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魚人転生者と召喚被害者  作者: 浩太郎
1章 魚人転生者 エルゲントス王国 王都ロルー
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009 もうちょっとなんとかしてください

 アホなことをやって時間をつぶしたが、3職人とアレイスタも、栗鼠嬢とサー・エセルバートの座っている応接セットに着いた。

 お誕生日席に着いていた栗鼠嬢が、にっこり笑って紅茶と焼き菓子を薦めてくれる。美味しい。生活水準があまり変わらないのは素晴らしいことだ。

 高い窓から入ってくる風が心地よく、市場の喧騒がかすかに聞こえてきた。


「……さて、じゃあ、改めて話しを進めさせていただこうかね」


 軽く咳払いをしたイムホテップの声に、アレイスタは姿勢を正した。


 魔道具というのは、特に量産版でないものは、非常に高価なものだ。

 量産版は、家電のような扱いで庶民層にも馴染んでいる。が、それも服でいうならプレタポルテ。一般庶民から見れば高い。

 それが量産版でないとどうなるか。アレイスタは値段に検討もつかなかった。株やダイヤモンドのようなものだろうか、とは思う。思いはするが、いずれにも馴染みのないアレイスタや透子には相場がまったく分からない。

 ただ、ふざけていいものでもないだろう、という認識だ。


 そんなアレイスタに、席に着いたメンバーが軽く苦笑した。イムホテップが言葉を続ける。


「はじめに、全体の流れと、今日の打ち合わせの流れ、この2つの進め方を決めませんかね。

 まず、我々がよくやる決め方を説明させていただきたい。

 問題なければ、今回もその流れにしたいと思っとります」


 いかがかな、というイムホテップに、サー・エセルバートを少し見る。彼はあまり話に口を挟むつもりはないようだった。普通に茶を飲んでいる。

 私に決めろということかな、と頷く。


「はい。

 流れを教えていただけますか」


 イムホテップが説明してくれた流れは、こういったものだった。


 全体の流れとしては、最短で3回の打ち合わせが必要。


 1回目(今回、無料)。

 依頼者が要望を伝える。

 要望というのは、効果や利用イメージ、利用タイミングといったものの他、作成期間や値段。

 要望を聞いて、職人たちは実現性検証を行い、見積もりを作成する。

 見積もり作成は一律300ルラン。

 この段階で実現が難しそうだったら、職人はそう伝えるので、見積もり依頼しないほうがいい。


 2回目(大体1週間以内)。

 見積もりを元に、依頼者の要望と条件のすり合わせをする。

 ここでGOサインが出たら、職人は作成に取り掛かる。

 この後3日以内に、依頼者は前金を支払う必要がある。


 3回目。

 作成された魔道具を依頼者が確認する。


「……いつもは、こういった流れです。

 どうですかな」


 正直、時間はかけたくない。それに、見積もりにかかる値段を言われてもよくわからない。普通はどれくらい時間がかかるのか、人件費がどれくらいか、技術料がどれくらいか。相場がわからないし、こういった場合に値切るものかさえ判断できなかった。

 確か、博士と2人、1週間分の食料を届けてもらうのに、レネ爺さんにお礼の食事と手間賃の30ルラン、食料代の150ルランをミス・リップに払っていた。確か透子の時は、一週間で1万円から2万円くらい食費にかけていただろうか。…からまあ妥当そうだと思う。思うがよくわからない。


 よし! とアレイスタは決めた。


 考えてもわからないので、考えないでいいだろう。何かあったらサー・エセルバートがケチをつけるんじゃなかろうか。茶をすすってるのだからそれくらいしてくれてもいいだろう。あんまり時間がかかるなら旅先に送ってもらってもいい。


 にっこり笑ってうなづく。


「その進め方で問題ありません。

 本日はよろしくお願いします」



 視界の隅で文字が踊る。

【検討事項をスルーしました】

【今までスルーした検討事項の通算が300になりました】

【スキル[不見、不聞、不言スリー・ワイズ・モンキーズ]を取得しました】



 ……見えない、見えない。


「ありがとうございます。

 あとは、今回の打ち合わせで、要望の魔道具の性質に合わせて担当者を決めたいと思っております」


 この場にいる3人は得意分野が違うのでね、と 髭をなでながら頷いたイムホテップの言葉を、ステフェン・スクルドが継いだ。


「ホップは武器、エセルバート卿の持ってる武器なんかは彼が面倒を見てる。

 僕は防具で、ジャンプは何でやるよ」


 なんとなく、人物と得意分野が合ってない気がしたが、アレイスタは口には出さなかった。

 いかにも穏やかな幅広さんことイムホテップは攻撃的でないし、軽いおどけた雰囲気の背高さんことステフェン・スクルドは守りになど入りそうにない。ツンデレ小柄なジャン・ポールは要領が悪そうだ。ただ、彼は器用貧乏というとしっくりくるかもしれないが。


