達しない道理である。透子は、アレイスタを、魔法にも武器にも特化させなかった。透子がアレイスタに設定した特徴は、魔法でも武器でもない。


 「魅力」である。



 そもそも、透子にはゲームをやる習慣がない。今回は、甥っ子がやりたがっていたから付き合っただけというのが正しい。クリスマスに携帯型ハードにソフト、周辺機器をそれぞれ2人分買った時は総額に少し気が遠くなったが、まあ親類縁者がいなくてお年玉を見込めないのだからたまには、と奮発した。透子は甥っ子に甘い。


甥っ子が欲しがったゲームは、透子は知らないがいわゆるMMORPG(多人数参加型オンラインRPG)の一種だった。

 --剣と魔法の世界。ネット上に開かれた世界で、ユーザはモンスターを退治したり仲間にしたり戦争をしたり、さらには猟師になったり教師になったり生産者になったり、喧嘩したり生活したりしつつ、イベントやクエストをこなす、らしい。政治家や官僚、外交官といった国に雇われるような難しい職にはつけないという縛りがあるが、それでも活動の自由度は高い、らしい。また、キャラクターのアバターや能力値、操作性の設定などについても自由度が高かった、ようだ。そしてその分、難易度が高いイベントやクエストも多い、と聞いている。なぜならオンライン上のイベントやクエストの発生条件は、ステータスと関係なく設定されている場合が多いらしいのだ。オンラインで始めた途端にレアモンスターにあたることもあれば、どれだけ強くても遭えないこともある、とのこと。それがこのゲームの魅力でもあり、だからこそこのゲームの真価はオンライン上にこそある……。


 と、いうようなことを透子は甥っ子に聞いた。気がする。伝聞系ばかりなのは、まあそんな理由である。

 が、正直細かいことはどうでもいいので、彼女は甥っ子の熱い言葉を聞き流したのだった。世界中で何億人が遊んでようと、透子は受けとった甥っ子が喜べばそれでいいのだ。そんなわけで細かいところは記憶が間違ってるかもしれない。ちなみに、必死に言葉をつむぐ甥っ子も可愛かった。


 初心者をあまり意識しない作りなのだろう。キャラクターのステータスやアバターも甥っ子に大分助けられながら設定したのだ。

 しかも、甥っ子の助言を聞き流しつつ。



 −− 魚人にするの?


 −− うん、魅力を高めればボコさず仲間に出来るみたいだから。

   魚人が1番魅力高いからさ、むんむんなねーちゃんにするの。


 −− 攻撃手段もあった方がいいんじゃない?

   魔法が使える様に、もうちょっとこっちに割り振らないと。


 −− んー、じゃあ、魔法じゃなくて、これがいいな。

   二刀流。


 −− ……とー、魚人は前衛には向かないよ。


 −− いいの。

   ちまちまやるのは趣味じゃないから、とにかく剣でぶっこむから!


 −− ……僕、剣士にしちゃったけど。

   一緒にやるならバランス悪くない?


 −− 2人で突っ込めばいいじゃん。


 −− ……早く転職するから。

   それまで待ってて。


 −− ?うん。

   あ、ひーちゃん、もっとおっぱい大きくして。

   こう、エロい感じで!


 −− とーはこんなもんだよ。


 −− なんだとう!?



 ……ああ、ひーちゃん、なんでもっと止めてくれなかったの…!


 実際わが身となってみれば、もっと種族特性に合わせて設定すればよかったとか、バランスをとればとか、適応属性を特化させればよかったとか、やっぱりおっぱいは大きい方がよかったなとか、山のように後悔しても後の祭り。この通り、種族特性無視でバランスが悪く、適応属性貧乏なアレイスタが出来上がっている。


 そんな感じで始めたゲームだったが、透子はあまりゲームにのめり込まなかった。

なにしろ、コントローラを自由に操ることもできない透子である。チュートリアルさえてこずった彼女は、途中から完全に放置していた。ゲームのタイトルさえあやふやだ。たしか、スキル?のレベルが一定に達するとスキルが成長し、カンストして転生するとレベルの上限が増える、んだっけ?進化するんだっけ?どうだったかな?と、朧げにしか覚えていない。なにしろ、透子には遠い世界だった。


 それでも、甥っ子の手前、じわじわとオフラインで――オフラインのストーリーパートもあるのだ――イベントで話を進めつつクエストをこなそうと頑張り(努力はした)、レベルが上がるたび与えられるボーナスポイントを「魅力」絡みのスキルに割り振り。ようやく、スキル[美しければそれでいい]から、スキル[美しさは罪]に成長させたところだった、のだが。


 ……こんなことになるとわかっていれば、もっと役立つスキルにしておいたのに。

 アレイスタになってからどれだけ頑張っても、魔法も剣も上達しない訳である。


 後悔先に立たず。


 アレイスタは、その言葉をしみじみと噛み締めた。

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