001 色々思い出しました
「!」
アレイスタは跳ね起きた。いつもの室内が視界に映る。薄暗いから、まだ夜明け前なのだろう。どくどくと激しく脈打つ胸、頬にかかる赤毛、段々と冷える汗に、醒めてきた体が冷たい。
「……もっと……」
震える両手を動かし、ゆっくりと顔を覆う。
「……もっとレベル上げておけばよかった……!!」
吐息混じりに吐き出したあと、そういう問題じゃないと気付いた。
アレイスタ・ゴメスは魚人族の雌性体、孵化してから6年になる。群れには属していない。海流に乗った卵が、海洋学者ロザリア・ゴメス博士の水質調査用の仕掛けに引っ掛かったのだ。以後、育ての親である博士と、この離島で2人暮らしをしていた。1週間前まで。
山下透子は人間の女性体、享年32才。結婚はしていないが時流など関係ない安定した企業に属していた。甥っ子と2人暮しをしていた、のだが……。さて、どれだけ前のことか。
その両者がどこでつながるかといえば。
アレイスタは今朝方、自分にもう一人分の記憶があることを知った、いや思い出したのである。山下透子のものだった。性格があまり変わってないためか、記憶が増えても違和感はない。2人分の記憶はY字の様に混ざりあって、現在の彼女に続いていた。だから、あること自体はいい。普通の女性の記憶だから、あっても邪魔にならないものとして無視できる。
ただ、思い出した山下透子の記憶には、2つ問題があった。
問題の1つ目は、この世界が、透子のやっていたゲームそのままだということ。
問題の2つ目は、透子と甥っ子が、召喚被害者だったのではないかということである。