 ちなみに、と笑って目の前のステフェン・スクルドが続けた。ばちん、と気取って片目をつぶって見せる。


「君が所有することになった、ロザリア博士の『お下がり下郎!01号』は僕の作品だよ。

 大事にしてね」


 ……聞き間違いだろうか、とアレイスタは思った。


「はい?」

「魔道具だよ、銀色の懐中時計の形をした」


 なるほど、OSGGR-01という型番は、そういった意味だったらしい。

 亡くなった博士のを容貌を思い浮かべたアレイスタは、似合っていると頷きそうになったのを押さえ、あいまいに微笑んだ。


 日本人的なお茶の濁し方でで何が悪い、と思う。大丈夫、視界の隅で文字が踊っても気にしない。無難な人生万歳。


「……実は扱い方がよくわからないので、後で教えていただけますか?」

「了解しました、お嬢様」


 おどけた仕草で笑ってみせるステフェンに、お願いしますと頭を下げた。

 話が進んでいる間に、ちょっと考えた風のジャン・ポールが、お弟子さんの1人を呼んで指示を出した。お弟子さんがなにやら機材を運んできた。小さな水晶玉がつながっている箱と、ペンのようなもの。これも魔道具だろうか。


「では、要望をお聞きしましょうか」

「はい。

 私は、同胞を探すために、旅に出ようと考えています。

 それで、身を隠すための魔道具を」


 持っておけとサー・エセルバートに言われました。とは言えない。

 と、サー・エセルバートが口を挟んだ。


「……その、彼女のステータスを見ながらにしませんか」


 示された通りにアレイスタが水晶玉に手を置いたら、箱のようなものから光が飛び出し、壁に文字が映し出された。なるほど、この魔道具は映写機プロジェクタ的な使い方をするものだったらしい。では、あのペンのようなものは指示棒ポインタのようなものだろう。



 ステータスを見た人々は、特に何も言わなかった。

 たぶん、彼らはすでに知っていた。ただ映し出したほうがズレもなくなるし、アレイスタも参加できるから都合がよいと判断したのだろう。


 ……と、思ったのだが。


 正直、ステータスを見たのが初めてのアレイスタも、ゲームをやらない透子も、見てもなにも分からない。だって平均を知らないのだ。せいぜい、自分のステータス内で、これが高くてこれが低いんだなーということしか分からない。


 誰か解説してくれないかな、とちらりと視線を上げる。


 壁近くに座っていたイムホテップとサー・エセルバート、栗鼠嬢は壁の文字を見たまま、目の前に座っていたステフェン・スクルドがなんか目をそらした。横のジャン・ポールを肘で突いている。ジャン・ポールは嫌な顔をして身じろぎしていたが、アレイスタが見ていたことに気づくと軽く咳払いをした。


 この時点で、どうやら彼らは、アレイスタにステータスの説明をしたくなかったのだ、と気づいた。


 じっと見ていると、アレイスタの視線に負けたらしいジャン・ポールが、困った顔をして口を開いた。


「ええと……。

 魅力と……運、を。

 何とかしたほうがいいんじゃないか」

「……やっぱりそう思いますか」


 サー・エセルバートが同意の声を上げた。


「普通に生活を送る分には、なんとかならなくもない……かもしれないがね。

 お嬢ちゃんは、1人で旅をする予定なんだろう?

 なんとかしといた方がいいだろうなあ」


 イムホテップが、髭を撫でながら同意した。

 ステフェン・スクルドが、うんうんと頷く。


「誰かしら一緒にいてくれればいいけどねえ。

 1人だと寄ってくる面倒ごとを回避するのもしんどいんじゃないかなあ。

 本当は、何か攻撃手段も作ってあげたいけど……」


 腕を組んで、イムホテップがうめく。ちらりとジャン・ポールを見ながら。


「……これは、ちょっとなあ……。

 もうちょっと、なんとかならねえか」

 

 サー・エセルバートが頭を下げた。ジャン・ポールに向かって。


「すみませんが、もうちょっとなんとかしてあげてください」


 ステフェン・スクルドが同意した。ジャン・ポールを見ながら。


「僕も、もうちょっとなんとかしてほしいなあ。

 『お下がり下郎! 01号』はそこまで頑丈にできてないんだよ。

 あんまり頻繁に使われたくないなあ」


 ジャン・ポールがわめいた。


「お前はもうちょっと頑丈に作っておけよ!

 それに、なんで全部オレに言うんだよ!」


 すみません。

 なんだかよくわからないけど、もうちょっとなんとかしてください。


 でも、どうやら担当はジャン・ポールに決まりそうだというのは、アレイスタにもわかった。

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